14 物語の陰で 1
とうとう明日、勇者パーティーが出発する。
そうは言ってもしばらくは、王都アリレシア近辺で修業を積む形だろうけど。
私の近況だが、まずレベルを上げてステータスを元に戻した。バッドエンドは回避したとはいえ、不意の戦闘に巻き込まれる可能性もあるので、「恐怖の2マス」を利用して、レベルを上げることにしたのだ。
名前 クリスティーナ・ロレーヌ
レベル 23
ジョブ 商人(一般職)
HP 130 MP 70
力 50 賢さ 60 素早さ 48 身の守り 34
スキル 「敵感知」「罠解除」「採取」「初級魔法」「回復魔法小」「鞭使い」「両手攻撃」
「隠密」「潜伏」「解錠」「鑑定」「交渉術」
なかなかのステータスだ。
ロトリア王国を出なければ、まず間違いなく無双状態だ。状態異常無効の「形見のネックレス」に加えて、攻撃力105の「女帝の鞭」と攻撃力は70と劣るものの魔法付与効果が1.5倍の「ミスリルの鞭」というぶっ壊れ武器を装備しているからだ。
初期にお世話になった2本の「トゲトゲの鞭」はサマリス王子とムリエル王女に寄贈した。二人とも大変喜んでくれて、ムリエル王女は私に鞭の指導を頼むくらいだった。勇者になれる素質があるだけにすぐに上達した。もしかしたらムリエル王女の影響を受け、この国の女性騎士に鞭使いが多く誕生するかもしれない。
サマリス王子はというと別の意味で喜んでいた。
「うーん・・・この際、ムリエルに打たれるのも悪くないかも・・・」
聞かなかったことにしよう。
その他の活動としては商会を立ち上げる準備だ。ダグラス王子達の口添えもあり、国への申請はすぐに通った。転生前はいつか起業しようと思っていたのだが、思わぬ形で夢が叶ってしまった。
それから転職神殿でアントニオ・シャーロックからもらった紹介状を持ち、有力商会を巡ったり、父のロレーヌ伯爵の伝手を使って有力貴族にご挨拶をしたりと冒険以外にもやることは多かった。
どこに行っても好感触で、ある貴族婦人などは「ダグラス王子のために商会を立ち上げるなんて、本当に頭が下がります。本当は側で支えたいはずなのに、いじらしい・・・」とか言って泣き出す始末だ。
どうも王都の人や貴族には、私の行動は美談として捉えられているらしい。
今日も私はムリエル王女のお茶会に出席している。
堅苦しい雰囲気は好きになれないが、営業活動の一環なので仕方がない。
「騙された私が言うのも何だけど、エルも魔族には十分気を付けてね」
「分かってますよ。魔法だけでなく、鞭の訓練も頑張ってますから。
それはそうとクリスお姉様、商会で売る商品は決まりましたか?どんな商品を売るにしても、私は全力で支援致しますから」
これは心強い。国民に人気のあるムリエル王女の後ろ盾があれば、怖いものなしだ。
お茶会も終わり、帰宅しようとしたところ、サマリス王子がきょろきょろと周囲を気にしながら、宝物庫のある建物に入っていく。かなり焦った様子で小袋を脇に抱え、反対の手には「訓練用の鉄剣」を持っている。
一体何をしているのだろうか?
放っておけばいいのだろうが、嫌な予感がしたので後を付けることにした。今からでも、ひょんなことからバッドエンドシナリオに突入する可能性は十分にあるからだ。私には「隠密」「潜伏」のスキルがあるので、尾行はお手の物だ。
サマリス王子は、宝物庫の裏手に回り隠し扉と思われる扉から中に入っていった。そして、中に合った宝箱の中の小袋と持ってい小袋をすり替えた。そして宝箱の脇にあった「鋼の剣」と「訓練用の鉄剣」をすり替えた。
アイツ、やりやがった!!
宝物庫にあった「鋼の剣」と宝箱の中身の小袋は、明日の出発式でダグラス王子に授与されるものだ。多分すり替えた小袋には銀貨を入れていて、宝箱に元から入っていた小袋には金貨の10倍の価値がある白金貨が入っているのだろう。
これが理由か・・・・20年来の謎が解けた。
当時、兄と恭子ちゃんが議論していた。
「これから世界を救いに行く勇者に渡す資金が100ゴールドって酷すぎない?日本円で1万円よ。子供のお遣いじゃないんだから!!」
「それよりも俺が気になるのは剣の方だ。あんなボロボロの剣を渡されて何をしろって言うんだ!!あれなら、そこら辺の衛兵の方がいい装備を持っているじゃないか!!衛兵の標準装備は「鉄の槍」なのに」
二人とも怒っているようだった。
私もそう思った。勇者の父親である国王は鬼畜だと。
20年来の謎は解けたが、サマリス王子は、なぜそんなにも金が必要だったのだろうか?
サマリス王子は宝物庫を出るとすぐに城を出て貧民街に向かった。
そして妖艶な二人の女と接触した。
あれ?あの女達は・・・・
間違いない魔族の工作員のリルとリラだ。ゲームでも度々登場する。戦闘力は高くないが逃げ足は速い。因みに村娘を騙して転職させようとしたのも、この二人だ。
「もう許してくれ!!これ以上は出せない」
「あらあら、そんなこと言っていいの?変態王子様。流石にアレはちょっとねえ・・・。フフフ、これから骨の髄まで絞り取ってあげるんだからね」
どうやらサマリスは脅されているようだ。
サマリス王子から小袋と「鋼の剣」を受け取り、小袋の中身を確認したリラは叫ぶ。
「リ、リ、リ、リルー!!ちょっと流石にヤバいよ!!10万ゴールドだよ」
「10万ゴールドだって?それはやり過ぎだよ。毎月1000ゴールドずつ受け取ろうって、言ってたじゃない!!一回でこんな額をもらったらすぐに討伐されてしまうよ」
「それにこの剣もかなりの業物だ。もしかして・・・貴様!!我らは誇り高い魔族だ!!金や物で言いなりになると思うなよ!!」
金を脅し取ろうとして「金や物で言いなりになると思うなよ!!」はないだろうに。言っている意味はよく分からないが、二人はかなり焦っている。
「私は脅迫状に掛かれた通りに金額と武器を持って来ただけだが・・・」
サマリス王子に手渡された脅迫状を二人は読んでいる。
リラが言う。
「「銀貨」って書くところを「金貨」って間違えて書いてる!!」
「こっちも「武器を持ってくるな」と書いたつもりが「武器も持ってこい」って書いてる・・・」
単純な記載ミスのようだ。サマリス王子は、10万ゴールドを要求してくる相手なので、流石に下手な武器は持ってこれないと思って「鋼の剣」を持ってきたみたいだ。
私も新人のころ、注文書の物品の個数を一桁間違えて、大変な思いをしたことがある。書類の確認はしっかりしよう。いい教訓になった。
と、そんなことは置いておいて、場はとんでもない雰囲気になっている。
仕方ない、助けてやるか。
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