132 聖都へ
とうとう聖都ルベンシアまでやって来た。
付近に近付くだけで瘴気が充満しているのが分かる。悪魔から聞いた話では聖都のそこらかしこに瘴気を発生させる魔道具を配置しているらしい。
「数は多いですが、性能はあまり良くないみたいで、瀕死の状態にならないかぎりはアンデット化しないとのことでした」
「分かったわ。それでは安全策を取って、少しずつ解放していきましょう。特に建物の中に入るときは十分気を付けてくださいね。筆頭騎士団長!!部隊編成をお願いします」
10人一組で必ず聖都の地理が分かるマリシア神聖国の騎士団員が各組に入る形で、解放がスタートした。半日もするとかなり空気が良くなったと感じる。
そんな作戦も3日目を迎えたところで報告が入る。
筆頭騎士団長からだった。
「聖都ルベンシアの解放も残すところ、大聖堂だけとなりましたが、特殊な障壁が張られていて、中に入ることができないのです。攻撃や魔法で壊そうとしても壊れず、魔道士達が解析しているのですが・・・」
「とりあえず現場を見ましょうか?」
大聖堂は聖都ルベンシアの中心に位置していて、壮観で厳かな建物だった。元の世界でいうゴシック建築に似ていて、大きさは大型のショッピングモールくらいはありそうだ。こんな建物を建設できるなんて、どんだけボッタくってんだと思わなくはない。
「クリス殿、こちらです」
確認するとオーロラのような半透明の幕で覆われていた。
とりあえず触ってみようと近付いたが、感触がない。手を突っ込んでも抵抗もなかった。これなら入れるんじゃないかしら?
「あれ?なんか入れるんですけど・・・」
「そんなはずは・・・やっぱり私は入れません」
一緒に居たギーガやリルとリラは入ることができた。
「多分、人によって入れる者と入れない者がいるようですね・・・隊長クラスとバーバラとベビタン、それにピエール殿とミザリー殿を呼んでください」
★★★
色々実験をしてみた結果、障壁の中に入れるのは、私、アイリス、リルとリラ、ギーガ、ドーラ、ピエール、ミザリーの8人だけだった。一体どういうことだろうか?
バーバラが言う。
「これは妾にも分からん。何か意図を持って障壁を張っているようじゃが・・・・これを解析しようとすると10年は掛かるな・・・」
更にベビタンが続く。
「あくまで想像ですが、大量の魂を獲得することはもう望めないので、条件に合う魂を選別しようとしてこのような障壁を張ったのではないかと思います。条件については正直よく分かりません」
多分、システムの修正力の関係だろう。
実は、主人公の三人は「勇者」に転職していないのだ。サマリス王子とムリエル王女は兄のダグラス大公に遠慮をして、ダグラス大公は内政で多忙で、修行の時間が取れないからしばらく保留にしていたのだ。つまり、この中で「勇者」のジョブは私だけなのだ。
他のメンバーについては、システムの修正力が私のパーティーと判断したのだろう。
アイリスは言わずもがな、リルとリラ、ギーガは私の秘書だし、ミザリーも研修なので毎日顔を合わせている。ドーラは囚人でサマリス王子の管理だが、出張が多いサマリス王子は、ドーラの管理を私に託しているし、ピエールは捕虜扱いなので、私が面倒を見ている。
つまり、私と一緒に居る時間が長い順番にパーティーメンバーを決定したのだろう。8人というのも、ゲームのパーティーメンバーの上限と一致しているしね。まあ、あくまで想像の話だけど。
「このメンバーで行くしかないわね。ただ、生きて帰って来られる保証はないけど・・・嫌なら辞退しても構わないわよ」
すぐにギーガが反応し、リルとリラも答える。
「クリスさんが行くなら絶対行きます!!行かないなら行きません」
「「私も!!」」
これで、私が行かないという選択肢は無くなった。私が行かなかったら一気に4人抜けることになる。
続いてピエールとミザリーが言う。
「こちらの不手際でこうなったのだから我が行かないわけにはいくまい」
「魔王としての責任を果たします」
ドーラはというと・・・
「まあ、アタイは囚人だから決定権はないよ。行けと言われれば行くし・・・ただ、割に合わないから、生きて帰ってきたら刑期を少し短くしてもらえると有難いけどね」
照れ隠しだろう。
命を懸けて立ち向かうという強い決意が見える。
最後にアイリスだが・・・・
「姫様!!絶対に行ってはなりませんぞ!!妾がお守りすることができない状況では、何があるか分かりません。クリス殿達に任せればよいではありませんか!!」
「そうです!!何かあったらどうするんですか?本当に止めてください!!」
「行きます!!行けばいいんでしょ!!」
最後もいつものパターンだった。
「この障壁を通過できる状態がいつまで続くか分かりません。ですので、準備が出来次第突入します。2時間後を目途に準備をお願いします」
★★★
それぞれが別れの挨拶をしている。ピエール、ミザリー、リルとリラ、ギーガは魔王軍に指示をしている。
「もし私達が帰ってこなかった場合は、暫定の魔王をセバスとします。臨時の四天王をガンテスとロルゾー、もう一人は鳥人族から出すようにしてください。別任務に就いている女王には貴方達から言っておいてください」
「「はい!!」」
「タツメ、四天王筆頭として頼むわよ」
「いいけど・・・絶対戻って来てよね!!」
リルとリラ、ギーガも続く。
「リルリランドはガンテスとロルゾーに頼むぞ」
「しっかりやれよ」
「「はい!!」」
「ガンテス、ロルゾー、この棍棒に誓って、必ず戻って来るからな」
「戻って来なかったら俺達が四天王だから無理に戻って来なくてもいいぞ」
「ガンテスも素直じゃねえな。ギーガ、また棍棒戦しようぜ」
ドーラはというとサマリス王子に絡まれていた。
「ドーラ!!最後に一発殴ってくれ!!」
アイリスも似たようなもので、クリストフに泣きつかれていた。
「姫様、ご一緒できない私をどうかお許しください!!姫様の身に何かあれば、このクリストフ・・・ウッウッウー」
「クリストフ、見苦しいぞ。姫様を信じて妾達は待つこととしよう」
私のところには主人公の三人とロトリア王がやって来た。
「ヤマダ商会にはここに来る前に私が帰ってこなかったときのマニュアルを用意しているので、それに沿った対応をするように指示しておいてください。それと・・・もし私達が帰ってこなかった場合、三人が「勇者」となって立ち向かえば、大丈夫だと思いますよ」
「クリスお姉様!!そんなことを言わず、絶対に帰ってきてください」
「最後までお前に世話になりっぱなしだな・・・「勇者」の称号はお前に譲るよ」
ロトリア王が言う。
「ダグラスの言うとおりだ。貴殿の母は我らと同じく初代勇者の血を引いている。これまでの功績から考えても「勇者」に相応しい。「勇者」としての使命を果してこい」
生き残りを懸けて、勇者パーティーに入らないように頑張った結果、本当の「勇者」になってしまったんだから、皮肉なものだ。
本当のことを言うと、今すぐにでも逃げ出したい。しかし、この世界で暮らし、多くの守りたいものも増えた。この場では私が最高戦力だから行かない選択肢はないし、逃げたらきっと後悔する。
それに私の中の、自分を表現することが苦手で、不器用で、周囲に誤解されてばっかりだけど、本当は真面目で頑張り屋のクリスがそうはさせないだろう。
クリス、これで良かったんだよね?
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