117 記念式典 1
とうとう記念式典が始まった。オープニングセレモニーはバーバラのステージだった。会場は大盛り上がりだった。バーバラに引き続いて様々なパフォーマーがステージに上がる。
私達は各国の要人をレース場に案内する。最初に行われる騎竜レースを観戦するためだ。解説は勇者パーティーのマリアが務める。
「事前のオッズでは、ライアット皇子が一番人気、時点でモンダリア騎馬王国のトールが二番人気ですね。もし賭けるなら、この二人を中心に買うのがいいかもしれませんね」
流石は高確率で予想を的中させる「幸運の神殿」を運営しているだけのことはある。的確な分析だろう。
そんなときマリアが近付いてきて、小声でこう言った。
「今のは表向きの情報です。実は私達が注目している選手がもう一人いるのです。その選手が3位までに・・・」
マリアが言うのはリルリランド出身のゴブリン族の少女だった。ほとんど注目されていないので、オッズも高い。3位までに入れば5倍の配当金がもらえるようだった。
「まあ、彼女の単勝とライアット皇子、トールを含めた3人の複勝を中心に購入すれば、まず負けはありませんよ」
レースはというと、優勝候補のライアットとトールが先行する形でスタートした。注目のゴブリン族の少女は中盤よりやや下に位置している。レースはそのまま最終コーナーまで進んだ。1着はライアット、2着にトールと続く。
そこへ、猛然と追いすがる1頭の騎竜がいた。ゴブリン族の少女が騎乗している騎竜だ。
どんどんとライアットとトールに迫る。二人もそれに気付いたようで、騎竜のスピードを上げる。結果、トールには逆転したものの、ライアットには及ばず、惜しくも2位となった。
私は、リルリランドの住民が活躍できて、嬉しく思った。マリアが言う。
「かなりさっきのレースで儲かりましたよ。それに情報屋としての名声も高まりました」
情報屋ではなく、そこは「幸運の神殿」と言ったほうがいいと思う。
接待される要人達はご満悦だ。マリアの言ったとおり、ライアットかトールに賭けていれば、そこそこ儲かったのだから。
続いては、一人乗りホバークラフトレースが始まる。こちらもマリアが要人達に解説をしている。
「優勝候補はもちろんムリエル王女ですね。次点がロトリア王国宮廷魔導士団のミレーユです。こちらのレースはこの二人を中心に買えば、問題ないと思います」
要人達はこぞって従者に指示して、買いに走らせていた。
レース自体は予想通りの展開で、危なげなくムリエル王女が1位で逃げ切り、ミレーユが2位となった。
続いては二人乗りホバークラフトレースだが、マリアの解説では、やはりディート・トルデコペア、バーバラ・ベビタンペア、タツメ・プーランペアが有力候補のようだった。
マリアが小声で言ってくる。
「このレースは正直読めません。妨害ありのルールなので、いくら有力候補でも、途中リタイアとなる可能性は十分あるので、正直、賭けで勝つことを考えたら、見送るレースですね。まあ、レース自体は面白くはなりそうですがね。ここまでの2レースで儲けたので、財布の紐を締めるのも大事ですよ」
マリアはギャンブラーとしても一流のようだった。固いレースしか勝負しないようだ。
しかし、各国の要人達は違っていた。
最初の2レースでそこそこ勝てたことに気を良くして、無茶な買い方をしている者もいる。この辺がプロと遊びの一環でやっている者との違いだろう。
レースが始まる。
出場は20組だったが、早々に10組がリタイアしてしまった。これはバーバラ・ベビタンペアの妨害攻撃によるものだ。中盤に位置していたバーバラ・ベビタンペアは前のホバークラフトには魔法砲撃、後続のホバークラフトには氷の柱を出現させる嫌がらせを始め、多くの車両が巻き込まれた。
バーバラは興奮している。
「何人たりとも妾の前は走らせんぞ!!」
「バ、バーバラ様!!落ち着いてください。やり過ぎです!!」
ベビタンがバーバラを宥めている。このペアはスピードよりも他のペアへの攻撃に力を入れたホバークラフトにしているようだった。まるで、日本にあった大人気カートゲームを彷彿とさせている。
一方、先頭はディート・トルデコペアだ。
こちらは、基本通りで性能にとことんこだわった作りにしているようだ。スピード、コーナリング性能ともにトップクラスのようだった。
レース展開は、ディート・トルデコペアをバーバラ・ベビタンペアが追いかける展開で、その後ろをタツメ・プーランペアが追う展開だ。バーバラは興奮しきっていて、魔法弾を撃ちまくっている。
「ディート!!止まらんと撃つぞ!!妾を先に行かせるのじゃ」
「何を言ってるんだバーバラ!!もう撃ってるじゃないか!!」
ホバークラフトの性能とトルデコの運転技術で上手く躱している。
そんな展開が続いていたところ、ゴールまで、残り300メートルを切ったところで動きがあった。タツメ・プーランペアが急加速し始めた。
タツメが叫ぶ。
「行け!!ドラゴンブースト!!」
ディート・トルデコペア、バーバラ・ベビタンペアを抜き去り、そのまま1着でゴールしてしまった。
続いてディート・トルデコペア、3着にバーバラ・ベビタンペアとなった。
表彰式を終え、3ペアが貴賓席にやって来た。
タツメがミザリーに言う。
「これで、魔王軍の威信を高められたでしょ?勝つにはこれしかないと思って最後の最後まで奥の手を取っていたんだ」
これにディートが反応する。
「そうか・・・あのスピードでコーナーを曲がりきることができないから、最後の直線にすべてを懸けていたんだね。技術に負けたというよりは戦術に負けた感じかな」
バーバラも会話に加わる。
「悔しい・・・ディート達に気を取られて、タツメ達をマークしておらんかったのが敗因じゃのう。こんなことなら早めに潰しておくべきじゃった・・・」
サンクランド王や他の要人達も会話に入ってきた。
「ミザリー殿、バーバラ殿に勝つとは魔王軍もなかなかだ。我が国と人事交流をしてもいいかもしれんな」
「お褒めいただき感謝します。今回は運よく勝てましたが、バーバラ殿に匹敵する魔導士は、そういませんからね」
たかがホバークラフトレースだが、要人達の交流のきっかけにはなっているようだった。
そしていよいよ武術大会が始まる。
本日は予選のみで、ベスト8まで決める予定だ。ベスト8以降の試合は明日となる。
今度は私がマリアに尋ねた。
「マリア様は、武術大会はどう見ていますか?」
「ベスト8を予想することはある程度できますが、優勝者を予想することは正直無理そうですね。アイリス王女やギーガさん、ドーラさんに賭けておけばベスト8に進出することは間違いないと思います。それと、一番人気はなんとレナードさんなんですよ。
今回私は勝率は度外視して、同じパーティーのよしみでマッシュに賭けます。最後は自分が応援したい人を買えばいいと思います」
なるほど・・・結局私は、アイリス、ギーガ、ドーラ、レナードの優勝に賭けることにした。誰が勝っても収支はマイナスだが、楽しめたらいいかというのが本音だ。
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