16 エピローグ
ダグラス王子の勇者パーティーは出発式を終え、アリレシア城を後にする。
国王から魔王討伐のために授与されたのは、「訓練用の鉄剣」とわずか100ゴールドだけだ。
まずは資金を貯め、装備を揃えることから始めなければならないだろう。ゲームとしては、少ない資金をやりくりし、パーティーの装備を少しずつ揃えるのも楽しさの一つではあるが・・・。
私はというと冒険者ギルドで待機していた。国王が渡すはずだった10万ゴールドと「鋼の剣」をダグラス王子に渡すためだ。
ダグラス王子には、冒険序盤の楽しみを味わってもらおうかと思ったが、私としては早く魔王を討伐して、クリスのバッドエンドを早々に回避してもらいたいので、現金と装備品を渡すことにしたのだ。
しばらくしてダグラス王子率いる勇者パーティーがクエストを終えて冒険者ギルドに帰還して来た。私はすぐにダグラス王子に声を掛ける。
「ダグラス王子、よろしければ、こちらをお使いください」
私は10万ゴールドと「鋼の剣」をダグラス王子に手渡した。するとダグラス王子は意外な反応をする。
「有難い申し出だが、これは受け取れない」
「なぜでしょうか?そんな剣や少ない資金ではこれからの活動が厳しいと思うのですが・・・・」
「俺も最初はそう思った。けど、その意味をよく考えたら分かったんだ。与えられた武器が「訓練用の鉄剣」てことも活動費がたったの100ゴールドってことも意味があるってな。
つまり、「王子という恵まれた立場に甘えることなく、困難に負けずに頑張れ」という親父からのメッセージだと思う。親父は厳しいところはあるが、意味もなく、こんな嫌がらせのようなことをする人じゃないからな。
それにみんなで財布と相談しながら、クエストをこなすのも案外楽しいから、親父には感謝しているよ」
脳筋なだけあって、かなりポジティブだ。
これには同じパーティーメンバーの騎士団団長のマッシュと騎士団員のリンダは尊敬の眼差しを向ける。
違うからね。貴方の弟の変態王子がやらかしただけだからね。
まあ、ここで真相を話す勇気は私にはないけどね。
「そ、そうですか・・・」
私が困惑しているとダグラス王子は、私が落ち込んでいるように見えたらしく、声を掛けてきた。
「あっ、でもせっかくクリスが用意してくれたんで、その剣だけはもらおうかな。何回か戦闘で使ったら「訓練用の鉄剣」はもうボロボロだからな・・・」
「ありがとうございます。用意した甲斐がありました。よろしければ、そのボロボロの剣は私にくださいませんか?ダグラス王子だと思って大切にします」
「こんな剣でよければ、何本でもやろう。本当はもっと良い品を渡してやりたいが・・・指輪とか・・・」
「ありがとうございます。一緒に冒険こそできませんが、「商人」としてこれからもダグラス王子のことを支えていきます」
なんか凄く甘い雰囲気になっている。マッシュと「治療術士」のマリアはニヤニヤしているし、周りの冒険者達は指笛を吹いたりして冷やかしてくる。超絶恥ずかしくなった。
なんか、バカップルっぽいやり取りをしてるじゃないか!!
そんなとき、リンダが割って入ってきた。
「クリス様、ダグラス殿下はクエストでお疲れです。これから素材の買い取りやクエスト達成報告などの仕事がまだ残っています。部外者はお引き取りください」
あれ?何でコイツは喧嘩腰なの?
私が戸惑っているとマリアがこっそり教えてくれた。リンダはどうもダグラス王子に想いを寄せているらしい。
ギルド内もざわつき始める。
「勇者を巡る三角関係か?」
「勇者って羨ましい・・・」
「決闘だ!!決闘だ!!クリス姐さん、やっちまえ!!」
そ、そんなんじゃないから・・・・・
ここでリンダをボコボコにしてやってもいいが、下手するとメンバーチェンジなんて事態になり兼ねない。そうなると今までの苦労が無駄になる。
まあ、ダグラス王子のことは置いておいても、売られた喧嘩は買う質なので、ちょっと言ってやった。
「ダグラス王子がお疲れになるくらい、貴方は何もされなかったんですの?この辺の魔物相手に苦戦するようでは先が思いやられますわ。せいぜい、足を引っ張らないように頑張ってくださいませ」
これにはリンダはキレた。
「おい、貴様!!表に出ろ!!」
「まあ、怖い!!一介の商人にこのような仕打ちをなさるなんて、騎士団ではどういった指導をされているのでしょうか?」
あれ?私、なんかクリスっぽい!!
もしかしたらクリスとしての本能がリンダと邂逅したことによって、表に現われたのかもしれない。こんなに悪口がラッパーのように出て来るなんて今までになかったからね。
リンダとは今後、なるべく接触しないようにしよう。
結局、冒険者達が騒ぎ出して収集がつかなくなったところで、ルイーザさんがやって来て一喝した。
「何やってんだお前らは!!クリスもクリスだ。勇者パーティーに選ばれなかったのが悔しいからって、リンダに当たるんじゃないよ!!それにリンダも勇者パーティーの自覚はあるのかい?せっかくサポートしてくれるっていう協力者にそんな態度を取るように騎士団では教えられてるのか?」
「ごめんなさい」
「私も悪かった」
ルイーザさんの迫力に負け、私とリンダは引き攣った顔で握手して、形式的には和解したことになった。
これ以後、私の商会が勇者パーティーをサポートすることが認められた。私としても早く魔王を倒してほしいからね。
★★★
私がダグラス王子からボロボロの鉄剣をもらったのには訳がある。
これは私がやろうとしているビジネスに関わることなのだが、それはまた別の話だ。
ようやく、一段落といった感じだ。それに運転資金の10万ゴールドも思いがけず手に入れた。
これからは「商人」として、大暴れしてやるからね!!
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!
今回で第一章は完結となります。第二章は「クリスの異世界細腕繁盛記」になっています。




