11 そうだ!!転職しよう 1
本当に危機的状況だ。
このままでは勇者パーティーに加入してしまう。
考えろ、考えろ、考えろ・・・・
もう時間は無いんだ。
「本当にどうしたらのいいのよ!!ゲームだったらバグとか裏技とかないの?」
バグ?裏技?
そうだ!!
私は一つの作戦を思いついた。これなら周囲が納得の上、勇者パーティーに入らなくていい。
★★★
勇者パーティーメンバーの選抜に際しては、ステータスが表示されたギルドカードの提示が必須である。いくら実績のある私でもギルドカードに表示されているステータスが低ければ選考の対象外になるだろう。では、如何にしてステータスを下げるかという話になるのだが、方法がある。
それは転職による一時的なステータスの低下だ。
私は今、上級職の「レンジャー」だが、初期ステータスの低い、不遇職と呼ばれるジョブに転職すればいいのだ。上級職や「魔導士」などの専門職は適性が必要だが、不遇職であればそれは必要ない。
明らかに戦闘に向かないジョブも存在する。なぜこんなジョブがというものもあった。小学生の時は分からなかったが、猛者と呼ばれるプレイヤー用の縛りプレイのためだろう。
話は逸れたが、転職をするには転職神殿に行かなければならないし、レベルが20にならなければ転職できないのだ。転職神殿は別大陸にあり、ゲーム中盤のイベントをクリアして船を入手し、別大陸に渡れるようになってからだ。小学生の頃、マップ上ですぐ目の前にある転職神殿に行けないことが、どうにも、もどかしかった。兄は「気合と根性で泳いで渡ればいいのに。俺が勇者ならそうするな」とか言っていた。まあFFQシリーズに限らずRPGゲームのあるあるだ。
普通なら絶望的な状況だが、実は裏技が存在する。転職神殿のある大陸とロトリア王国がある大陸は海で隔てられているが一箇所だけかなり接近している場所がある。ゲームで言うと1マスだけ海になっている。ここで氷結魔法を連続で100回使うとその1マスの海が凍って歩けるようになり、大陸の横断ができるようになるのだ。当時、そんな場所で100回も氷結魔法を使うなんてどんだけ暇な奴なんだと思っていた。実際、連続100回氷結魔法が使えるようになるのは、魔法系のジョブでもレベル40前後なので、普通にプレイしたほうが効率がいいので誰もやらない。
今の私はレベル12なので、1ヶ月でレベルを40近くまで上げるのは無理だと思うかもしれないが、私には勝算があった。ゲームの知識をフル活用すれやれると・・・。
まずはレベル上げだ。
レベル40までは上げなくてもいい。せめて転職に最低限必要な20までは絶対に上げたい。ただこのロトリア王国は弱い魔物しか出現しないので普通にやれば無理だ。しかし、ゲームの知識をフル活用すれば、何とかなるのだ。
ロトリア王国には「恐怖の2マス」と呼ばれる場所が存在する。かなり端っこにあるので普通のプレイヤーは行くことが無いのだが、主人公のレベルが30くらいでやっと倒せる魔物が出現するのだ。
多分、製作者サイドのミスだと思うのだが、なぜそのようなことになっているのかは未だに謎だ。
私のレベルは12と全く足りていないが、私には状態異常を無効にする「形見のネックレス」と攻撃力105で全体攻撃ができる「女帝の鞭」というチートアイテムがあるから、上手く立ち回れば何とかなるはずだ。実際に現地に行ってみると本当にこの大陸では有りえないくらい強い魔物が出現した。
FFQシリーズではお馴染みの「グレート三兄弟」(グレートボア、グレートベア、グレートコング)だ。
どのシリーズでもコイツらが倒せるようになったら一人前と言われている魔物達だ。
私は回復用アイテムを買い込み、防具もアリレシアで最高の物を購入し戦いに臨んだ。結果は・・・圧勝だった。「女帝の鞭」が優秀過ぎる。2~3回の攻撃で殲滅できてしまった。それにすぐにレベルが上がるので、あっという間に一撃で倒せるようになっていた。そして3日目にはレベルが25に達していた。
★★★
目標のレベルに達したので、私は注文していた武器を受け取りにアリレシアで知る人ぞ知る鍛冶屋に来ていた。そこはドワーフの名工が切り盛りする鍛冶屋で素材があれば強力な武器を作成してくれるのだ。
私はミスリルのインゴットを渡し、「ミスリルの鞭」の作成を依頼していた。
「いやあ、本当にびっくりしたよ。「ミスリルで鞭を作ってくれ」なんて依頼は初めてだからな。普通は剣とか槍なんだが・・・・。まあ、初めてなんで気合入れて作ったから良い出来に仕上がってるぞ」
「ありがとうございます。親方の技術には、毎回頭が下がります」
「あれ?前に注文してくれたことあったっけ?」
「えっと・・・以前、親方の作った武器を拝見させてもらったことがありまして・・・」
何とか誤魔化した。「ゲームで何度も使ってました」とか言えないしね。
「ミスリルの鞭」に限らずミスリルの装備は魔法を付与することができ、効果が1.5倍になる。例えば炎の魔法を付与すれば通常の攻撃にプラスして魔法のダメージも加算される。それに魔法と違い、効果が切れるまで何度も使うことができるのだ。
それではなぜ、私が「ミスリルの鞭」を手に入れたかというと、今のレベルでは氷結魔法を100回連続で撃てないからだ。鞭に氷結魔法を纏わせ、海に打ち続けていれば同じ効果が得られるのでは?と考えた。
実際にやってみると確かに凍った。これならいける。私は一心不乱に鞭を振り続けた。傍から見れば、頭がイカれた女が海に向かって鞭を振り回している姿は、衝撃の光景に違いない。日本で同じことをすれば、確実に警察に通報されるだろう。
腕が上がらなくなるくらいまで鞭を振り続けた結果、なんとか歩いて大陸を横断できるくらいまで海が凍っていた。
私は希望を胸にその一歩を踏み出した。
気掛かりといえば、ミスリルのインゴットについてだ。
なぜなら、ミスリルのインゴットの入手先は「希望の丘」にある主人公たちの母親の墓の中だ。ゲームではシナリオが進み、母親の生前の行動が明らかになる。情報を集め、母親の墓の中には母親の思いの詰まった手紙とミスリルのインゴットがあることが判明する。手紙を読み、ひとしきり感動に浸った主人公達は、手に入れたミスリルのインゴットで、それぞれに合った武器を作るという流れになっている。
ミスリルのインゴットを発見するのはゲーム終盤だ。それまでにミスリルのインゴットを用意する必要がある。まあ、その辺は後々考えよう。絶対にクリアに必要なアイテムではないし・・・
でも、普通に考えて他人の墓を勝手にあさる行為は、いくらゲームの世界とはいえ、どうかと思う。
罰が当たらなければいいが・・・・
「ギャー!!」
氷が割れて海に転落した。
幸い、海を渡り終える直前だったので、ずぶ濡れになった以外は大きな被害はなかった。
罰が当たったのだろうか?
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