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1-7

 翌日。


「本当に大丈夫かな……」

 隠花はふとそう漏らしつつ、普段歩きなれた道を歩いて学校へ向かう。

 やがて学校へ到着して靴箱から屋内用の靴に履き替えると、靴箱前にある掲示板がある広場に人だかりが出来ている事に気づく。


 隠花は気になり、そこへ近寄っていく。

 普段は学内行事や学生コンクールの情報、部活動や生徒会の活動報告が掲載されている場所で、多くの学生は興味を示さない情報ばかりのせいか、人だかりが出来る事は滅多と無いからだ。


「おい、なんだこれ」

「うわぁ……、やっぱこういうのやってるんだ……」

「俺好きだったのに……ショックだな」

「ねえこの子って、最近転校してきたあのアイドル……」

 隠花は人ごみをかき分け、掲示板がある壁へと向かっていく。


 そしてようやく掲示板に張り出された掲示物を見た瞬間、隠花は思わず身を引いた。


 ”アイドル魔法少女・ショウカの秘密! テレビ局プロデューサー、大物音楽家、芸能プロダクションの社長との黒い交際!”

 ”昼はアイドル契約、夜は愛人契約! 有名になる為なら体でも魂でも何でも売り払う現代の売女(カキタレ)!”


 なんとそこには、まるで週刊誌のような目を引くフォントで書かれた文字と共に、紫陽花が自分の父親程の年の男性とベッドの上で情事に耽っている画像や、札束や貴金属や何やら訳のわからないものが散らばっている中で両手でブイサインをしながら悦に浸っている画像が貼りだされていたのだ。


「ぎゃあああああ!!! な、なにこれ! 信じられない!」

 隠花が嫌悪感で顔をゆがめていた中、後ろから悲鳴をあげてきた紫陽花がとりまきと共に現れた。


 そして紫陽花の姿を確認した学生達は、紫陽花をまるで汚物を見るかような目で見下しながらある程度距離を置いていった。


「紫陽花さま、おちついて下さい」

「これはきっと何かの間違いかと」

 とりまきの男子生徒は慌てつつも、紫陽花をなだめようとした。


「誰だおい! こんなことやった奴は!」

 しかし紫陽花はとりまきの生徒の言葉を無視し、目を見開き鼻息を荒くさせながら周囲を見る。


「隠花……ッ! てめえかッ!」

「ひっ」

 そして隠花と目が合うと、彼女へと迫り学生服の襟を無理矢理掴んだのだ。


 隠花は表情が強張り、涙目になっていた。

 周りにひがんはいなかったので、このままでは紫陽花から罰を受けてしまうと考えたからだ。

 掲示板を取り囲んでいた学生生徒たちも、隠花や紫陽花と目が合わないように彼女らの方を見ないようにしていた。


「冷静になって下さい紫陽花さま」

「こんな写真、隠花に撮れるわけないですよ」

 紫陽花のとりまきの生徒が、怒る紫陽花に対してそう呼びかけた。

 てっきり一緒になって、隠花を酷い目にあわせると誰もが思っていただけに、全員が驚いた様子だった。


「ちっ……」

 紫陽花は、舌打ちをすると隠花の襟をつかんでいた手を離した。

 隠花はすかさずその場から教室へと逃げた。


「何見てんのよ!」

「ひぃっ」

「逃げよ……」

「芸能人ってこわ……」

「ファンクラブ抜けるか……」

 紫陽花の恫喝に、今まで掲示板を囲っていた生徒たちも自分が授業を受ける教室へ各自戻っていった。


「お前らもさっさとはがせ! はーやーくー!」

「は、はい!」

「かしこまりました!」

 周囲に人が居なくなっていくのと同時に、紫陽花は普段よりも高い声でとりまきの学生生徒へ指示をする。

 取り巻きの男子生徒は慌てて掲示物をはがしていく。



 この事件をかわきりに、生徒の間で紫陽花に対する態度が変わっていった。


 数日後、教室内にて。


「あのさー、私喉乾いちゃったんだけどー。ちょっと買ってきてくれる?」

 授業が終わり、合間の休憩時間が訪れた。

 紫陽花は足を組み、教室内に聞こえる声でそう言った。

 いつもなら取り巻きの誰かがすかさず飲み物を持ってくるはずだったが……。


「…………」

「…………」

「…………」

 誰も紫陽花の為に動こうとはせず、教室内の生徒は各々好きな事をしていた。


「おそいなー、まだー?」

 紫陽花は引きつった笑みを見せながら、再び周囲に呼びかける。


「…………」

「…………」

「…………」

 しかし、それでも周囲の生徒は一切動かない。


「ねえ、なんで誰も来ないわけ?」

 結果、傲慢な態度をとった紫陽花が教室内で浮いた感じになってしまった。


「ねえってば!」

 紫陽花はとたんに不機嫌で不快な表情をして、無視をする生徒たちへと怒声を浴びせた。


「紫陽花、もう終わりなんだよ」

 それに対し、取り巻きだった生徒はそう冷たく答えた。


「は?」

「お前についてくる奴はもう居ねえよ」

 紫陽花は苛立ちを隠さず再度確認したが、取り巻きだった生徒も冷たい態度は変えない。


「ふざけないでよ! おい隠花!」

 ついにはスクールカースト最下位の隠花へ命令した。

 これに従わなければ極刑、従っても軽い刑罰を受ける……はずだった。


「隠花、もうあいつの言う事は聞くな」

「えっ、う、うん」

「あいつに何かされたら言えよ、仕返してやるからさ」

「あ、ありがと……」

 これには隠花も驚き、戸惑っていた。

 だが取り巻きの生徒は、さも当然のように隠花に優しく接した。


「はぁあああ? 何なのよもうーー!」

 隠花に対して紫陽花は怒りを爆発していた。

 その場で何度も地団駄を踏み、金切り声をあげていた。


 隠花を庇った元紫陽花取り巻きの男子生徒たちは、紫陽花の怒りに対しても何も言わず、まるで紫陽花が居なかったかのような振る舞いをする。


 庇われた隠花はほっと胸を撫でおろしたものの、急な心変わりに少し困惑していた。

 ひがんの方を向いたが、彼女は終始本を読んでいて我関さずの様子だった。

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