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1-8

 学校内で起きた、紫陽花のスキャンダルばらまき事件からさらに数日が経った。

 放課後にて。


「…………」

 クラス内を牛耳っていた紫陽花は、すっかりその立場を失っていた。

 今までは顔の良い男子生徒を集めて逆ハーレム状態だったのに対し、孤立するようになった。

 当然誰も紫陽花の命令を聞かないし、無理矢理聞かせようとすればかつて取り巻きだった生徒が止めにかかる。


 紫陽花には落ち着きが無かった。

 この状況に危機感を持っていたからだ。


「あ、あのさ、今日仕事ないからさ、どこか遊びに行かない?」

 そして彼女は復権を狙っていたからこそ、どうにか周囲の機嫌を取ろうと、少しぎこちない笑顔で他の生徒に話しかけたが……。


「ごめん、今日塾あるから無理」

「俺も」

「私も~」

 他の生徒は荷物をまとめながらそう返した。

 この時、誰も紫陽花の方を見て言わなかった事が、今の紫陽花の立場を物語っていた。


「塾って嘘でしょ」

「当たり前じゃん、俺あいつ嫌いだし」

「わかる、汚い親父と寝てる癖に話しかけんなよなって思う!」

「だよなー!」

 声をかけられた生徒たちはそそくさと教室を出て行ってしまった。

 仕舞いには、廊下から紫陽花を罵る声まで聞こえる有様だった。


「ううぅ……、なんで……、どうしてなのよ……」

 あの校内にばらまかれたスキャンダル以降、生徒たちの態度は変わった。

 それだけではなく、掲示板に貼りだされた写真はSNSを通じて拡散されてしまったのだ。

 結果、紫陽花と契約していたスポンサーは離れ、テレビ番組のオファーは消え、光の魔法少女アイドル・ショウカの名前はすっかり汚れてしまったのだ。


 紫陽花は泣きそうになりながら、下唇を噛みスカートの裾を握りしめていた。

 それでももう、誰も彼女に声をかけようとはしなかった。


 かつての絶頂とは想像もつかない程の失墜。

 もう紫陽花を慕う者は、居ない。



「……そろそろね」

「うん? どうしたのひがんちゃん」

 生徒が教室から出て行き、やがて紫陽花と隠花、ひがんの三名になった時。

 ひがんはぼそりとそう言うと、紫陽花へと近寄った。


「……何よ転校生」

「あなたはもうおしまい。もうあなたの偽りの輝きに誰も騙されない」

 そして悲壮感に打ちひしがれている紫陽花へそう言い放ったのだ。


「はぁっ? 急に何なのよもう!」

 当然、紫陽花は逆上した。

 しかし、今まで取り巻きの力を借りていた紫陽花には、ひがんをどうする事も出来ない。

 本人もそれを分かっていたので、その場で金切り声をあげて地団駄を踏むだけだった。


「ひ、ひがんちゃん……? そんなわざわざ挑発しなくても」

「誰もあなたを助けないし、見ない」

「うるさい! うるさいうるさいうるさい! だいたい、あんたが来てから全部おかしくなったのよ!! 全部あんたのせいよ!」

 紫陽花はただ目に涙を溜めながら何度も大声で訴えたが、ひがんはいつも通り無表情なままだ。

 隠花は身をすくませながらも、二人のやり取りを見守っていた。


「隠花ちゃんも何か言って」

 すると、ひがんは無表情のまま隠花の方を向いてそう告げた。


「えっ?」

「早く」

「えっ、あのっ……。ずっと紫陽花さんが好きでした、憧れでした。でもこんな人だったなんて……、すごく残念です。ごめんなさい」

 唐突な態度に隠花は、戸惑いながらもそう紫陽花に告げた。


「ふざけんなよ! 何見下してるんだよ! そもそもなんでスクールカーストド底辺のあんたなんかに言わなきゃいけないわけ!」

「そう、あなたが一番見下している人に、憐れまれているの」

「きいぃぃーーー!」

「だから……。あなたのキラキラした生活も、終わり」

 ひがんは紫陽花にとどめの一言を言い放った。

 その一言は今までよりも力強く、心に刺さるような印象だった。


「……私は輝いている。キラキラしてる」

 すると、今までひがんに怒鳴り散らしていた紫陽花は、うつむいたままぶつぶつと喋っている。


「……誰もこのキラキラを止められない」

 そしてこの時、紫陽花の全身から何か光のオーラのようなものが、湧きたつような感じがした。


「……私の邪魔をするのなら」

 隠花は目を何度も擦ったり眼鏡をはずしてみたりした。

 体から光が出るなんて、漫画やアニメの世界以外ではありえないと信じていたからだ。


「誰だろうと、許さないッ!」

「ちょ、ちょっとなにこれ!」

 隠花が戸惑っている最中だった。

 まるで波紋が広がるように白い光が周囲を満たしていき、風景はまるでモノクロ写真のような白黒のみの世界へと変わってしまった。


 隠花はおどおどしながら、ひがんの方を見た。


「ひがんちゃん! な、なにその格好……」

 隠花は思わず手を口に当てて、身を引いて驚いた。


 頭には彼岸花の赤い飾りがついた黒いヘッドドレスを取り付け、全身を黒色のワンピースで包んでいる。

 ワンピースの胸元にはフリルタイがついていて、肩はふわりと膨らんだパフスリーブになっており、姫袖には彼岸花がプリントされていた。

 ロングスカートは、燕尾状になっており裾もフリルがあしらわれており、姫袖と同じく赤い彼岸花がプリントされている。

 一見、ロリータ風な印象だが、首輪や腕や太ももにつけている革製のベルトや、衣装やコルセットベルトについている鎖飾りからパンクっぽい雰囲気も出していた。

 艶やかな銀髪は、所々赤くメッシュが入っている。


 そして何よりも、ひがんの耳がまるでファンタジー作品に出てくるエルフのように長く尖っていた。


「隠花ちゃんも変わってる」

 ひがんは無表情のまま、隠花の方を向いて告げた。


「えっ? う、うわあ! 私の格好も変わってるー!」

 その言葉に対し、隠花はふと教室にあった鏡で自分の姿を見ると、ひがんの服装が変わった時以上に身を引いて驚いてしまった。


挿絵(By みてみん)


 今まで飾り気が皆無だったおさげは、ヘッドドレスで飾ったツインテールへと変化しており、そこから猫耳が生えている。

 生涯で一度も染めた事が無かった地味な黒色の髪は、ツインテール部分に青いメッシュが入っていた。

 真っ黒なワンピースはひがんの着ている衣装よりも多くのフリルをあしらっており、パフスリーブやスカートはよりふわりと丸く膨らんでいる。

 姫袖やコルセットベルトについたリボンが明るい水色なところから、ロリータっぽい印象が強い。


 この時隠花は、ひがんが言っていた姫という言葉を思い出した。

 しかし何故景色や衣装が変わったのか、まるで理解せずただ戸惑うだけだった。

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