表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/137

12 そうだ!!転職しよう 2

途中、海に転落するというハプニングはあったが、無事に転職神殿に辿り着いた。

後は無事に転職できるかどうかだ。ゲームでの話だが、クリスは転職できなかった。


「上級職の私がなぜ今更、下級職に転職しなければなりませんの?」


そう言って、クリスが拒否するのだ。それに選んだ職業によってコメントが変わる。

踊り子を選んだときはこんなことを言っていた。


「私が踊り子ですって!!ふざけるのもいい加減にしてください。貴族令嬢である私にとって、あんなはしたない服を着て人前で踊るなど、できるわけがありませんわ!!」


レベル20で成長が止まる上に転職もできないのであれば、捨てられるのも当然だ。別のジョブに転職し、新たなスキルを身に付けていればクリスの運命も変わっていたかもしれないのに。



転職神殿に入ると私は迷わず転職受付に向かった。現在転職できるジョブで、全く戦闘に向いていないのは「商人」、「占師」、「調合師」の3つだ。この職業はレベル5になるまで全くステータスが上がらないし、かなりのマイナス補正が掛かる。不遇職の代表のような職業だ。

私は「商人」を選ぶことにする。


「商人」は「鑑定」というアイテムの機能や人物のステータスが分かるスキルと「交渉術」というランダムで物品の購入時や宿の支払いの際に1割~3割の範囲で割り引いてくれるというスキルが有名だ。

「鑑定」は有用そうに見えるスキルだが、ゲームではあまり使えない。アイテムも装備すれば、その機能も分かるし、魔物相手の「鑑定」はステータスは分かるが、1ターンそれだけで終了してしまう。

「あったらいいね」くらいのスキルでしかない。

「交渉術」もランダムな発生に加えて、ゲーム終盤では10ゴールドの宿代が7ゴールドになったところで、「それが何か?」みたいな感じになる。

「商人」は、力も強くならないし、魔法も覚えない。斥候職のような冒険に役立つスキルも覚えない。


勇者パーティーメンバーの選考にはダグラス王子だけでなく、軍事関係の専門家もアドバイザーとして参加するだろう。レベル1の「商人」なんて書類選考でアウトだろうし、それに世論も納得させられない。もしこのプロジェクトが失敗した場合、「なんでそんな奴入れたんだ」と叩かれることは目に見えている。

ゲームならゴリ押しで可能だろうが、実際半年近くこの世界に住んでみて、ゲームのようにいかないことが多々ある。人間関係のしがらみや市民感情など、いくら勇者であっても抗えないことも存在する。


私が「商人」を選んだ理由は他にもある。それは、勇者パーティー加入を阻止した後の人生を考えてのことだ。

私は転生前は大手の商社に勤めていた。就職したときは、大手というだけで選んだのだが、10年以上仕事をしてみて自分に合っているし、仕事が楽しいと思えるようになった。商品の企画開発をしたり、市場調査をしてマーケティングする。

できればこの世界でも商売に携わりたい。ゲームのタイトル風に言うと「クリスさんの異世界細腕繁盛記」が始まるのだ。


希望を胸に受付で申し込む。受付の巫女は驚いて言った。


「本当に「商人」でよろしいのでしょうか?せっかく上級職の「レンジャー」なのに・・・」


「はい。間違いありません」


それはそうだろう。普通は、こんな転職をする奴なんていない。


「そうですか・・・・転職後に後悔されないのであれば、それで構いませんが・・・・。それでは転職料が一般職の「商人」ですので2万5000ゴールドになります」


「えっ!!お金取るんですか?」


「当たり前じゃないですか!!こっちも生活が掛かってますからね」


「以前はタダで・・・・」


私は以前アリレシアで、無料で転職させてもらったことや勇者パーティーのメンバーが転職に来たらどうするのかと問い詰めた。ゲームでは転職するのに転職料なんて必要なかった。


「ああ、慈善活動のことですね。慈善活動の一環である出張転職は訪れた先の町や国、冒険者ギルドなどが寄付という形で一定の金額を納めてくれるんですよ。だから転職する方は無料でも実際はこちらに転職料は入ってくるわけなのです。

『勇者パーティーが来たら?』それはもちろん料金なんて受け取れませんよ。

世界平和の為に立ち上がった方々から法外な料金を受け取ったら、世間からなんて言われるか分かりませんからね・・・」


本当にコイツらは舐めてやがる!!

それに今「法外な料金」って言ったし!!


まあ、転職できるのは世界でここだけだし、所謂独占市場だ。転職料なんて、まさに言い値だろう。

2万5000ゴールドだなんて・・・・日本円で250万円じゃないか。

しかし、こっちは人生が掛かっている。仕方なく言われた金額を収めることにする。

そうしたところ、その巫女はとびきりの笑顔を浮かべてこう言った。


「ありがとうございます。今ならキャンペーン中で3万ゴールドで、初期研修を受けられますよ。そうすれば初期スキルが身に付きますので、どうでしょうか?」


転職神殿がここまで商業主義に傾いてるとは思わなかったが、それは有難い。私は弱いステータスを維持したままアリレシアに帰らなければならない。なので、絶対に帰りは戦闘してはいけないのだ。

私はほぼ全財産である3万ゴールドを支払った。


「それでは係の者が呼びに来るまで待合室でお待ちください。それと、もし「レンジャー」に戻りたい場合は5万ゴールド必要になります。上級職の転職料は一律5万ゴールドですので。

又のご利用をお待ちしております」



★★★


転職自体はあっさり終わった。晴れて私は「商人」となったのだ。

これで3万ゴールドなんて詐欺に近い。

私を転職させてくれた神官はだらしない体をしており、その金ピカの服装や装飾品から想像するにかなりいい暮らしをしているのだろう。


ただ、転職キャンペーンの初期研修はかなり役に立った。ステータスは軒並みダウンしたが、「鑑定」と「交渉術」のスキルを身に付けることができた。

また、この世界の商売の基本や資金管理、商人としての心構え、そしてアリレシアの有力商会への紹介状も貰った。

これで5000ゴールドなら正直安いと思う。日本でも50万のセミナーや研修を受けてもこれほど質がいいことはない。担当者に話を聞いたところ納得した。


「まず、3万ゴールドなんて大金をポンと支払えるくらいなんですから、かなり商才があると思いますよ。将来の大商人となるかもしれない方にぞんざいな扱いはできませんからね。

それに商人の情報網を舐めちゃいけませんよ。ただでさえ法外な転職料を取っているのにぼったりくだ、詐欺だ、なんて言われたらこっちも商売あがったりですからね」


初期研修の担当者は人の良さそうな老人だった。本人は引退したただの元商人と言っていたが、雰囲気からして相当な商人だと思う。早速身に付けた「交渉術」と商社で鍛えたコミュニケーション力でこの商人と仲良くなった。


「お嬢さんにだけ言いますが、研修が充実しているのは「商人」、「占師」、「調合師」それに「踊り子」くらいですよ。後は詐欺みたいなもんです。「重戦士」の研修なんて、その辺を走らせて、素振りをさせるくらいですからね。

まあ、ウチが担当しているのであれば、そうはさせないんですが・・・。

そうだ、自己紹介がまだでしたね。私はアントニオ・シャーロックです。シャーロック商会というしがない商会の元会長です。機会がありましたら、またお声かけください。」


アントニオ・シャーロック!!

ゲームにも登場する世界的な大商人ではないか!!


またしても予期せず、ゲームの重要人物と邂逅してしまった。

気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ベニスの…? 悪徳…???
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