10 ただ時間だけが過ぎていく
具体的な勇者パーティーの発表までの流れです。
勇者選定の儀 → 兄弟イベント → 勇者確定 → 勇者発表セレモニー → 勇者パーティーの発表
裁判後、私の生活は少し変わった。
冒険者としての活動とレベル上げはそのままだが、騎士団の訓練に参加させられたり、ムリエル王女からはお茶会に誘われたりと冒険者以外の活動に時間を取られるようになってしまった。最強装備の「女帝の鞭」を手に入れたことで、魔物は一瞬で倒せるのだが、経験値的に中々レベルが上がらない。3ケ月経ってやっとレベルが13になった。
もうそろそろこの町からトンズラしなければならないのだが、勇者パーティーの最有力候補なので、そうもいかない。3日を超える王都外への外出は届け出が必要になってしまった。それに尾行されている。ちょっと意地悪をして尾行を撒いてやったら、人数を増やされた。
なぜここまでするのか?事情を聞いたら納得だった。
それは3年前のライラが大怪我を負ったあの事件も関係している。冒険者部隊が壊滅した原因は裏切りだったのだが、それ以外にも有名パーティーが崩壊する事件が頻繁に起こっているらしい。これは魔族の策略でパーティーメンバーに魔族の息のかかった者を送り込み内部崩壊させるらしい。だからあの事件以後、大規模な掃討作戦はリスクが高く、行われていないようだ。
そうのような事情なので、勇者パーティー候補に厳しい身辺調査がなされるのは必然だろう。
なので、迂闊に逃亡することはできない。すぐに追手を出されて、手配されてしまうだろう。これではこれから先、お尋ね者として一生を送らなければならない。
これからどうすればいいのだろうか?
ただ、時間だけが過ぎていく・・・・。
★★★
勇者発表セレモニーまで約1ヶ月を切った。もう時間がない。そろそろ勇者選定の儀が始まる頃だ。
勇者選定の儀は、王都の教会で行われるのだが、基本的に非公開だ。ごく少数の側近と有力貴族しか参加することは許されない。幸い父のロレーヌ伯爵も出席予定だったので、頼み込んで私も参加させてもらうことになった。
三人の主人公、ダグラス王子、サマリス王子、ムリエル王女とはこの数カ月でかなり仲良くなっており、私が出席することを喜んでくれていた。
勇者選定の儀は私のゲームの記憶とほぼ同じ形でスタートした。
教会の高名な司祭が神から神託を受けるという設定だと記憶している。厳かな雰囲気の中、司祭が話始める。
「おお神よ!!何ということでしょうか?勇者の資格がある方が三人もいらっしゃる・・・・ダグラス王子、サマリス王子、ムリエル王女です。それ程世界が危機に瀕しているのでしょう。矮小な私には選べません。信託はここまでとさせていただきます」
ゲームであれば、ここでプレイヤーが三人の中から選ぶのだが、この世界ではどうだろうか?
すぐに声を上げたのはダグラス王子だった。
「もちろん私が行く。勇者としての魔王討伐は、本当に危険な任務だ。生きて帰れないかもしれない。サマリスには俺が帰ってこなかったとき、このロトリア王国を盛り立てて欲しい。そしてムリエルは女性として幸せになってほしい」
続いてサマリス王子、ムリエル王女が話す。
「この国には私より、兄さんの方が必要です。私が行きます」
「正直、私は怖いです。でもお兄様達が危険な目に遭うなら私が・・・・」
最終的に国王の判断に委ねられることとなった。
「長男のダグラスを勇者とする。この国は世界を救った勇者の末裔が建国した国だ。次期国王はダグラスだ。このような困難に打ち勝ってこそ真の国王だ。期待しているぞダグラス!!」
まあこうなることは分かっていたけどね。
プレイヤーがサマリスかムリエルを選んだ場合、選んだキャラに光が降り注ぎ、司祭が「真の勇者は○○(プレイヤーが選んだほう)だ」と言って勇者が決定する。そうならなかった時点で、ダグラスが勇者となることが決まっているのだ。
なぜダグラス王子に光が降り注がなかったのか?という論争もあるが、ネットの定説では、ダグラスは闇落ちシナリオがあるので、その関係ではないかと噂されている。
私としては、ダグラス王子が勇者に選ばれたことは好都合だ。
実はダグラス王子が勇者に選ばれたときにのみ発生するシナリオで、私が勇者パーティーに加入することなく冒険が始まる場合があるのだ。
そうすればクリスのバッドエンドは回避できるのだが・・・・・
★★★
その夜、私はダグラス王子達の思い出の場所「希望の丘」に来ていた。通称兄弟イベントの成り行きを見守るためだ。
ここで、三人が揃って思い出話をしたり、兄弟の絆を確かめ合ったりするのだ。ここには主人公たちの母親の墓もあり、ゲーム終盤で再度訪れたときに伏線が回収されるシナリオもあるのだ。
私は祈るのような気持ちで三人を見守っていた。
三人勇者シナリオ来い!!
結局、私の希望は打ち砕かれた。
三人勇者シナリオというのは、主人公3人が一緒にパーティーとなって冒険が始まるパターンだ。クリア後のボーナスシナリオとなるのだが・・・・やっぱり無理だったか。
ここで、ムリエルが「お兄様を一人で行かせるわけにはいきません!!」と言って、着の身着のまま、勢いで三人で冒険に出発してしまうのだ。そして途中最強のNPCケルビンが合流するという流れになる。
このシナリオは結構鬼畜だった。クリアした後にプレイさせる製作者サイドの気持ちもよく分かる。だって、初期のチュートリアルもないし、冒険初期の資金も装備も貰えないのだ。唯一ケルビンという最強キャラが仲間になるが、レベル10以上が推奨のランカシア帝国からのスタートとなる。
レベル1でレベル10推奨のエリアで冒険がスタートする上にケルビンは戦闘面ではクリス以上の能力を持ってはいるが、探索系のスキルは持っておらず、かなり苦労する。
このシナリオは小学生の頃はクリアできなかったが、私が大学生となったときに発売されたリメイク版でクリアすることができた。いい思い出だ。
発生しなかったシナリオをいくら懐かしんでも仕方がない。
本当にこれから私はどうすればいいのだろうか・・・・。
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