3 現状把握
私が物思いにふけっているとルイーザさんが再び怒鳴った。
「いつまでウダウダやってんだい!!とっとと帰んな!!」
「えっと・・・私はどこに帰ればよろしいのでしょうか?」
「まだ酔ってんのかい?アンタの部屋はこの店の2階の角部屋だろうが!!10年近く住んでるのに、部屋を忘れちまったのかい?うちの旦那が無理して勇者パーティーに推薦したんだから、ちっとはしっかりしておくれよ・・・・」
「あっ、ああ、そうでしたね。申し訳ありませんでした」
「今日はえらく素直だね・・・」
とりあえず、「ルイーザの台所」の2階の角部屋に行ってみた。ドアに鍵は掛かっておらず、すぐに中に入ることができた。後日聞いた話だが、このドアは魔法でオートロックされる仕組みで、私とマスターキーを持っているルイーザさんとその旦那さんしか開けることはできないそうだ。
部屋に入ると思いのほか整理されていた。武器も防具も手入れが行き届いていた。また、机の上には日記が置かれていて、中を見てみると討伐した魔物の種類や数、戦闘やクエストの反省点、今後の目標などが事細かに書かれていた。
クリスは傲慢で見栄っ張りで、すぐに人を見下す性格だと思っていただけにびっくりした。実際のクリスは真面目な努力家だったのかもしれない。
一通り部屋の中を確認した後、私は今後のことについてどうするか真剣に考えた。部屋の中にあった新聞を見たり、クリスの日記などから勇者パーティーの発表は今から半年後ということが分かった。それまでに発生したイベントを書き出していく。
勇者選定の儀 → 兄弟イベント → 勇者確定 → 勇者発表セレモニー → 勇者パーティーの発表
こんな流れだ。
まず私が転生したFFQ4の世界だが、当時としては画期的な、主人公選択制を採用していたのだ。
主人公はロトリア王国の2人の王子と王女の3人の中から一人を選び物語がスタートする。勇者発表セレモニーの日付は確定しているので、そこから逆算すれば、おおよその時期は分かる。勇者の選定は多分、勇者発表セレモニーの約1ヶ月前だろう。これも注意して観察すれば分かると思う。
まず、私が考えた作戦は、今いるアリレシアを抜け出して、名前を変え、別の町でひっそりと暮らすというものだった。つまり、勇者パーティー発足時にクリスというキャラがこの町にいないことで、クリスが物語の本編に登場することを回避するのだ。
「よし!!この作戦でいこう!!」
猶予は半年ある。それまでに自分を鍛えて他の町でもやっていけるだけの戦闘力を身に付けよう。
というのも、このロトリア王国は比較的弱い魔物しか出現しない。ゲーム上の御都合主義だろうが、製作者サイドの説明としては、「ロトリア王国は魔族領と距離が離れているので弱い魔物が多い。魔族達の侵攻がないからこそ、勇者パーティーを編成する余裕があった」とのことだった。
まあ、その辺は置いていおいて、私は移住先の選定を始める。
私はレベル20で成長が止まるので、レベル15位で余裕で暮らせる場所を探す。
「そうなるとレートランド王国かな?そこなら、勇者の選択によっては、勇者パーティーが立ち寄らないこともあるし・・・」
現在の私のレベルは9だ。どこか別の国に移住するにしてもレベルが足りないし、資金も必要だ。計画としては、半年間でレベルを上げられるだけ上げて、資金を貯める。そして、最高級の武器防具を購入すれば、この計画は成功するだろう。
半年で最低限レベルを12~13に上げればいいだけだから、結構簡単かもしれない。
そうと決まれば、後は実行に移すのみだ。幸いクリスが日記に戦闘記録や素材の採取スポットを細かく書いてくれていたので、実際に何度か戦闘をしてみて感触を確かめよう。ゲームではコマンドを入力するだけだったが、実際に剣や魔法で戦うというのはどんな感じだろうか?
命の危機に瀕している私だが、ゲーマーとしての血が騒ぎ、ワクワクしながら町を出て、初心者用のレベリングスポット「はじまりの森」に向かった。
出現する魔物は定番のスライムや大ミミズだった。最初はかなり戸惑ったものの、2~3回戦闘したところ、剣や魔法も使いこなせるようになった。
そこからはまさに無双状態だ。それはそうだろう。レベル1~3辺りが適正レベルなのにレベル9もあれば、余裕過ぎる。ダメージは受けないし、何なら素手で殴りつけるだけで倒せてしまうのだ。
それに今回は肩慣らしだから、思い切って唯一使える中級の攻撃魔法を連発する。
「切り裂け!!風刃」
風刃は風弾の上位互換で、ロトリア王国近辺では、この魔法だけで無双できるのだ。間違ってもスライムや大ミミズといった最弱の魔物に使うような魔法ではない。
あっという間に魔物が無残に切り刻まれていく。オーバーキルだ。
そういえばゲームでは偶にやっていたな。
MPの無駄遣いだけど、「俺強ええ」感を味わえるし。
でも実際にやってみると結構気持ちいいかもしれない。
しかし、私の戦闘を見ていた駆け出しの冒険者達には、かなり引かれてしまった。
「今日のクリス姐さんはヤベえ」
「本当だ、目も逝っちゃってる」
「素手で殴り倒した後に中級魔法で惨殺だって・・・あれじゃあ、素材も取れないだろうし、何考えてるんだか」
「やっぱり、あまり関わらないようにしよう」
このとき、私は心に誓う。もう二度と厨二病的なオーバーキルはしないと。
★★★
転生してから3日が過ぎた。レベルはまだ上がっていないが、冒険者ギルドで討伐クエストを受けたり、素材を採取して買い取りをしてもらい、資金は順調に溜まっていった。
クリスは資金管理もしっかりしていたようで、出納帳も細かく記載していた。しかし、収入の割に残金が少なすぎる。500ゴールドしか手元になかった。かなり無理をしたとはいえ、この3日間で100ゴールドを稼いだことを考えると一体何に遣っていたのだろうか?
この部屋の月々の家賃が300ゴールドなので家賃を払えば、ほとんど手元に残らない。
まさかギャンブル?
ゲームではたびたびクリスがギャンブルの金をせびるシーンがあったし、実際に何度かゴールドを抜き取られるイベントもあった。ゲームをプレイしていた当時、私の兄が「苦労して貯めた金をギャンブルに突っ込みやがって!!クリス、絶対に殺す!!」と叫んでいたのを思い出した。
しかし、真面目で几帳面な性格のクリスがギャンブルに手を出すとは思えない。きっと何か理由があるはずだ。そう思い、クリスの日記を読み始めた。
「ああ、なるほどね・・・・・」
本当のクリスはゲームのような嫌な人間ではなかったのだ。
「これじゃあ私、この町から出られないじゃないの!!」
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