104 女子会
場所は居酒屋ヤマダ、失恋した設定である私を慰めてくれるため、ムリエル王女が中心となって、女子会を企画してくれたのだが、趣旨を理解していないリルとリラ、今回から参加しているディートが大はしゃぎしている。
「楽しいねえ。女子だけで集まって、食事会をするのは以前にはなかった文化だね」
「料理もすごく美味しいし、経費で落ちるからどんどん食べてください」
「あっ!!でもデザートが出てくることを考えて食べたほうがいいですよ」
まあ、あっちは放っておこう。
そんな中、バーバラが声を掛けてきた。
「慰めの言葉でも掛けてやろうと思って来たが、あまり落ち込んでおらんようじゃのう?」
「そうだね。そもそも付き合っていたかどうかも分からないしね」
ムリエル王女が言う。少し酔っているようだ。
「しかし、ダグラスお兄様は未だに許せません。クリスお姉様に求婚しておいて、別の女と・・・」
「まあ遠くの勇者より、近くの冒険者って言うしね」
これに食い付いてきたのは、こちらも今回から参加しているミレーユだ。
「やっぱり、近くに居続けることが大事ですよね。私もビキニアーマーを買おうかな・・・・」
「ちょっとミレーユ!!貴方は宮廷魔導士団員としての自覚があるんですか?ライアット皇子に何かしたら、それこそ国際問題ですよ」
「そんな!!私はライアット皇子を影で支えているだけです。嫉妬なんてみっともない真似は止めてください」
「クリスお姉様、ミレーユはこんな感じなんですよ。リンダもそうですが、恋って怖いですね」
「そうだね」
当のリンダはというと、かなりバッシングを受けているが鋼のメンタルを持っているので全く動じていない。「アバズレ」「尻軽露出寝取り姫」と呼ぶ者がいる一方で、ビキニアーマー女子達からは絶大な支持を受けているのだ。それはそうだろう。ビキニアーマー女子からすれば、シンデレラストーリーもいいところだ。勇者パーティの一員となり、勇者のハートを射止めてしまったのだから。
なので、ムリエリアとバーバリアでは、空前のビキニアーマーブームが到来している。これにはヤマダ商会のビキニアーマー制作の担当者が独立したことも大きい。再三にわたり、「意味のない切れ込みの角度にリソースを割くな」と注意はしていたのだが、聞き入れなかった。
「会長にはお世話になりましたが、私は自分が信じるビキニアーマーを作っていきたいのです」
独立後はビキニアーマー専門店を開店し、独自の奇抜なビキニアーマーを製作して、一部のマニアから支持を得ているようだった。これでますますビキニアーマーの認知度が高くなり、平均的なスペックのビキニアーマーを売っているヤマダ商会も売り上げが伸びたのは皮肉なことだったが。
こっそりとリルとリラに視察に行かせたが、「タダの紐に大金をはたいている」との報告があった。実物を見たが、独立をさせてよかったと心から思っている。ヤマダ商会の商品はビキニアーマーだけではないし、変なイメージがついてもいけないからね。
そんな話をしていたとき、こちらも初参加のミザリーが話題を変える。
「実はクリスさんを元気付けようとギーガとクリストフさんが特別料理を用意しています。
ギーガ!!料理を持ってきて!!」
「はい!!ただいま」
ギーガが持ってきたのは前に食べたグレートボアの角煮と見慣れない煮込み料理だった。
「こちらは以前にお出ししたグレートボアの角煮です。そして、こちらはグレートベアのスジ肉の煮込みです」
これにアイリスが反応する。
「角煮は美味しかったですけど、グレートベアの肉は全体的に固くて、それにスジ肉ですし・・・」
これにクリストフが答える。
「姫様、是非試しに食べてください。私とギーガ殿で3日も煮込んだのですからね。まさかグレートベアの肉とは思えない柔らかさですよ」
試しに食べてみるとこれも口の中でとろけた。グレートベアは臭味があって固いけど、これは全然違った。
「ギーガ、クリストフさんありがとう。特別な技術は必要ないけど、二人の愛情が感じられる料理だわ」
ギーガが照れくさそうに言う。
「何かクリスさんが落ち込んでいるって聞いたので、一生懸命作りました」
クリストフはというとこちらもアイリスに称賛されて嬉しそうだった。
今回、私が失恋したということで、多くの仲間達が私の為に駆けつけてくれた。本当にありがたいと思う。ゲームの中のクリスも、もう少しだけ素直になれていたら、こんな未来もあったのかもしれない。
「そういえばライラさん、お兄様とはどんな感じですか?」
「そ、それはただの・・・・別に何とも思ってないよ」
「嘘だあ、ピエールって呼び捨てにしてたしね」
「クリスったら、なんてことを!!失恋して落ち込んでなさいよ!!」
そんな感じで恋バナに突入した。この日は、楽しすぎて飲み過ぎてしまった。家には無事帰ったのだが、ところどころ記憶が曖昧だ。
次の日、完全に二日酔いでグロッキーだった。
でも、昼からはアイリスと今後の展開について意見交換をするんだった・・・・
★★★
アイリスがやって来た。アイリスも二日酔いだった。
「飲み会の次の日に仕事ができるかどうかで、ビジネスマンとしての優秀さが決まるのよ」
「本当ですか?それって昭和っぽいですね」
「まあ、冗談はさておき、私の仮説を話すわね・・・」
私が立てた仮説は、システムの修正力からすると勇者が誰か、まだ決め切れていないのではないか?
というものだ。だから、ムリエリアにネームドキャラを集めているし、様々なイベントが起こる。これなら、勇者がダグラス王子ではなかったとしても何とかストーリーとして成り立たたせることができる。
ダグラス王子は頻繁にムリエリアに帰ってくるし、ここにネームドキャラを配置しておけば、修正がしやすくなる。
なので、未だに気が抜けない状況だと認識しなければならない。
また、ここまで魔王軍の中枢に入り、アドバイザー的なポジションをしていると闇落ち判定されているかもしれない。
と、まあここまで話したが、結論を言えば、全く先が読めないということだ。ここまで、ゲームのイベントではなく、刑務所の暴動事件や旧転職神殿の悪魔召喚事件などのイベントが突発的に起こっていることを考えると、今後どうなるか分からないのだ。
つまり、真のボスであるエジルを討伐しなければ私に平穏な日々はやってこないということだろう。
「なるほど・・・とにかくエジルを倒せばいいんですね。ところで、エジルってどこにいるんですか?」
「ゲームでは魔王城ね。でも、現在魔王城は完全に掌握しているし、エジルが近付いただけで、すぐに報告が来るようにしているからね。もしかしたら、全く思いもよらない場所に現われるかもね」
「そうなんですね。後は・・・そうだ!!まだ仲間になっていないネームドキャラがいるんですよね?それにちょっとミザリーさんには聞けなかったんですけど、魔王軍の四天王って、セバスさん、ギーガさん、エジルと後は誰なんですか?
全員が登場してからストーリーが動き出すんじゃないんでしょうか?」
相変わらず、アイリスは鋭い。
「そうね。実は魔王軍の四天王と、まだ登場してないネームドキャラは密接に関係・・・・」
そう言いかけたところで、スタッフが会長室に駆け込んできた。
「た、大変です!!ドラゴンです!!巨大なドラゴンが・・・・・」
やっぱりそうなったか・・・・
システムの修正力も強引な手に出て来たな。
「アイリス、現場に向かいながら説明するわ」
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