8-3
「春先……お前!」
藤壺は歯を食いしばり、握った拳を震わせていた。
「いやはや、本当馬鹿だよねぇ。副社長にまでなったのにさ、こんな事で今までの人生全部棒に振ってさ!」
「…………」
それに対して春先は藤壺を見下し、高笑いしながらそう言い放つ。
藤壺は何も言い返さず、ただその場でじっとしているだけだった。
「ついでに今までの出来事も全部責任取って辞任して貰おうかな。もちろん、ホーリネスにもなってもらうね」
「…………」
春先は手を叩いて大きく喜んでいた。
藤壺はそんな春先を、何も言わずただ睨むだけだった……。
この時、隠花は何も言わず席を立とうとした。
だが横に居たひがんが手を握り、首を振ると隠花は悔しそうな顔をしながら再び座りなおした。
「愉快愉快! 最高の気分だよ! だって僕は可愛い女の子を食べ放題やりたい放題! であんたは全部失ってみじめに生きていく!」
「春先……、最後にいいか?」
「あぁ?」
「今までの事、アナウンサーをスポンサーや政財界の人間に斡旋して無理矢理性接待させてた。その首謀者がお前なんだよな?」
「そうだよ! 全部僕がキラキラするためにやった事さ!」
「……そうか」
「すべては僕がキラキラするため、勝つための土台でしかないんだよギャハハハッ! それで、今回も僕の勝ち! 僕は勝ち続ける、キラキラ輝き続けるッ!」
全ては藤壺の告げた言葉通りだった。
これが公共の電波に流れていたなら、藤壺の思惑通りだった……。
だが、真実は封殺される。
偽りの輝きがメディアを支配し、全ては春先やホーリネスの思い通りになる。
「じゃ、負け犬君には退場して貰おうか。ここもひとまずお開きにして……」
春先は近くにいたガードマンに視線で合図をすると、ガードマンはゆっくりと藤壺へ近づいていく。
その時だった。
藤壺はポケットの中からゆっくりとスマホを取り出し操作する。
すると画面には、この秘密裏に行われた記者会見の様子が映し出された。
「ん? なんだいそれは」
春先は半笑いのまま藤壺にそう問いかけた。
「大手動画サイトだが?」
藤壺は眉間にしわを寄せながら返答した。
スマホに映る、動画投稿サイトのコメント欄は嵐のように荒れていた。
”ふざけんな”
”この変態豚!”
”芸能界って893な世界だし当然だろw”
”SheSTARSゴリ押しもこいつのせいでしょ?うざ”
視聴者が投稿したコメントは全て春先への憤り、ひいては芸能界に対する理不尽を訴える書き込みが繰り返される……。
この時、この場の人物は誰も確認していなかったが、SNSでもトレンド最高位になるくらい盛り上がっていた。
また、一部ローカル局では緊急番組を放送し、専門家や業界に古くからいるタレントを招いてこの動画について語っていた。
今まで日の目に上がらなかった事実が、白日の下に晒されていく瞬間だった……。
「……まさか、配信を?」
「ああ」
全てを悟り、今何が起きているかを把握した春先の顔色は、みるみると青くなっていった。
「馬鹿な、ここに入る前に荷物チェックをしてスマホ一台持ち込ませなかった!! お前らが侵入しているのも分かってたから、念入りにやったはず! なのに何故!!」
春先は怒鳴り、机を両手で叩きながらそう言い放つ。
対する藤壺は腕を組み、冷ややかな眼差しを春先へ向けていた。
「ここにいる関係者は全員、あんたの手の者って言ったよな?」
「ああそうさ! あんたら以外は全員ホーリネスだ!」
「私が秘密裏に集めた協力者も?」
「そうだよ! 何度も言わせるな!」
「……違うんだよ。全員じゃなかった」
その言葉と共に、春先は周囲を見回す。
おそらく春先の関係者と思わしき人物は、彼と目が合うと首を横に振ったり、彼と同じようにこの場に紛れ込んだ裏切り者を探そうときょろきょろする。
だが、藤壺の手の者は春先の方をしっかりと見据えていた。
そんな強い眼差しに気づいた春先は、その人を強く睨みつけた。
「業界全てがお前の手先じゃない」
「ちっ……」
全て藤壺の作戦通りと悟った春先は、舌打ちをして視線を下に向けた。
『春先、あなたのキラキラした人生は終わり』
今まで沈黙していたひがんはゆっくりと立ち上がる。
隠花もそれに合わせて立ち上がると、二人は同時に春先へそう言い放った。
「小娘達が、馬鹿にしやがって……ッ」
すると、静かな水面に水滴を垂らしたように、周囲の世界がみるみると白黒になっていく。
それと同時に八坂や藤壺と藤壺の協力者は消えていき、隠花とひがん、そして春先と春先の手先だけになってしまう。
「こ、これは!」
「ここからは私達の仕事だよ。いくよカイカちゃん」
「うんっ!」
周囲の様子、そして隠花とひがんの服装の変化。
それらが全て終わると、二人は手持ちの武器をぎゅっと握りしめた。
「僕はもう芸能界には居られないが……、せめてお前達だけはホーリネスにしてやる! どちらが上か分からせてやるから覚悟しておけッッ!!!」
春先は無数の触手をうねらせ、怒声交じりにそう言い放った。
この時、周囲の空気が振動するような圧力があったが、隠花もひがんも臆する事はしなかった。




