25 待ち人来たる
「ムリエリア」は順調に発展する。私はヤマダ商会の会長としての仕事と「ファースト・ファンタジー株式会社」の役員としての仕事で、かなり忙しい日々を送っていた。今のところ、交易関係も順調で、海を凍らせるのは、3日に1回から2日に1回になった。収益は伸びたのだが、慢性的な人手不足に陥っている。すぐには解決できない問題だが・・・。
そんなとき、私にどうしても面会したいという人物が現れたようだった。
「クリス様はお忙しいのだ」
「そうだ、余計な仕事を増やすな」
リルとリラが門前払いをしようとする。会長秘書という役職を与えたのだが、私の威光をバックに下の者には偉そうにする。キツネ娘なだけに、まさに「虎の威を借りる狐」だ。
しかし、伝えに来たスタッフは言う。
「それが、アポを取るように言っても聞いてくれなくて・・・それに何か高貴な方のような感じがします。どこかのお嬢様とお付きの方といった感じです。もし、上位貴族の関係者だとしたら面倒なことになると思いまして・・・」
「そこを何とかするのがお前の仕事だろうが!!」
「そうだ、今日は予定があるんだ!!」
結局それか・・・。最近、真面目になったと思ったのに。
「分かったわ。今後のトラブルを想定して、マニュアルにない対応を取ったことは評価できるわ。それに比べてリルとリラ!!ちょっとはこの子のことを見習いなさい」
私は二人を叱り、面談することにした。
しばらくして、会長室に入ってきたのは、女性一人、男性一人、10歳位の幼女一人のメンバーだった。
あっ!!あれだ!!
私が挨拶しようとしところ、リルとリラは舐めた態度で幼女の頭を触り、撫で始めた。
「かわいいお嬢ちゃんですね。よしよしよし」
「お菓子でも食べる?何歳かな?」
やめろ!!死ぬぞ!!
もう遅かった。
リルとリラは両腕を凍らされた。「「ギヤー!!」」リルとリラの悲鳴が響く。
「妾に気安く触るでない!!!殺すぞ、貴様ら!!」
私を訪ねてきたのは、ゲームでも登場するネームドキャラのアイリス、クリストフ、バーバラの三人だった。小柄で茶髪の可愛らしい美少女アイリス・サンクランドはサンクランド魔法国の第一王女だ。王女という堅苦しい生活にうんざりし、剣1本で身を立てようと家出するという設定だった。
そして後を追いかけて来た「神官騎士」で真面目な好青年のクリストフと見た目は幼女だが推定年齢200歳のロリババア、「氷結の魔女」ことバーバラをお供に珍道中を繰り広げ、条件が揃えば勇者パーティーに加入するのである。
「スタッフが大変失礼なことをしてしまい申し訳ありませんでした。サンクランド魔法国筆頭宮廷魔導士、氷結の魔女ことバーバラ様」
「ほう、妾のことを知っておるのか?」
「存じております。これでも私は伯爵家の娘です。そしてそちらがアイリス王女でいらっしゃいますね」
★★★
リルとリラはクリストフに治療してもらい、下がらせた。というか、恐怖で逃げ出すように部屋から出て行った。
「ところで、どういったご用件でしょうか?」
ゲームでは、ロトリア王国に立ち寄ることなんてなかったと思うんだけど。
「それは、姫様がどうしてもと・・・・」
クリストフが答えずらそうに言った後、それを引き継いでアイリスが言う。
「ちょっとお伺いしたいのですが、トンカツを開発された後にカツカレーを開発したのはどういうことでしょうか?普通はトンカツからのカツ丼が定番だと思うのですが・・・」
何言ってんだコイツ?頭おかしいのか?
あっ!!まさか・・・。私は話を合わせる。
「そうですね。取調べのときにカツ丼がないと駄目だと心配されてますか?でもあれはドラマの中だけの話らしいですよ」
アイリスの表情がパっと明るくなった。
「そうなんですね。ところでクリス様は九州の方なんですか?一番に豚骨ラーメンを開発されていたので」
間違いない。アイリスは転生者だ。それも日本からの。
私が商会名を「ヤマダ商会」にした理由、そして日本の人気メニューにこだわった理由はこのためだ。私の他に転生した異世界人と接触するためだ。目論見通り、転生者と会うことができた。
「よろしければ、アイリス様と二人だけで話すことは可能でしょうか?」
「ちょっと!!それは・・・・」
「クリストフ、バーバラ。下がりなさい」
二人が下がると、アイリスは話始める。
「ヤマダラーメンとか、ヤマダ食堂とかあって、おまけにヤマダ商会ってそりゃあピンときますよ。ただ、同じ元日本人でも危ない人だったらと思うとすぐに名乗り出れなかったんですよね。クリスさんと話してみて、まともな人だったと思ったので・・・・」
意外に賢いようだ。
互いに日本での境遇を教え合う。彼女は綿矢姫子、就職活動中の大学生だったそうだ。実家で弟がほったらかしにしていたゲーム機を片付けようとして手に取ったとき、急に記憶が無くなったらしく、いつの間にかアイリスになっていたそうだ。
私も簡単な経歴とこの世界での設定について話した。
「RPGゲームの世界だったんですね。全然ゲームとかしないから分かりませんでしたよ。いきなりお姫様に転生したので、ゲームはゲームでも乙女ゲームの世界かと思ってました。どおりで・・・そうか・・・・」
アイリスは気になることを話し始めた。それはゲームの修正力についてだ。アイリスの話では、戦闘や冒険にあまり興味がなく、お姫様としてのんびり暮らそうと思っていたそうだ。しかし、従者や両親からしきりに「いつかいなくなってしまうのでは?」「あのお転婆はどうにかならんのか?」みたいな話が聞こえてきて、挙句の果てに「この壁に姫様の必殺技を当てれば一発で壊れてしまう。早く修理しなければ」という話も聞こえてきた。
「なんかもう家出しないといけないと思い込んでしまって・・・そうだ!!あれですよ。芸人さんが熱湯風呂の前でよくやる「押すなよ、押すなよ、絶対に押すなよ!!」っていうやつですよ。お約束かと思って結局家出しちゃいました」
物語の筋から外れるとゲームの修正力が働くのだろう。ということは、今回勇者パーティーのメンバーを外れたからといって、油断できないということだ。少し憂鬱になった。
「ところで、私とクリストフはどうなるんですか?どう考えてもクリストフは私のこと好きだと思うんですよね」
若い子は世界平和よりも、そっちの方が気になるか・・・
「それが分からないのよ。勇者パーティーに選ばれない場合はゲームに登場しないし、選ばれて魔王を討伐した後は描かれてないしね。ネットでは二人は結ばれたって言う説を唱えている人もいるし、逆に結ばれなったという意見の人もいるわよ。面白いのは、アイリスが有名貴族から婿を取り、クリストフを愛人にしたってのもあるわ」
「そうなんですね。クリストフはイケメンでカッコいいけど・・・うーん・・・ていうかこの世界はゲームなだけあってイケメン、美少女率高いですよね?」
他愛も無い会話だったが、久しぶりのガールズトークは楽しかった。
ある程度打ち解けたところで、アイリスは言う。
「実は折り入ってお願いが・・・・」
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