2 クリスティーナ・ロレーヌ
私が転生したキャラはクリスティーナ・ロレーヌ、23歳。このキャラは不遇なサブキャラランキング15年連続不動の第1位で、騙されたキャラランキング第1位でもある。ゲームのキャラなので日本生まれの私とは違い、赤い髪と赤い瞳が特徴的な美人さんだ。スラッとした体型で残念な胸をしている。貧乳キャラランキングでも第1位だ。ゲーム内でもよく貧乳をイジられていた。
クリスティーナは名門ロレーヌ伯爵家の家出娘で、冒険者名は「クリス」で登録している。キャラとしては初期からレベルが9もあり、ジョブは上級職の「レンジャー」で、初級の攻撃魔法、回復魔法も使え、ほぼすべての武器防具を装備でき、ダンジョン探索に必要な「罠解除」や「敵感知」などのスキルを併せ持つ。
万能型のチートキャラだと思うかもしれないが、レベルが20を超えた辺りから成長がピタッと止まるのだ。ステータスは伸びないし、上級魔法も使えない。唯一活躍できそうな「罠解除」などのスキルも主人公達が覚えてしまうので、お払い箱になってしまう。
初めて私がFFQ4をプレイしたのは小学生のときだったが、攻略本には序盤に絶対に仲間にすべきキャラとして紹介されていたこともあり、私もパーティーに加えたものだった。しかし、レベル20を超えた辺りから成長が止まり、全く使いものにならなくなる。攻略本を信じた私は、クリスに力のステータスを上昇させる「力の薬」や同じく素早さのステータスを上昇させる「素早さの薬」などを飲ませまくっていたが、そのほとんどが無駄になってしまった。こんな状況に陥ったのは当然私だけでなく、「ヤク泥棒!!」「詐欺女」などの不名誉な称号が与えられた。
また、ゲーム内でも高飛車な言動が目立ち、プライドが高く性格は悪い。序盤、クリスをパーティーに加入させるとパーティーは、クリスにおんぶに抱っこになってしまう。それをいいことに主人公たちを小馬鹿にし、度々トラブルを起こすのだ。
そして、レベル20に達した辺りで思うのだ「こんなクズ、仲間にしなければよかった」と。
FFQシリーズの新作発表を記念した製作プロデューサーのインタビュー記事を最近読んだのだが、当時の怒りが込み上げてきた。彼はこのように語っていた。
『作っていて、プレイヤーの騙された顔が目に浮かび、当時はほくそ笑んでましたよ。シリーズがマンネリ化してきた時期だったので、ちょっと冒険してみました。ここまでFFQシリーズが続いたのも、ある意味クリスのおかげかもしれませんね。
キャラを作った僕が言うのも何ですが、もし運命が変わるならクリスには幸せになってほしいですね。最新作では幸せに・・・・・』
彼が言うようにクリスの人生は不遇そのものだ。
彼女の母親は彼女が幼くして亡くなっている。それからは、ロレーヌ伯爵と再婚した継母にいじめられ、ロレーヌ伯爵と継母の間に弟が生まれたことも相まって、いよいよ家に居場所がなくなってしまった。そして14歳のとき、意を決して実家を飛び出し、冒険者となった。
才能があったことと、武闘派貴族として名を馳せていたロレーヌ伯爵家の跡取りとして英才教育を受けたこともあって、頭角を現し、20歳の頃にはこのアリレシアの町でトップクラスの冒険者となっていた。そして、地元の冒険者ギルドの推薦で勇者パーティー候補に名を連ねることになったのだ。
これで物語が終ればサクセスストーリーだったのだが・・・・。
勇者パーティーに選ばれたら最後、不遇な人生が確定してしまう。大きく分けて「死亡」「奴隷」「闇落ち」「収監」のどれかである。クリスに限って言えば、すべてがバッドエンドだ。唯一、勇者パーティーに加入しなかったときのみ、それ以上は登場しないので、どのような人生を送ったかは分からないが、バッドエンドにはならなかったのではないかとネットでは噂されている。
ただ、序盤に限って言えば、有能なキャラであることは間違いない。なので、発売から20年以上経った今でも、攻略サイトでは、おすすめの序盤パーティーに必ずクリスは入っている。これはどのサイトや掲示板を見ても変わらない。意見が分かれるのは「いつクリスを捨てるか」だ。
これは「クリ捨て論争」とも言われ、FFQシリーズが発売されるたびにスレッドが立ち、論争が巻き起こる。
一番効率がいいとされている「クリ捨て」はかなり酷い。非人道的というか、まさに鬼畜の所業である。本当にこいつら勇者なのか?と子供ながらに思ったのを覚えている。まあ、勇者を操作しているのは私なのだけれど。
まず、クリスをパーティーに加入させ、主人公が育つまで使い潰す。当然、武器防具やステータス強化アイテムなんかは買い与えない。どうせ、捨てることが確定しているからだ。レベル15位からは、ほとんど戦闘に参加させず、イベントでステータスが半分になる呪いを村娘に代わって掛けられる。そして、その村娘の身代わりに生贄として洞窟に放置される。3日間放置された後に洞窟を訪れた邪龍に食い殺されて、その短い生涯を終えるのだ。
そのときクリスの装備はすべて剥ぎ取られている。加入当初から持っていた鎧も剣も、そしてイベントで手に入るクリスの母親の形見のネックレスも・・・・。
この母親の形見のネックレスはすべての状態異常を無効にするもので、クリスのみ装備可能のレアアイテムなのだ。イベントでは、勇者パーティーの一員となったクリスが父親のロレーヌ伯爵と再会し、クリスを認め和解する。そのときにこのネックレスをロレーヌ伯爵がクリスに渡すのだ。
しかし、クリスを捨てることは確定しているので、感動的なイベントの1分後には、このネックレスは売り払われるのである。多分10万ゴールド位で売れたと思うのだが、かなりの現金収入が得られたと記憶している。
実際の社会でこれをやれば、まさに鬼畜の所業だろう。
この「クリ捨て」が評価されている点は、序盤はクリスのお陰で、苦労せずにレベルアップができるし、村娘を助けたことでレアなジョブが解放され、主人公を含めたパーティーメンバーが「竜騎士」になれるし、ネックレスを売り払うことで現金収入も得られるところだ。
ネットでは、「ちょっとやり過ぎではないか?」「さすがに鬼畜過ぎる・・・」という声が多数上がっているが、この「クリ捨て」を選ぶプレイヤーが非常に多いのが現状である。
実際私がクリスになってみると、本当に切ない。助かるには絶対に勇者パーティーに加入してはいけないのだ。
というのも「クリ捨て」スレッドと並んで、「クリスを救う会」なるスレッドも多く立つのだが、決まって「今回もクリスは死にました」とか「奴隷か収監をハッピーエンドと思うことにしました」という書き込みが後を絶たず、「闇落ちして、敵のボスキャラの一人として討ち死にすることがハッピーエンドですよ。散り際の美学」という書き込みもあるのだ。
全国各地の猛者達が20年以上やり込んでも、クリスが勇者パーティーに加入してハッピーエンドを迎えさせることができていない。
だから、勇者パーティーに選ばれないことが唯一クリス(私)が助かる道なのだ。
私は静かに決意した。
絶対に私は勇者パーティーに入らない!!
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