1 プロローグ 異世界転生
「ちょっとお客さん!!看板なんで、そろそろ・・・」
テーブルに突っ伏して寝ていた私に店員らしき男が、肩を叩き、声を掛けてきた。
「うーん・・・・あれ?ここは?」
寝ぼけた私が声を出すと店のカウンターの奥から女性の声が聞こえて来た。
「ちょっとクリス!!いくらこの町で最強の冒険者だからって調子に乗るんじゃないよ!!そんなんじゃ勇者パーティーとしてやっていけないよ」
最強の冒険者?勇者パーティー?クリスって誰?
どういうことだろうか?
私が困惑しているとカウンターから熊のように大きく、モフモフした女性が現れた。さっき私に声を掛けてきた女性だ。
「えっと・・・クリスって?私は山田です。人違いじゃないでしょうか?それに変なコスプレをしてらっしゃいますが、どちら様でしょうか?」
「はあ!!アンタどんだけ飲んでんだよ!!私がルイーザだって忘れたのかい?」
熊獣人の女店主ルイーザ・・・・うそ!!・・・ここは始まりの町の冒険者ギルドに併設されている「ルイーザの台所」だった。一体どうして?
曖昧だが、記憶をたどってみる。
★★★
私は山田琴音、大手商社に勤務する33歳のOLだ。三十路という恐ろしい壁を越えて早3年、浮いた話は全くなく、昨年、名ばかりの係長に昇進したことを契機に社畜人生まっしぐらだ。
まあ、仕事はそこまで嫌いではないが、ここまで連日忙しいと神経がすり減ってしまう。そんな私の唯一無二の趣味は、RPGゲームだ。
今日は3ケ月間チーフとして頑張って来たプロジェクトが一段落した。来週、先方と正式に契約できれば今までの苦労も報われる。
そんなとき、課長から有休を取ることを進められた。
「上司が休まないと部下が休めないだろ?それにこの件が片付いたら、新しいプロジェクトに参加してもらうから・・・・。悪いが、今度はもっと忙しいぞ」
まあ有難い。
ということで私は有休を2日取得することになった。今日は金曜日で月曜日も祝日なので、5連休だ。
だが、急に降って湧いた5連休なので、旅行なんて行けない。なので、この5連休はゲーム三昧で過ごすことにした。
やるゲームは決まっている。ファースト・ファンタジー・クエスト、通称FFQシリーズだ。半年後に最新作FFQ9が発売される予定で、頻繁にテレビCMで有名アイドルが「エフエフキューキューしようぜ!!」と大々的にプロモーションしている。
それに今作は、過去のすべてのシリーズの謎が解明される伏線回収作品との触れ込みで、私クラスになると新作の発売前に過去作品を再度攻略して、シリーズ全体のつながりを確認する。
忙しい日々の合間にコツコツとクリアしていき、現在やっと第3作まで完全攻略できた。私の中で完全攻略というのは、裏ボスを倒し、すべてのシナリオをプレイし、すべてのアイテムを集めることだ。
この5連休でせめて第4作と第5作は完全攻略しておきたい。
そんな意気込みで私は、大量の食糧と若干のアルコール飲料を買い込み、帰宅する。急いでシャワーを浴び、買ってきたビールを缶のままガブ飲みし、近所の焼き鳥屋で買ってきた特製のニンニクたっぷりスタミナチキンをかっ喰らう。
「旨い飯はしばらくお預けだな」
ちょっと厨二病っぽく言ってみた。これからの5日間、全く外出するつもりはない。よって、これからの食事はすべて冷凍食品かダイエットフードだけだ。
良く味わうこともなく、食事を終えると私はゲームのスイッチを入れた。
「さあ、冒険の始まりだ!!」
★★★
ここで私の記憶が途絶えた。そして、今ここにプレイしようとしたFFQ4の世界に迷いこんでしまったのだ。
私はラノベも好きでよく読んでいたが、まさか自分が異世界転生するとは思わなかった。ゲーマーなだけあって、異世界転生自体はウエルカムなのだが・・・・転生したキャラが問題だ。
私は持っていたギルドカードを確認して絶望した。
名前 クリスティーナ・ロレーヌ
レベル 9
ジョブ レンジャー(上級職)
HP 60 MP 40
力 30 賢さ 30 素早さ 40 身の守り 20
スキル 「敵感知」「罠解除」「採取」「初級魔法」「回復魔法小」「鞭使い」「両手攻撃」
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!