27 人手不足解消 2
「あのクソ狸!!やりやがったな!!」
私は我を忘れて叫んでいた。
トンネル掘削事業は深刻な人手不足に陥っていることから、国に作業員の募集を掛けてもらっていた。国がやることだから、結構時間が掛かると思っていたが、狸獣人の宰相が迅速に対応してくれた。
確保できた人員がいる場所に行ってみると驚いた。なんと刑務所だった。
しかも刑務所の至る所から煙が上がっているし、刑務所の周りを騎士団が包囲している。
私は騎士団の代表者に話を聞く。代表者は副団長だった。
「えっ!!作業員の募集に来た?増援部隊ではないんですか?
多分情報が錯そうしているように思います。まずはこちらの事情から話しますね」
副団長の話では、ここにドーラとその配下併せて200名近くが収容されていたのだが、暴動が起き、看守が人質に取られている状況らしい。突入しようにも騎士団長のマッシュとエースだったリンダが抜けて、騎士団の戦力はガタ落ちで、下手に突入すると被害が大きくなるので、包囲して投降するように勧告しているとのことだった。
ゲームでは、ドーラは拘束されても脱獄を繰り返していた。兄と二人でこの世界の警察や刑務所は終わっていると言っていたが・・・・・。
そりゃあ、そうなるだろうよ。ドーラとその手下200人を一遍に同じ施設に収容したら・・・・。
それに現地に作業員となる候補者を集めておいただと?騎士団が何もできず、取り囲んでるだけじゃねえか!!
ドイツもコイツも狂ってやがる!!
「今度会ったらあの狸、鞭打ち刑にしてやる!!」
「そうですよ。狸獣人は腹黒いクソ野郎がばかりですから」
「狸獣人は陰険な奴ばっかりで、嫌いなんですよ」
キツネとタヌキ、仲が悪いようだ。
「それはラクーンさんには言わないようにね」
「もちろんです。ラクーンさんはいい人です。凶暴な熊が側にいますけど」
「凶暴な熊を飼い慣らすなんて、尊敬します」
「あっ!!ルイーザさん」
「「うわ!!」」
「嘘だよ。人の悪口は言わない!!私もちょっと反省するわ」
冗談はさておき、私は副団長にこちらの事情を説明する。
「なるほど・・・・こちらは、増援部隊が来ると言われてたのですがね。話を聞くに多分、宰相のお得意の二枚舌ですね。もうスキルと言っていいくらいです」
「まあ、そちらは暴動を鎮圧したい。こっちは作業員を確保したい。利害関係は一致してますね・・・リル、リラ!!ちょっと探ってきてくれる?」
どうするか?の前にまずは、情報収集だ。
しばらくしてリルとリラは偵察から帰ってきた。二人の報告によると看守達は無事で、全員が東の塔に監禁されているらしい。見張りも満遍なく配置されていて、組織だっているみたいだった。それに出入口には即席のバリケードを設置しており、潜入には苦労するとのことだった。
二人は地図をすぐに作成し、看守が監禁されている東の塔、見張りの配置状況などを書き込んでいく。
こんなところは本当に優秀なんだけど、どこか残念なんだよな。
「あっ!!そう言えば、奴らトンネルを掘ってましたよ」
「会長は奴らのトンネルを掘る技術に目を付けて、ここまでスカウトに来たんですね」
まあ、二人が残念なのは、そういうところだ。
「確認ですが、我々がここで包囲しているだけでは、いずれ逃げられてしまうということですね?作戦を練り直さなければ・・・」
副団長が困った様子で話始める。
「乗りかかった船ですから、私達もお手伝いしますよ。まずは収容者リストがあれば見せていただけますか?」
★★★
確認したところ、ドーラ以外の戦闘力は大したことはないみたいだった。強力な女親分と200人の手下、一言で言えばそんな感じだ。受刑者は全部で2000人弱、そのうちの半数以上がドーラ一家に従って暴動を起こしているらしい。
一方こちらの戦力は包囲している騎士団が約1000人。ヤマダ商会の関係者の私、ライラ、リル、リラと
アイリス、クリストフ、バーバラ。それにサマリス王子とムリエル王女、ケルビン翁を筆頭にサマリス王子達の護衛が10人。
以上がこちらの戦力だ。
因みに私達は、騎士団員と護衛の10名を除き、全員がレベル20以上だ。サマリス王子もムリエル王女も地獄のレベル上げを経験しているし、アイリス、クリストフ、バーバラはナチュラルにレベル20を超えていた。それにケルビン翁にあってはレベル30越えだ。
もっとレベルを上げれば、普通に魔王を屠れるメンバーだ。刑務所の制圧も人質を気にせず、皆殺しにしていいのなら余裕だろう。
私は提案する。
「人命最優先で考えましょう。私に考えがあります。ざっくり言うと、正面突破します。そこに注意を引き付け、その間に人質になっている看守達を救出します。人質を救出してしまえばこっちのものです。このメンバーなら間違っても負けることはないでしょうし。
それとヤマダ商会の新製品を皆さんに提供させていただきますね」
まず、メンバーに配ったのはスタンガンを応用した電撃魔法を付与した武器だった。タイプは剣型、槍型、鞭型の3種類だ。殺傷力はないが、一般人相手には効果は絶大だ。当たれば痺れて動けなくなる。
開発はもちろんライラが中心になってやってもらった。開発に至った経緯だが、ムリエリアの治安維持のため、ヤマダ商会の子会社として警備会社を設立することになり、その警備員用の武器として開発したのだ。
まあ、私も開発には乗り気だった。対人戦で「女帝の鞭」や「ミスリルの鞭」を使えば、殺しかねないからね。
「それじゃ、正面突破する班と人質救出班に分けましょうか?私は鞭使いだから、なるべく広いところで戦いたいから正面突破する班かな、リルとリラは救出班で決定だし・・・・」
そんな話をしていたところ、バーバラとクリストフが騒ぎ始めた。
「姫様!!絶対に作戦を無視して一人で突撃してはなりませんぞ!!姫様は後方で大人しくしておいてくだされ」
「私が回復魔法を掛けるからといって、危険なことはしないでくださいね。本当に心配してるんですよ。間違っても『大将と一騎打ちする』とか言わないでくださいね」
「しないよ!!そんなこと・・・」
アイリスは苦笑いしている。
そして、小声で私に言ってきた。
「転生してからずっとこんな感じなんですよ。なんか逆にやらないといけないのかな?って思うようになってしまって・・・・。そして気付いたらレベルも結構上がってたんですよね。それにケルビンさんでしたっけ?
あの怖そうなおじいさんも『我は、弟子はとらん主義だ!!だがその心意気は買ってやろう。とりあえず剣を持ってかかってこい』なんて頼んでもないのに言ってきて、それから毎日、仕事終わりに特訓させられてるんですよ。
ちょっと異常ですよね?」
確かに異常だ。何か大きな力が働いている気がする。今回の件もかなりおかしい。ゲームにはドーラが刑務所を占拠するなんてなかったし、あったとしたら、勇者パーティが対応するような事案だ。そう考えるとこの世界のシステムは私達を勇者パーティーと認識しているの?だったらダグラス達は何になるの?
考えたところで分からない。ただ、注意しておいたほうがいいのは間違いないだろう。
「姫様!!どうしても行くと言うのなら、妾が代わりに!!」
「いえ!!ここは私が!!」
「いえ私が行きます!!行けばいいのでしょ!!」
アイリスもアイリスで、大変な人生を歩んでいるようだ。
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