100 幕間 ディートの観察者日記
~ディートリンテ視点~
観察者の任務でバーバリアに来たがここは住み心地がいい。バーバラはバーバリアに領主館と対岸のムリエリアにも邸宅を持っていて、仕事の関係で都合がいいほうに泊まるようだ。基本的にはムリエリアでアイリス王女と従者のクリストフと一緒にムリエリアに居る。
僕も両方に部屋があるけど、最近では新型の乗物の開発のため、トルデコの工房に入り浸りなので、ムリエリアに暮らしている。
どちらの町も食事は美味しいし、仕事も面白いし、言うことはないんだけどな・・・・
でも観察者の任務をこなさなければならない。
それは世界各地を回って、情勢を報告しないといけないのだ。何百年か前に不真面目な観察者がただ遊んだだけで、何も有益な情報を持ち帰らなかったので、活動資金を全額返済させられたそうだ。
それから少し厳しくなり、調査項目を達成しなければならなくなった。幸い、現魔王とも面談できたし、新しくできた町の情報も手に入れたので、任務は大分捗った。
後は一応世界の主要国を回れば終了なのだけどな。
前回は無計画に移動したので、調査期間が長かった割には大きな成果はなかったけど、今回はすでにご褒美のクリスタルも渡しているし、追加の報奨金ももらえるだろう。
ある日、クリス会長に言われた。
内容としては、旧転職神殿復興プロジェクトのメンバーと一緒に世界を回り、最後に訪れる開発中の「勇者の町」でご褒美が渡せるようなら風のクリスタルを渡してほしいとのことだった。
これは渡りに船だった。
二つ返事でOKした。訪れる国も主要国ばかりで、しかも期間は3~4ヶ月の予定だから、かなりお得だった。
僕としては、早く世界一周を終わらせて、研究に専念したいのだけどね。
★★★
最初に訪れるのはランカシア帝国だ。ライアット皇子の母国でもある。船の甲板でライアット皇子とアイリス王女が話している。
「ところで、なんでウチとランカシア帝国と仲が悪いの?」
「それがよく分からないんです。いつの間にかこんな感じになったみたいで。バーバラ様なら知っているんじゃないでしょうか?」
これにバーバラも加わる。
「妾が生まれたときには既に仲が悪かったと思うぞ。領土が接ししているわけではないのに不思議だと思ったのじゃ。もしかしたらディートは知っているのではないか?」
ランカシア帝国とサンクランド魔法国は仲が悪い。
人間は愚かなところも多いなあ・・・300年も前のことをまだ引きずっているのか・・・・
丁度僕が初めての観察者の任務に就いたときのことだ。国際会議でランカシア帝国の皇子とサンクランド魔法国の王子がある小国の王女に恋をしたのだ。二人は情熱的に求婚したが、結局その王女は幼馴染と結婚してしまった。
困ったのは双方の皇子と王子だった。互いに相手の卑怯な策略で王女は仕方なく幼馴染と結婚するしかなかったと主張し、それ以後険悪な関係になったみたいだけど。
まだ、やっているのかというのが僕の感想だ。
「お互いに争っている当人達が、理由も分からないのは皮肉なもんだねえ」
「ディートの言うとおりじゃ。もう終わらせてもいいかもしれんな。姫様とライアット皇子が結婚でもすれば解決するんじゃがな・・・」
これに猛反発する二人がいた。クリストフとミレーユだ。
「バーバラ殿!!冗談が過ぎますぞ!!姫様には姫様のことを一番に考えている人物が相応しいのです」
「ライアット皇子には、お側で陰から支えられるような方がいいと思いますし・・・」
男女のトラブルはいつの時代でもあるようだ。
旅は続き、挨拶回りの最後はサンクランド魔法国だった。ランカシア帝国が最初ならサンクランド魔法国が最後でなければならないらしい。面倒くさいことだ。一応両国の王様には事の経緯を話した。双方とも理解を示してくれたけど、いきなり変えるとトラブルになるし、両国が組んで何か良からぬことを企んでいると勘繰られるかもしれないとのことだった。
ここまでこじれると、関係を修復するのも骨が折れるようだった。
★★★
そして僕達は「勇者の町」にやって来た。思ったよりも発展している。しばらくこの町に滞在するので、僕はバーバラとベビタンと一緒に街を散策することにした。転職神殿もカジノもレース場もあった。
「なんか、リトルムリエリアみたいな感じかな?」
「そうじゃのう。マリア殿とマルチナがいるからそうなっても不思議ではないがな。それに転職神殿の巫女もおるし、そう考えれば、この町はますます発展するじゃろうな」
「バーバラ様!!ヤマダラーメンがあります。是非食べて行きましょう」
「ベビタンよ。ムリエリアに帰ればいつでも食べられるというのに・・・・しかし、妾も食べたくなってしもうた・・・」
「じゃあ、入ろうよ!!」
美味しかったけど、味は少し変わっていた。こちらではグレートボアがほとんど取れないので、ロックバードの骨で出汁を取り、あっさり目の味にしているようだ。
「系列店とはいえ、ここまで場所が離れると味も変わっていて楽しめる」
「本当ですね。入ってよかったですね」
バーバラもベビタンもご満悦だ。
この町はムリエリアやバーバリアとまるっきり一緒というわけではなく、上手くノウハウを町づくりに取り入れて、この地域にあった発展の仕方をしている。ラーメン一つとってもそのコンセプトが分かる。
これは合格だな。
評価はクリスタル二つだ。
僕は勇者が居る領主館に向かった。
領主館では現勇者のダグラス王子とサマリス王子、ムリエル王女が談笑していた。久しぶりの兄弟の再会を嬉しがっているようだった。
僕はダグラス王子に事情を説明した。
「この町は他種族とも共存ができているし、短期間でよく発展せているので、ご褒美で風のクリスタルと土のクリスタルをご褒美であげよう。使い道は色々あるだろうから、それもよく考えてね」
ダグラス王子はびっくりしていたが、次第に表情は曇っていく。
「この二つのクリスタルで火、水、風、土の四つのクリスタルすべてが揃った・・・・一度帰国して今後の方針を決めよう。土のクリスタルの捜索をどうするのかも含めてな・・・」
領主館を出た後、僕はムリエル王女に尋ねた。
「お兄様は大変悩んでいらっしゃるのです。勇者とは何か?どうするのが正解か?ということに・・・」
なるほど・・・・人間とは本当に面倒くさい生き物だなあ。
目的が達成出来たらそれでいいってわけではなさそうだ。それに選ばなかった未来にも未練があるのか・・・選ばなかった未来が予想できる存在がすぐ近くに居るからな。
1000年以上生きていると分かる。大半の出来事は取るに足らないことばかりで、その時、その時を大切に楽しめばいいだけなんだけどね。
「僕からアドバイスするとしたら、ムリエリアで美味しいラーメンでも食べようよってことかな」
「そうですね。美味しいものでも食べれば、お兄様も元気になると思います。それに失敗は誰にでもあることですし。クリスお姉様も話せば分かってくれると思います。謝ることがまず大事ですけどね」
「それはそうだね。色恋沙汰で300年近く喧嘩を続けている国もある位だからね」
「勇者の町」での滞在は予定よりも少し延びた。というのもダグラス王子が一緒に帰ることになったからだ。「勇者の町」の運営があるので一緒に帰る勇者パーティーはマッシュとリンダだけだった。
しかし、リンダという奴は一体どんな神経をしているのだろうか?
変な恰好をしているし、言っていることもかなりズレている。
全く・・・・クリス会長がかわいそうだ。
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