8-5
「さてと……」
変形した春先は、右手の拳を握りしめ隠花の方を見つめると……。
「きゃあっ!」
次の瞬間、春先は隠花の目の前に現れて握った拳で隠花を頬を大きく殴った。
隠花は悲鳴をあげながら持っていた杖を手放しながら、後方へ大きく吹き飛ばされて倒れた。
「カイカちゃん!」
ひがんは倒れた隠花を守ろうと、すかさず地面を強く蹴り春先との距離と詰める。
そして大鎌の射程の入った事を確認すると、全身を使って大鎌を薙ぎ、春先の胴体を両断しようとした。
大鎌は春先を捉えた。
春先の胴体は真っ二つとなり、これで全ての決着がつく!!
……はずだった。
「そんな!」
両断した春先の胴体は、まるで霞のように散っていく……。
そして振るった大鎌の上に、切断されたはずの春先が腕を組んで立っていたのだ!
ひがんはその光景を目の当たりにした瞬間、目を大きく見開く。
直後に春先は、腕を組んだまま大きくしゃがみ込み、ひがんの顔を蹴った。
「ああぁっ!」
ひがんも隠花と同様に後方に大きく吹き飛ばされ、地面に倒れてしまう。
その様子を見た春先は二人に追い打ちをかけるのではなく、その場で再び手を握ったり開いたりしたり、自分自身を見たりする行為を繰り返す。
「り、リコリス……ちゃん……」
「カイカ……ちゃん」
春先の攻撃を受けた二人は、お互いの名前を呼びながら立ち上がろうとする。
「はぁっ……、はぁっ……」
二人ともどうにか立ち上がったが、隠花は呼吸を荒くして表情の険しい。
「…………」
ひがんは顔こそ出さないが、足や腕は小刻みに震えている。
「さて、次はどうする気だい? 魔女ちゃんよぉ?」
春先は組んでいた腕を解くと、片手で手招きをして魔女達を挑発した。
「馬鹿にしないで」
隠花とひがんは、ふらつきながらもどうにか立ち上がった。
隠花は地面に落ちた杖を広い、ひがんは大きく息を吸って呼吸を整えた。
「限界突破!」
「私も! 限界突破!」
そして二人は武器を天へと大きく掲げ、過去ホーリネスとの戦いで使った奥の手を使う。
隠花は青黒い光が、ひがんは赤黒い霧が体の周囲に発生すると、それは瞬く間に武器へと集まっていく。
「私の全部、受け取ってっ!」
隠花は杖を大きく振るい、武器に集まった光をひがんへとぶつけた。
その事を確認したひがんは大鎌を両手で強く握りしめ、大きく跳躍し……。
「ジャッジメントッ!」
赤黒い霧を纏った大鎌を、勢いよく春先めがけて振り下ろしたのだ!
これが決まれば一等星である春先といえどもただではすまない。
春先は魔女達を軽んじているせいか、この大技を一切避けようともしない。
だからこれで終わらせる事が出来る。
隠花もひがんもそう確信していた。
「やれやれ……、こんなもんか」
「なっ……!」
だが、現実はそうはならなかった。
春先はなんと片手でひがんの大鎌を受け止めたのだ!
ひがん渾身の一撃を難なく防がれた。
その事に流石のひがんも動揺を隠せず、目を大きく見開いたその瞬間。
「うああっ!」
「リコリスちゃん!!!」
春先はもう片方の手で握りこぶしを作ると、それでひがんの体を大きく打ち付けた。
ひがんは地面に強く叩き落されてしまい、ついにはその場から動かなくなってしまった……。
「ふー、ようやく大人しくなったようだね」
「そ、そんな……」
ひがんのとっておきの大技もまるで通じない。
その圧倒的な状況を目の当たりにした隠花は、その場で座り込んでしまった。
そんな隠花を横目で見つつ、春先はゆっくりと倒れたひがんの方へ歩いていき。
「う、うぁ……」
「んじゃ、食べさせてもらうよ」
かすかに呻き声をあげるだけのひがんに覆いかぶさると、複数ある目をぎょろぎょろとさせながら、ひがんの首元へ顔を近づける。
「ハァッ、ハァッ……」
春先は荒い息を吐きかけながら、長く伸びた舌でひがんを舐め始めた。
「やめて! ひがんちゃんに触らないで!」
隠花は叫んだ。
この時現実世界の名前を言った事を自覚していなかった。
「い、いや……、やめてよ……。ひがんちゃんが汚れちゃう……」
隠花の必死の呼びかけにも、春先は一切応じない。
春先はひがんの顔を舐め、やがてそれは耳、首、胸元と体の下へ向かっていく……。
「やめてってば! お願いだから!!」
それがどういう意味なのか、これから何が起きるのか。
その事を察した隠花は、声が枯れそうなくらい叫び続けて懇願した。
だが、春先は一切その行為を止めなかった。
長く伸ばした舌は、やがて魔女衣装のロリータ服が覆われている領域へと侵入していく……。
「いや……、いやあ……」
隠花は泣いていた。瞳に涙を湛えていた。
「いやああああ!!!!」
隠花は今まで以上に強く叫んだ。
それは、耐えがたい現実を無理矢理強要されて壊れゆく、少女の心を現したかのようにも見えた……。
ロリータ服の上からでも、舌が動いている様ははっきりと分かっていた。
あとはもう、春先の欲望のままにふるわれる。
「うう、ううぅっ……」
隠花はその場で号泣した……。
これからは少女の泣き声と、欲望を発散させる春先の荒い息づかい。
それらがこの空間に響く……はずだった。
「ぐげぇッ!」
次に聞こえた声は、春先の欲望の発散ではなく、苦悶の嗚咽だった。
「本当に馬鹿で下品よ。とどめを刺していれば勝ってたのに」
今までぐったりとして動かなかったひがんは、急に目を見開いてそう冷たく言い放つ。
「え……」
ひがんは覆いかぶさる春先を蹴り飛ばした。
そして立ち上がると服の中に入っていた舌を引き抜き、その場に雑に投げ捨てたのだ。
「ぐっ……、お前……」
「ひがんちゃん……?」
春先はみぞおちを手で押さえている。
その表情に今までの余裕さは感じられず、苦痛に歪んでいた。
隠花はただ茫然と、その場で座り込んでいた。
それは、今何が起きているのかまるで理解出来なかったからだ。
その戸惑う隠花を見たひがんは、隠花の方へ歩いていくと……。
「泣かないで。カイカちゃん」
穏やかな声でそう言いながら、ひがんは自身の指で隠花の涙を優しく拭った。




