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23 明日に架ける橋 2

私はアントニオさんとのやり取りをポーシャさんに話した。


「なるほどね。こりゃあアントニオも本気だね。普通の優秀な商人ならシャーロック商会に紹介状を書いてあげたり、地元の有力商会に口を利いてあげたりするくらいなんだけど、ここまでするってことはアンタを本気で育てようって思ってるんだろうね」


「そうなんですね。でもどうしていいか・・・・」


「何言ってんだい!!売られた喧嘩は買わなきゃ女が廃るよ。カツカレーでも食べて元気出しなよ」



★★★


その日はショックを受けたが、次の日には冷静に考えられるようになった。アントニオさんが言いたかったことは、私一人がいなくなれば立ちいかなくなる商会は健全ではない。私が居なくても十分やっていける商会を作れということだろう。

商会を分析すると武器の販売事業はビジネスモデルを確立しているので、ダグラス王子やムリエル王女が存命のうちはまあ採算が取れる形になるだろう。それ以後は分からない。そのときの商会長が考えるべき案件だ。100年以上確実に続く商売なんてないだろうし、逆にあったら教えてほしい。

食品事業もライラとポーシャさんが居れば大丈夫だろう。一応ライラには、レシピというか、私が食べたい料理をメモして渡している。


やっぱり、アントニオさんが言ったとおり、問題は大陸の横断だ。


まず思い浮かぶのは、橋を架けることだ。商会のスタッフを使って調査したり、ロトリア王国の有力商会の関係者に話を聞いたところ、橋を架けようという計画は以前にもあったそうだが、建設中に魔物がやって来て、橋を壊すそうで、例え完成しても警備の者を張り付かせないといけないので、計画はあったが、現実的に無理と判断されたらしい。


続いて考え付くのは、大型フェリーを建造することだろう。これも遠浅で干潮の時には船が航行不能になるし、そもそも大型フェリーを建造する技能なんてないだろう。フェリーまで行かなくても大型船を建造することも考えられるが多分採算が取れない。今のように一回に大量に運べないと価格を維持できない。


後はトンネルだが、これは現実的だ。こちらの世界には重機は無いが、魔法がある。土魔法やスキルで掘り進め、錬金術を駆使して、補強すれば何とかなるだろう。これは誰も思いつかなかったようだ。しかし、今日掘り始めて、明日開通なんて事にはならない。最低でも年単位での計画が必要である。

そんなことになったら国家プロジェクトだ。資金も必要だし、作業員も大勢必要だ。一商会ができるレベルを超えている。


こういうときはどうしたらいいんだっけ?


「頭を使え、足を動かせ、行動しろ、学べ、伝手を頼れ、楽しめ!!」


頭文字が「ああこまった」になる。困ったときの対処法だと教えてもらったことがある。

やるだけやってみるか!!



★★★


結論から言うと、トンネルを掘る。トンネルができるまでは今までどおり、海を凍らせて横断する。但し、海を凍らせ、大陸を横断することを事業展開するのだ。

私は意外にも強力なコネを持っている。ダグラス王子とはいい感じだし、サマリス王子は弱みを握っているし、ムリエル王女は私を姉のように慕ってくれている。それにアリレシアの職人からは武器の販売事業で信頼を勝ち取り、有力商会とも良好な関係を築いている。


これらの者達がトンネル事業に出資してくれれば多分大丈夫だ。問題はどうやって出資してもらうかだ。

いきなり「トンネルを掘るんで出資してください」と言ったところで、出資してはくれないだろう。


「頼んで出資してもらうのではなく、出資させてくださいと頼まれるようになれ」


商社時代の幹部研修で、そんなことを教えてもらった気がする。


私は大陸間を自由に横断できるようになれば、どれだけ莫大な利益を上げられるかをプレゼンするため、事業説明会を開くことにした。



★★★


私は今、アリレシア城でサマリス王子とムリエル王女に計画を説明している。


「なるほど・・・君は本当に凄いことを考えるね」

「私にできることは何でも致しますわ」


あっさり、OKされた。因みにトンネル建設予定地はロトリア王家の直轄地で、ムリエル王女が管理しているので、ある程度自由にできるそうだ。しかし、大した資源があるわけでもなく、管理とは名ばかりで実質ほったらかしなのだそうだ。


王家のお墨付きを得たことで、無事事業説明会は開催されることになった。建設予定地に関係者を集め、私が簡単に説明すると一同驚愕の表情を浮かべ、口々に反対の意見を言ってきた。


「そんな夢物語、誰が信じるんですか?」

「そうなれば理想ですけど、誰も成功したことがないんですよ」


特に反対してきたのは財務大臣だった。国王直々にこの事業を見極めてこいと下命を受けたらしい。


「莫大な予算が必要になることは分かりますか?大変な額を投資しました。でも無理でした。では困るのです。期待して損しました」


ここまでは想定内だ。普通の頭をしていたら、当然反対するだろう。


「それでは実際にやってみますね。サマリス王子、ムリエル王女よろしくお願いします。ライラ、リル、リラ!!準備して」


私は氷結魔法を纏わせた「ミスリルの鞭」を、サマリス王子とリルとリラも氷結魔法を纏わせたそれぞれの武器を海に向かって振う。ムリエル王女とライラは氷結魔法を海に連続で放っていく。

何回も大陸横断を繰り返しているとコツが分かってきた。最初の頃は何も考えずに力技だったが、今では干潮のときを見計らい、人数をかけてやれば30分くらいで海を凍らせることができるようになった。参加者はかつてないほど、驚いていた。

因みに冒険者の魔導士を30人集めてやらせてみたが、低レベルの者が多く、3時間以上かかった。


完全に海が凍ったことを確認すると私は参加者に言う。


「それでは皆さん行きましょう。実は対岸にも関係者に来てもらってます」


対岸には、アントニオさんを始めとした商人達が待機していた。

対岸のアントニオさん達と合流した後、一緒に海を渡り引き返した。対岸の商人達にも事業説明会に参加してもらうためだ。


「これで、安全に大陸横断できることが分かったと思います。とりあえず、3日に1度、海を凍らせようと思います。そのときにお互いに交易をしてみてください。莫大な利益が見込めると分かるはずです。その結果をみてトンネル掘削事業に出資するか、しないか決めてください」


ロトリア王国の有力商会には事前に根回ししていたので、混乱はなかった。ほぼすべての商会が、今日もちゃっかり自分達の商品を持ってきていた。一方反対側の大陸の関係者はというとアントニオさんの動向を窺っていた。

アントニオさんは言う。


「事業内容はよく分かりました。今すぐに判断はできませんので、しばらく様子見させてください。ところで通行料のほうは?」


通行料は取る方向で話を進める。私達が毎回凍らせてもいいのだが、それでは駄目だ。なので、魔導士への謝礼に使う予定だ。一応、ムリエル王女の計らいで、宮廷魔導士の訓練の一環として協力してもらえることになっているので、通行料はかなり抑えられることを説明する。


「分かりました。とりあえず、ロトリア王国の商品でも見させてもらいましょうか」

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