109 建国祭
私は今、通称「勇者の町」に来ている。山をクリスタルの力で崩して、魔族領へと入るのだが、「勇者の町」が思いのほか発展してしまい、様々な思惑からウエスタリア公国として独立することになってしまったのだ。国家体制だが、もちろんダグラス王子が大公として国家元首となる。王国を名乗らないのは、ロトリア王国に配慮してのことだ。形上は属国という扱いなのだが、かなり本国とは離れているし、本国も干渉するつもりもないようなので、実質は独立国と言ってもいい。
ここからの流れだが、こちらで建国祭を行った後、山をクリスタルの力で壊すイベント、そしてオーガスティン領においての友好記念式典という流れになる。担当だが、勇者パーティーメンバーのマルチナが建国祭とクリスタルイベントを取り仕切り、私とアイリスでオーガスティン領の友好記念式典を取り仕切ることになっている。
ミザリーもイベントの運営を勉強したいと言っていたが、流石に魔王だし、今回のメインゲストでもあるので、却下した。
そんな状況の中、「勇者の町」に来たのだが、かなり発展していた。一緒に町を散策しているアイリスが言う。
「何か、ムリエリアとバーバリアと旧転職神殿をギュッとコンパクトにまとめたような町ですよね?」
「そうね。開発の担当がマルチナとマリア様だからそうなるのも頷けるわ。後はこんな町が多く出てきたら差別化が大変だろうけど、まあそんな心配は今はしなくていいし、魔族領との交易が上手くいけば、それも大丈夫だしね」
一通り町を回った後、ヤマダ食堂の系列店に入って食事をすることにした。
このころにはバーバラやベビタン、クリストフとも合流していた。
「ご当地メニューも充実しておるし、妾としては満足じゃ」
バーバラは大喜びだし、ベビタンは一心不乱に魔女っ子ランチを食べている。
「ビッグホーンブルのメニューも出せば売り上げが上がるんじゃないでしょうか?」
「姫様も仕事熱心じゃのう。それを言うなら妾にも提案がある。ここにしかない、おまけのおもちゃを開発するのじゃ。そうすれば、売り上げが上がること間違いなしじゃ」
アイリスも成長しているが、バーバラも変わってきたと思う。以前は商売のことなんて興味がなかったのに、人とは変われば変わるものだと思ってしまった。
★★★
いよいよ建国祭が始まった。
私はというと来賓席に座らされている。今回は、各国の国家元首は呼ばないことにしていた。表向きは魔族領に近いこともあり、危険ということであったが、どうも政治的な理由もあるらしい。なので、国家元首はロトリア王のみで、各国の大臣クラスが出席する。アイリスもキアラ王女もライアット皇子もその代表者として参列し、町づくりに貢献した功績で私とシャーロック商会のゲルダ会長も参列しているのだ。
私が一番気掛かりだったのは、建国祭を取り仕切っているマルチナだった。いきなりここまでの仕事をさせるのは不安だったが、杞憂だった。緊張はしていたものの、的確にスタッフ達に指示を出していた。建国祭が終わった後にマルチナに声を掛ける。
「凄いわ、もう一人前ね。しばらくこの町にいると思うから、ヤマダ商会ウエスタリア公国のエリアマネージャに任命します」
「ありがとうございます。ここまでやってこれたのも会長やマリア様のお陰です」
「困ったことがあったら遠慮なく相談してね。独り立ちしてからも問題はいっぱい出てくるからね」
異世界に来ても、部下の成長を見るのは嬉しいものだ。
次の日、建国祭出席者全員で、魔族領と境界にある祠に移動する。この祠に四つのクリスタルをセットすれば山が崩れて、魔族領に道が繋がるのだ。リルとリラの報告では、魔族領の準備も万端だという。FFQシリーズの大ファンの私としては物語の見せ場の一つなので、物凄く楽しみだ。
最初にロトリア王が勇者パーティーの功績を述べる。
「我が息子ダグラスが率いた勇者パーティーは世界に点在する四つのクリスタルを集め、今日ここにいる。ここまで数々の困難に打ち勝ち、ウエスタリア公国も建国した。初代勇者の血を引く我らロトリア王国の王族としては感慨深い。魔王討伐の為に結成した勇者パーティーだが、最終的には平和的に解決することができた。勇者パーティーは我らの誇りだ」
観客から歓声が上がる。
そして、打ち合わせどおり、初期の勇者パーティーメンバーの四人がそれぞれクリスタルを一つずつ持ち、観客の前に姿を現した。リンダのお腹が少しふっくらしているのが分かる。
おい!!妊婦なんだからビキニアーマーは止めろよ!!
後でマリアとマルチナには言っておこう。
式典は進む。
ダグラス大公を先頭にマッシュ、リンダ、マリアが続いて祠に入っていく。しばらくして、ドゴーン!!という轟音が鳴り響き、山が崩れた。
実際に見るとかなりの迫力だった。現代で言うとダイナマイトで山を爆発させたようなものだろうか。
しばらくして、土煙が収まると道が開けていた。
そして、その先にはギーガを筆頭とした魔族の集団が待ち構えていた。一瞬緊張感に包まれたが、集団が掲げている「大歓迎!!勇者御一行!!」と書かれた横断幕を見て、拍子抜けしてしまった。
集団に近付くと、ギーガがダグラス大公に歩みより言った。
「我は魔王軍が四天王、「鬼棍棒」のギーガ・オーガスティンである。貴殿らを歓迎しよう。オーガスティン領の領主館で魔王様がお待ちしている」
事情を知らない貴族や商人達は呆気に取られていたが、これも予定通りだ。
ここまでは、イベントの運営に携わっていなかったのだが、ここからは私の仕事の時間だ。気を引き締めて臨まないとね。
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