17 進め!!ヤマダ商会
勇者パーティー出発式から1ヶ月が経過した。いよいよ勇者パーティーがロトリア王国を出国する。ダグラス王子達のレベルも10を超えて、見るからに逞しくなった。後は彼らが魔王を討伐してくれればすべてが終わる。
ダグラス王子が言うには、報告等があるので定期的にアリレシアに帰ってくるとは言っていた。
ダグラス王子は少し元気がなかったが、リンダは上機嫌だった。
「殿下、さっさと行きましょう!!我ら勇者パーティーを待っている人は世界に大勢いるのですから」
多分、出国したらダグラス王子に積極的なアプローチをするのだろう。
勇者パーティーが出国したことを機に私は本格的に商売をすることにした。
勇者パーティーが出国するとゲームでは、私を含めた初期に仲間にできるネームドキャラは勇者パーティーに加入することはなくなる。途中、馬車を手に入れたら8名まで仲間を増やすことができるのだが、追加メンバーは旅先で仲間にできるネームドキャラか、アリレシアの冒険者ギルドで募集をするかになる。
大抵は旅先で仲間を集めるプレイヤーが多いのだが、2回目以降にプレイするとき、ギルドで募集したキャラを自分好みのキャラに育成できるので、それはそれで面白い一面もある。
まあ、今の私には全く関係の無い話だが。
★★★
新しく立ち上げた商会の名は「ヤマダ商会」とした。理由は二つ、単純に私の名前が山田琴音ということと、もう一つは、追々話すとしよう。
最初にやった商売は、武器の販売で、前世の知識をフル活用するれば稼げると思ったからだ。前世の知識というのは、ゲームの知識ではない。商社マンとしての知識と経験だ。当初はもっと元手が掛からない商売を検討していたのだが、思いがけず10万ゴールドという運転資金を手に入れたので思い切ってこの商売をすることにしたのだ。
今回の商売のコンセプトは、ビジネス戦略的に言うと「ブランド戦略と商品ではなく、体験を売る」だ。これから私の話を聞けば、なぜ、ダグラス王子からボロボロの「訓練用の鉄剣」を頂いたか、分かるはずだ。
★★★
今日も父のコネを使って、ロレーヌ伯爵家とつながりのある貴族達の前でスピーチし、販売促進会を開催している。
「私は本当に悔しかった!!本当はダグラス王子のお側でもっとお役に立ちたかった!!魔族に騙された私をどうか笑ってください!!」
販売促進会ではなく、表向きは魔族の工作活動に対する注意喚起ということになっている。意外に受けがよく、涙を流してくれているご婦人もいる。
「しかし、いつまでも悔やんでばかりではいられません。ダグラス王子は今も世界の平和のために戦っていらっしゃいます!!私は「商人」としてダグラス王子を支えることに決めたのです。
ここでみなさんにダグラス王子との思い出をご紹介します。あれは私が・・・・」
ここからが勝負の時間だ。
聴衆に国王から魔王討伐のために授与されたのは、「訓練用の鉄剣」とわずか100ゴールドだけだった話をする。今回集まってもらったのは、武闘派の貴族達なので食い付きが違う。
聴衆は口々に言う。
「なんと素晴らしいお考えだ!!ダグラス王子が国王となれば未来は安泰だ」
「武人とはこうであるべきだな」
「私はクリス様の心意気に感動しております」
これならいける!!
私は勝負に出る。
「今ここにダグラス王子から下賜された「訓練用の鉄剣」をお持ちしました。ダグラス王子との大切な思い出の詰まった剣ですので、お売りすることはできませんが、同じタイプの鉄剣をご用意いたしました。それに今現在、ダグラス王子が使っております「鋼の剣」も用意しております。鉄剣は2000ゴールド、「鋼の剣」は2万5000ゴールドで販売させていただきます」
「よし、買ったぞ!!」
比較的裕福な貴族はすぐに購入を希望した。半年以上、この世界に住んでみて、貴族は見栄や体裁を非常に大事にする生き物だと分かった。裕福な貴族なら鉄剣の1本2本購入したところで、痛くも痒くもない。
しかし、懐事情が厳しい貴族達は少し躊躇している。まあ、これも想定内だ。
「今回は特別価格でご奉仕させていただきます。「鋼の剣」1本に「鉄剣」5本をお付けして・・・3万ゴールドでどうでしょうか?「鉄剣」5本分を実質半額でお譲りいたします。
私に国防の要である皆さんの御手伝いをさせてください!!」
「そこまで言われては仕方がないな。1セット貰おう」
上手くいった。
どの貴族も最低1セットは購入してくれた。実際の儲けだが、「鋼の剣」は原価や諸々の経費を入れれば儲けは大体5000ゴールド位になる。「鉄剣」は実質タダだ。サマリス王子に騎士団の廃棄予定の鉄剣を大量に入手してもらっているからだ。サマリス王子は言う。
「宝物庫に忍び込むことに比べればチョロいもんさ。訓練で使っている間は定期的に数を数えたりして、厳重に管理してるけど、廃棄予定になった途端に管理が甘くなるんだ。半分位無くなっていても誰も気付かないよ。
でも宝物庫に忍び込むような緊張感がなくて、ちょっとつまらないけどね」
コイツは、王子を辞めて「盗賊」にでも転職したほうがいいんじゃないのか?
お前のせいでダグラス王子が苦労したのを忘れたのか?
以後、サマリス王子のことを変態クズ野郎と呼ぶことにした。
変態クズ野郎のことは置いておいても、タダ同然の剣が1本売れば儲けが1000ゴールドになる。本当にボロい商売だ。
これは私が考えたオリジナルの販売戦略ではない。世界規模のハンバーガーチェーンを参考にしたのだ。飲食業の平均的な原価は3割と言われている中、ハンバーガーの原価はなんと5割近くもある。それでは採算が取れないのでは?と思うかもしれないが、実はカラクリがあるのだ。
他の商品で利益を回収している。200円のポテトだと原価は10円位、100円コーヒーなんて原価が2.5円らしい。だからハンバーガショップではなく、実質はポテト、ドリンク販売店なのだ。
それに巧妙にセット販売をしてこの事実を隠蔽している。この事実を知ってもなお、ファミリーセットを喜ぶ家族がいるとは思えない。
★★★
剣の販売は上手くいった。
後はスタッフに任せて、私はご婦人方の相手をする。まだまだ、儲けるつもりだ。
「今回のお茶会はちょっと趣向を変えております。それに特別ゲストをお呼びしています」
そこに特別ゲストとして現れたのは・・・・・
「ま、まさか・・・・」
「こんな方がここに・・・」
「そんな・・・」
会場は騒然となる。
まあ、そりゃあそうなるよね。
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