135 エピローグ 1
私はギーガに抱きかかえられ、リルとリラに抱き着かれている状態で落下している。人生の最後は走馬灯が見えるというが、本当に時間がゆっくりと感じられるようだ。
後はできるだけ痛くなければ・・・
と思っていたところ、すぐに衝撃が来た。ギーガが体を入れ替えてくれていたので、全く痛くなかった。それにボフっていう感じで着地したので、ギーガもダメージは受けていないようだ。
どういうこと?
私は落ちて来たであろう場所を見上げる。実は、私達は2メートルくらいしか落下していなかったのだ。リルとリラはなぜか大はしゃぎしていた。
「これで大金持ちだ!!」
「このお宝は全部私達のだ!!」
混乱している私にギーガが説明してくれる。
「どうやら教会関係者が残した不正蓄財ですね。床一面に金貨や宝石が所狭しと並べられています。俺達が落ちたのは金貨の山だったので、ほとんど衝撃を受けてないんですよ」
「そう・・・助かったのもギーガのお陰よ。でも私の為に危険なことは今後二度としないでよね。ありがとう」
「約束はできません」
こういうところは、真面目なんだから・・・・
冷静さを取り戻した私は大喜びしているリルとリラに言う。
「悪いけどこれはマリシア神聖国に寄贈して、復興資金や援助金の返済に回してもらうからね。だから、貴方達に全部あげるわけにはいかないのよ」
リルとリラは絶望の表情を浮かべていた。
「お宝が・・・」
「大金持ちへの夢が・・・」
戦後処理は順調に進んだ。不正蓄財された財宝や利権の譲渡などで、支援した各国や商会はかなり儲けたみたいだった。なので、復興にも前向きに支援をしてくれていた。ただ、マリシア神聖国に虐げられてきた亜人や獣人達が多く住む都市はこれを機に独立したが、まあ仕方ないことだろう。
よし!!ムリエリアに帰ろう!!
★★★
エジル討伐から60年以上が経過した。
未だに、日本には帰れていない。
もう私も、おばあちゃんだ。実際に結婚して孫までいるからね。
そして今、私はこの世界を旅立とうとしている。体が限界だ。2年前からほぼ寝たきりで、いつお迎えが来てもおかしくない状態だった。
思えばエジル討伐後も色々なことがあった。
リルとリラが詐欺師に騙されて、リルリランドが財政破綻の危機を迎えたり、ギーガが魔王に就任するのに一騒動あったりと・・・本当に波乱万丈だった。
基本的には商会の仕事やオーガスティン領の運営に携わり、機会を見付けては、まだこなしていないイベントをこなしていた。
油断大敵という言葉があるとおり、不安要素は早期に潰すことを心掛けていた。アイリスとかムリエル王女とかと一緒に世界各地を回るのは本当に楽しかったな。
そんな人生も、もうすぐ終わりを迎える。
死の間際まで、聴覚だけは残っているというのはどうやら本当らしい。今も夫や子供達、孫達のすすり泣く声が聞こえる。もう答えることはできないのだけど・・・
「クリスさん!!俺を置いて行かないでくれ!!」
「お母さん嫌だよ!!」
「おばあちゃん、元気になってよ・・・」
こんなにも素晴らしい家族に看取られて最後を迎えるなんて、いい人生だったと思う。
日本にいる両親や兄にお別れの言葉が言えなかったのは悔やまれるけどね。
私はうっすらと残っている意識を手放した。
あれ?ここはどこだろうか?
口からかなりの異臭がする。時計を見ると朝の6時だった・・・スマホを確認するともう火曜日の朝だ。出社しなくては・・・・・
ってあれ?どうして自室にいるのだろうか?
もしかして、すべて夢だったのか?それにしては何日も眠っているし・・・そんなことは置いておいて、すぐにこの口臭を何とかしなければ!!
