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15 物語の陰で 2

私は「ミスリルの鞭」に電撃魔法を付与し、不意打ちでリルとリラを殴りつけた。


リルとリラは全く対処できず、痺れて動けなくなっている。私はすかさず二人を拘束した。


「クリス、どうしてここに?」


私はここまで来た経緯を簡単に説明した。


「そこまで私のことを想ってくれていたとは・・・私達は結ばれる運命に・・・」


違うよ。

バッドエンド回避のために、こっちは命懸けなんだ。


私はリルとリラを問い詰めた。真相はこうだった。

リルとリラは市場調査したところ、アリレシアでは「鞭で打たれたい男性が意外に多い」ということが分かったので、その専門店を出店することにした。しかし、結果は惨憺たるもので、すぐに経営危機に陥ってしまった。

まあ、そうだろう。

SMが趣味の上司に聞いたことがあるのだが、女王様というのはただ鞭で叩いたり、ロウソクを垂らしたりするだけではないそうだ。そこにはタイミングや適切な声掛けも必要で、かなり専門の技術が必要なのだという。素人には無理だろう。


そんなとき、お忍びで訪れたサマリス王子を発見し、借金返済のため、サマリス王子から恐喝することにしたようだった。映像記録の魔道具には、後ろ手に縛られたサマリス王子が、激しく鞭で叩かれて、恍惚の表情を浮かべている様子が記録されていた。

兄のダグラス王子が勇者として出発する大事な時期にスキャンダルを起こすことはできず、サマリス王子は渋々要求に応じることにしたそうだ。


私はある作戦を思いついた。リルとリラに私の話に合わせて、隙を見て逃げるように耳打ちする。そして、サマリス王子に気付かれないように拘束を緩めた。


「まさか貴方達は、私を騙して「商人」に転職させた犯人ですね。観念しなさい!!」


この際この二人に私を騙して「商人」にした犯人になってもらおう。


「えっと・・・騙されるほうが悪いんだよ!!」


「まさか逃げるつもりじゃないでしょうね?そんなことなら、すぐに貧民街のローザン橋に吊るしてあげるわ」

(逃げろ。貧民街のローザン橋付近で待て)


ヒントを出したつもりだが、伝わっただろうか?


リルとリラは意図を汲んでくれたようで、別々の方向に逃走した。


後に残された私はサマリス王子に言う。


「私はこれから二人の捜索に移ります。内密にしないといけない案件でしょうから、捜索は私一人で行います。サマリス王子は急いで剣と現金の入った小袋を元に戻してください」


「捜索の件は承知した。しかし、もう元に戻せないんだ。出発式会場に宝箱と剣を運び込む直前にすり替えたからね・・・。どうしようか・・・・これ?よかったら君にあげるよ」


何考えてんだボケ!!私を共犯にしようとしてるじゃないか!!


怒鳴りそうになったが、なんとか平静を装った。


「とりあえず私が預かり、何とかしてダグラス王子に渡します。サマリス王子は城にお戻りください。このことは口外しませんので・・・・」


私は怒りを押し殺し、その場でサマリス王子と別れ貧民街のローザン橋に向かった。ローザン橋の袂には、リルとリラが反省した様子で立っていた。

私は二人に声を掛けた。


「とりあえず、「変身」スキルを解除したら?」


「えっ嘘!!なんでバレたの?」

「私達の完璧な変身に気付くなんて・・・一体アンタは何者なんだ?」


スキルを解除すると、二人は妖艶な美女から一転、可愛らしいキツネ耳の美少女になった。

二人から話を聞く。


リルとリラは魔族と狐獣人のハーフで双子の姉妹らしい。ハーフということで魔族からは下に見られていて、何とか認められるために頑張っていたそうだ。戦闘力は低いため、持ち前の「変身」スキルを使って工作活動をしていたらしいが、上手くいかなかったようだ。ゲームでは魔族の工作員という設定だったが、この世界では正式な工作員ではなく、彼女達が勝手に名乗っているようだった。


今回もサマリス王子のスキャンダルを掴んだときは、二人で大喜びしたみたいだが、サマリス王子が勇者に選ばれなかったことでお小遣い程度のお金を巻き上げることにしたそうだ。根は優しく、ビビりなのでこんな残念な感じになったようだ。


「それならサマリス王子を人質に取ったり、サマリス王子を利用して勇者の情報を引き出して、それを魔王にでも報告すれば、魔王も認めてくれるんじゃないの?」


「なんでそんなことを思い付くんだ?」

「アンタは極悪人か?」


リルとリラはゲームでもこんな感じだ。

一生懸命頑張ってはいるが、頑張れば頑張る程、勇者達の助けになってしまう。村娘のイベントがいい例だ。彼女達の裏工作のお陰で伝説のジョブ「竜騎士」が復活してしまうのだ。ナポレオンの名言「真に恐れるべきは有能な敵ではなく無能な味方である」を地で行くキャラ達だ。

私は、そんな彼女達を嫌いではなかった。どうも憎めないのだ。


「ところで貴方達は何で魔族に認められたいの?獣人や人族はでは駄目なの?」


「人族は獣人や魔族を差別するし、獣人もハーフの私達には冷たいんだ。魔族にも私達ハーフを馬鹿にする奴はいるけど、魔王軍は完全実力主義だから、成果さえ上げればそれなりの待遇を保証してくれるんだ。実際魔族とエルフのハーフのダークエルフなんかは魔王軍でもそれなりの地位にいるんだ」


「なるほどね。つまり、魔王の熱烈な信者ってわけではなく、消去法で魔王軍を選んだだけなんだね。

だったら、ちゃんとした待遇を保証するから、ウチに来ない?」


★★★


結局、この二人を私の商会の従業員にすることにした。


リルとリラは決して無能ではない。結果が残念なだけだ。それに実際話してみると、本当にいい娘達だ。それにモフモフだし・・・・・。

少しだけアドバイスすれば、有能な人材に早変わりするだろう。魔王軍と多少の伝手はあるようなので、魔王軍の動きも把握できる。


当面は孤児院で生活してもらうことになった。ライラや子供達ともすぐに打ち解けて楽しそうだった。

店が経営難に陥ってからは碌に食事を取っていなかったようで、しっかりと食事を与え、ドーナツをおやつに渡したら懐かれてしまった。


「クリス様に一生ついていきます」

「クリス様は私の中では、魔王と同格です」


魔王は止めてほしいんだけど・・・・

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