123 出発の前に
私達連合軍本部組の出発は2週間後になった。アイリスやライアット達別部隊は一端祖国に帰国するそうで、会議終了後には既にムリエリアを立っていた。
慌ただしく準備をする一方で、私は転職神殿のデブラス副神殿長を訪ねていた。
「クリス様、本当によろしいんでしょうか?大々的に発表すれば、英雄に・・・」
「先程も言いましたが、内密にお願いします。私はあくまで脇役ですので・・・それよりも、レベル上げをしなければなりませんね。1週間で上げれるだけ上げないと・・・」
なんと私は「勇者」に転職していたのだ。主人公の3人は上級職を一つマスター(レベル20まで上げる)すれば「勇者」に転職できるのだが、私もなぜか「忍者」をマスターしたことで転職できるようになったのだ。どうして、「勇者」に転職できるか分からないが、これもシステムの修正力の影響なのだろうか?
転職するとレベルが1まで下がるので、不安ではあったがエジルとの戦いで何があるか分からないし、1週間でレベルを上げるだけ上げれば、以前より確実に強くなれると思い、転職を決意したのだ。
私は3日で「恐怖の2マス」と「無慈悲の3マス」をはしごして、レベルを30まで上げた。そしてリルとリラ、ギーガを連れて、魔族領の奥地でレベル上げを行ったのだ。リルとリラが泣き叫ぶ。
「し、死ぬ・・・」
「四天王として、エジルと戦う前に戦死です・・・・」
ギーガは歯を食いしばって付いてきていた。何とか3日でレベルを50まで上げることができた。
ステータスを確認してみる。
名前 クリスティーナ・ロレーヌ
レベル 50
ジョブ 勇者(上級職)
HP 400 MP 250
力 180 賢さ 100 素早さ 100 身の守り 90
スキル
「敵感知」「罠解除」「採取」「初級魔法」「回復魔法小」「鞭使い」「両手攻撃」「隠密」「潜伏」「解錠」「鑑定」「交渉術」「空間収納」「テンプテーション」「眠りの舞」「ハッスルダンス」「剣の舞」「投擲」「忍術」「分身の術」
勇者スキル
「電撃魔法強化」「アルティメットウィップ」
なぜか、ステータスが上昇しない呪いが解けていた。理由は分からないが、幸運だと思おう。
レベルが50に達したので、レベル上げを切り上げた。リルとリラとはリルリランドで別れた。ここからは魔王軍の隊長としての任務に就く。考えたくはないが、もしかしたらこれが今生の別れになるかもしれないと思うと、少ししんみりとする。
「リル、リラ、絶対に死なないでよね。危なくなったら逃げてもいいからね」
「う、う、・・・・クリスさん・・・」
「今まで、ありがとうございました」
泣きながら抱き着いてきた。
こっちも泣きたくなるじゃない。
ギーガはというと既に大泣きしていたけど・・・・
リルとリラと別れた後は、ギーガと共にムリエリアに帰還する。
帰り道、ギーガと二人で何気ない会話をした。
「ところでギーガは、魔王軍の隊長を断ったのはなんで?」
「それは・・・ヤマダ商会での研修が終わっていませんし・・・途中で投げ出すのはどうしても納得がいきませんしね。それと・・・まあ、この戦いが終わったら言いますよ」
「それってフラグって言うのよ。ギーガも絶対に死なないでよね」
「もちろんです。クリスさんもね」
★★★
ムリエリアに帰還する。
私が1週間いなくても何とかヤマダ商会は回っていた。商会員達も頼もしくなったものだ。これなら私がいなくても、みんな十分にやっていけるだろう。終活ではないが、もしかしたら、もう戻って来られないかもしれないと思って、身辺整理をする。私が戻って来なかった場合の措置もマニュアル化した。
そんな日々が3日程続き、いよいよ明後日が出発日となった。
そういえば、父親であるロレーヌ伯爵に挨拶しておこうか。クリスとしての記憶があるが、日本に本当の両親がいるので微妙な感じだ。でも、ロレーヌ伯爵からしたら私は本当の娘だし、お別れの言葉も言えないなんて、少し可哀そうな気もする。
私は、商会スタッフに父親のロレーヌ伯爵に挨拶に行く旨を伝えて、ムリエリアを出発した。
しばらくして、なぜかギーガが一緒についてくることになった。理由を聞いたら「いつもお世話になっているクリスさんのお父様に挨拶したい」とのことだった。
王都アリレシアのロレーヌ伯爵邸を訪ねたところ、ロレーヌ伯爵は私とギーガを快く迎えてくれた。
応接室に案内され、お茶を出された。
「陛下から聞いているよ。しっかり使命を果してきなさい」
「はい、お父様」
「これも運命かもしれんな。実はお前の母さんは初代勇者の血を引いていてね。母さんは常々『世が世なら私が勇者になったかもしれない』と言っていたよ。もし母さんが生きていたら、今のクリスティーナの雄姿を見られたのにな・・・・」
私に勇者の血が流れているなんて初耳だ。でもよく考えてみると、私は電撃魔法が使える。電撃魔法は初代勇者の必殺技だったそうだ。私にも勇者の血が流れているから「勇者」に転職できたのかもしれない。それにしても、そんな設定はあっただろうか?
「クリスティーナ・・・必ず生きて帰って来なさい。武運長久を祈る」
ここでなぜか、ギーガが大泣きする。
「お父様!!必ずやこのギーガが命に代えてもクリスさんをお守りします!!」
「そ、そうか・・・・よろしく頼むよ」
私も泣きそうになっていたのに、ギーガのお陰で涙が引っ込んだ。
ロレーヌ伯爵との挨拶を終えると私は、クリスの記憶にあるお世話になった従者や使用人に挨拶を交わす。みんな激励をしてくれた。
「あの我儘でやんちゃなお姫様が立派になって・・・」
「絶対に無事に帰ってきてくださいね」
挨拶を終えて、帰ろうとしたとき、なぜかギーガとロレーヌ伯爵が抱き合っていた。ギーガによると大棍棒剣(実際は高性能の大剣)を渡したことで意気投合したようだった。
「クリスティーナ、体に気を付けてな。ギーガ君もしっかり頑張りなさい」
ロレーヌ伯爵以下、総出で見送られて、私達はムリエリアに帰還することになった。
いよいよ、戦いが始まるのか・・・・・
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