身支度を整え、私は慌ただしく出社するのだった。
★★★
それから2年が経った。
私は日本に向かう飛行機の中に居る。あの後、上司から海外出張を命じられ、慌ただしい日々を過ごし、海外へ行ってからも色々あり、購入しようとしていたFFQ9もやれず仕舞だった。そして海外出張を終えた私は日本に帰国しているのだ。
何の気なしに機内の動画サービスを見ていたら、FFQのチーフプロデューサーがインタビューを受けていた。
「一番思い入れのあるキャラは誰ですか?」
「難しい質問ですね。そりゃ、すべてのキャラに思い入れがありますよ。でも、一人上げるとするなら、FFQ4のクリスですね。本当は影の主人公にする予定でキャラ設定したんですよ。でも開発の都合で結局その構想は無くなりました。本当は不遇な環境に耐えて、勇者になるって感じにしたかったのに・・・」
「以前に伺ったときには、計算通り、騙してやるつもりでと仰っていましたけど?」
「そうですね。大ヒットしたのもそうですけど、俺って凄い奴なんだと自分を大きく見せたかったんでしょうね。もう次回作で引退する予定なので、正直に言おうと思って・・・」
「なるほど・・・」
「だから、不遇過ぎるのもそうですけど、無理やり勇者設定をなくしたので、おかしいところも多くありました。ネタバレになるのであまり言いませんが、実際のところゲームでは、クリスが死んだと想像できるくらいにとどめ、直接死んだという描写は避けているんですよ。僕の最後の作品となるFFQ4の再リメイク版では・・・」
そこで、動画は止まった。代わりに「まもなく、当機は着陸致します。再度シートベルトをご確認ください」というアナウンスが流れた。
そういうことだったのか・・・・私が体験したのは本当のクリスの人生だったのかもしれない。再リメイク版が発売されるようだし、クリス、本当に良かったね。
そんな中、隣で寝ていた部下の佐藤君が目を覚ました。この海外出張も志願してついて来てくれたのだ。
「ああよく寝た!!やっと日本か・・・ところで、帰ったら山田課長ですね。35歳という若さで課長なんて、異例ですよ。女性初の役員も夢じゃないですよ」
「ちょっと、女性に年齢のことは言わないの!!セクハラよ」
「す、すいません。でも山田先輩は凄いですよ。あのずる賢そうな役人や怖そうな大臣に一歩も引かないなんて・・・何かそういった経験でもあるんですか?」
そりゃあ、世界を股にかける大商会の会長だったからね。もっとヤバい奴らと渡り合ってきたんだから。
「うーん、慣れかな・・・」
「そんなもんなんですかね・・・あの海賊団のトップをやり込めたのを見たとき、俺はイっちゃいそうでしたよ」
「だ・か・ら!!それがセクハラだって言ってんのよ」
そんな下らない会話をしながら飛行機は空港に着いた。帰りのタクシーの中で佐藤君に言われた。
「そういえば、新しく課に新人が配属されるらしいですよ。それも凄い新人で、山田先輩の再来と言われてるんですよ。度胸があって、仕事が出来て・・・」
「何という子なの?」
「えっと・・・忘れちゃいました」
「佐藤君、そういうところよ。詰めが甘いからそうなるのよ」
「はい、気を付けます」
帰宅した私は与えられた休暇を消化して出社し、挨拶回りを終えた後、新設された戦略開発課の課長席に座り、報告書を読んでいた。
ここはここで、大変だな・・・また、休めない。
そんなとき、一人の小柄で若い女性社員が入ってきた。
「今日からこちらでお世話になります。綿矢姫子です。昨年入社したばかりの新人ですが、一生懸命に頑張ります」
綿矢姫子って・・・・もしかして・・・でも、人違いだったら恥ずかしいし、彼女に記憶があるとも限らない。
そう思い、私は質問する。
「課長の山田です。ところで、ランチでもどう?美味しいトンカツの店があるのよ。余談だけど、古い知り合いにトンカツを開発したら、カツ丼が定番だって言われたことがあってね。私はカツカレーだと思うんだけど・・・」
空気の読めない佐藤君がチャチャを入れる。
「綿矢さん、これは君を試す質問だよ。多分、山田課長はそう言った意味で・・・」
言いかけたところで、綿矢さんはパッと表情が明るくなり、こう答えた。
「そうですね。取調べのときにカツ丼がないと駄目だと心配されてますか?でもあれはドラマの中だけの話らしいですよ」
間違いない!!アイリスだ!!
話の分からない佐藤君は今も悩みながら、つぶやいている。
「これはどういう意味だろうか・・・・この回答でいいのか?」
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!
クリスとアイリスが初めて会ったときのエピソードを参照してください。会話の意味が分かると思います。
ep.25 待ち人来たる




