113 オーガスティン領のおもてなし 4
最終競技の決勝戦が終わり、各部門の3位以上が表彰されている。
そしてなんと、総合優勝をしたのは、すべての競技で4位となったマッシュだった。本人もびっくりで、「棍棒投げ」「相撲」で1位、2位のドーラとギーガが「棍棒戦」に出場できなかったのが優勝した要因だろう。アイリスが言う。
「結局最後に勝つのは、無難にポイントを積み重ねた人だということですね」
「そうだね。パーティーのために体を張って攻撃を受け止めて来たことが評価されたんだと、私は思っているわ」
表彰式が終わると入賞した選手達は大勢の観客たちに取り囲まれていた。ギーガやドーラ、アイリスは予想通りの人気だが、意外にもマッシュとレナードも大人気だ。
これに目を付けたのは勇者パーティーのマリアとマルチナだ。抜け目なく商売をしている。
「こちらは新商品の「楯棍棒」ですよ!!大楯に棍棒がセットされているんです。これでマッシュ様のような戦士になれますよ!!」
「楯棍棒」・・・楯に普通の棍棒をくっつけただけじゃないか!!
しかし、意外に売れている。本当に棍棒と言い張れば、何でもいいのだろう。
「こちらはレナード様が使っていた「三節棍」ですよ!!さらに追加料金でトゲトゲの鉄球が付けられますよ!!」
これにはトゲトゲの鉄球が大好きなトロル族が反応する。
「なんだと!!鉄球の種類は選べるのか?」
「もちろんです。スタンダードだと両端に1個ずつ付ける形になりますね」
実際に商品を見たが、不良品のモーニングスター2本を柄の部分でくっつけただけだった。
あまり、あくどいことをするようなら注意をしなければならないだろう。でも、お祭りのネタ商品としてみんな買っているようだったので、問題は無さそうだけどね。
★★★
表彰式が終わると宴が始まる。
オーガスティン領の宴は独特で、領民も領主も関係なくテーブルを囲み、酒を酌み交わす。私が警備上の問題があると訴えても、却下された。各国の国家元首が参加しなかったのも、これが原因のひとつでもあるのだ。
ギーガの父の領主様は言う。
「クリス殿、心配することはない。ガンテスとロルゾーが警備をしてくれることになっているから、安心してくれ」
そうは言うが、ガンテスとロルゾーは普通に酒を飲んでいる。
ギーガが言う。
「多分、父とクリスさんとは認識が違うのです。暗殺したところで、誰もその者には従いません。正々堂々と勝負して勝ってこそ、領主と認められるのです。それにこのような宴では、領主などの強者に挑戦する権利が領民にはあるんですよ。ただ、挑戦者が多いと領主もお酒を楽しめないので、代わりに一騎討ちしてくれる猛者を置くことが通例なのです」
そういえば、ガンテスもロルゾーも相撲をしたり、棍棒合わせをしたりしていたが、多分挑戦者を追い返していたのだろう。
「今日はやっぱり少ないですね。あんな激しい戦いを見せられたら、多少の心得がある者は挑戦してきませんからね。よっぽど自信があるか、記念に挑戦する感じでしょうね。まあ、余興の一つと思ってください」
オーガ族は毒にも強く、打たれ強いので暗殺をするのは至難の業だ。だから、暗殺を防ぐ意識に乏しいようだった。
アンタらはそれでいいかもしれないが、こっちはそうはいかないんですけど!!
一応、各国から手練れの護衛を連れてきているし、こちらも「謎の盗賊団」に警備を依頼しているから大丈夫だと思うけど。
そんなことを思いながら、会場を回っていると領主様から声を掛けられた。
「クリス殿!!開発担当官の任務、ご苦労だった!!今後もとも頼むぞ。それから、文官達からの推薦もあり、貴殿を文官長とすることにした。引き続き、オーガスティン領を、そしてギーガを支えてやってくれ!!」
「あ、あの・・・私は商会長でもありまして・・・業務が多忙というか・・・」
「それは心配いらん。週に何日かこちらに来てくれればいいからな。詳しくは文官達と詰めてくれ。最大限報酬を出そう」
「は、はい・・・」
また、厄介ごとを背負い込んでしまった。
これ幸いと文官達にとり囲まれ、契約までさせられてしまった。基本は週一回、繁忙期には追加で出勤することになってしまった。
「クリスさん、本当にありがとうございます。これからも力を合わせてオーガスティン領を発展させていきましょう。このギーガ、棍棒に誓ってクリスさんを支えていきます」
「あ、ありがとう。期待しているわ」
ギーガは凄く嬉しそうなので、そう言うしかなかった。
一通り挨拶回りを終えた後、一人で飲んでいるとロトリア王が声を掛けてきた。
「クリス殿、何から何まで世話になって、本当に感謝している。それにダグラスのことは改めて詫びをさせてほしい」
「陛下、もうお気になさらずに」
「そう言ってもらえると有難い。ダグラスがああなった後で言うのもなんだが、サマリスはどうかね?サマリスもここ最近頼もしくなってきたし、国王としても・・・」
ロトリア王は、サマリス王子と私を結婚させようとしているのか?
「有難いお話ですが・・・多分サマリス王子には思い人が・・・」
「な、なに!!そ、そうか・・・・ところで、どんな女性なんだ?」
「強くて逞しい女性だと思うのですが・・・・」
ロトリア王は黙り込む。
「あの報告は本当だったのか・・・とりあえず、サマリスのことは置いておいて、ムリエルはどうだ?女同士でもこの際は・・・・」
何を言っているんだ?普段の冷静なロトリア王の面影もない。
「陛下、少し酔っていませんか?」
「これは失礼した・・・どうも子供達のことになると、冷静に判断ができなくなるのだよ。三人の子供達はロトリア王国のことを大切に思ってくれている。誰が国王になるにしても、クリス殿がこのままロトリア王国に居てくれれば、安泰だと思ってな。
まあ、酔っぱらいの戯言だと思って聞き流してくれ」
やはり、国王というのは他人には分からない重圧があるのだろう。
「陛下、心配なさらずとも、あのお三方であれば大丈夫ですよ。稀代の名君、ロトリア王の血を引く方達ですからね」
「そ、そうだな。私が稀代の名君とは思わんが、子供達のことは信じている・・・」
「私もロトリア王国貴族として、友人として、ムリエル王女達を支えていきますから」
「有難う。今後も期待しているよ」
ロトリア王は満足そうにして、去っていった。
商会長でも大変なのに、一国の王なんて本当に大変だろうなと思ってしまう。
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