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7-7

 ホテル星天での戦いから数日後。


 今まで眠っていたひがんは、ゆっくりと瞼を開けていく。


「よう、目が覚めたか」

「ここ……は?」

 ひがんのそばで彼女を見舞っていたのは、蝕美だった。

 彼は仕事着のまま椅子に座り、足と腕を組んで寝起きのひがんを見つめていた。


「病院だよ」

「……そう」

 この時ひがんは、自分が助かった事を理解すると大きく息を吐いて天井を見つめる。


「馬鹿野郎。無茶しすぎだ」

「……ごめん」

 そして蝕美に対し、天井を向いたまま一言だけ告げて謝った。

 その様は、いつもの無味乾燥なひがんそのものだったが……。


「ねえ! 隠花ちゃんは!」

 最愛の友の事を思い出すと勢いよく半身を起き上がらせ、蝕美に詰め寄った。


「ふむ……」

 ひがんのそんな必死な形相に対し、蝕美は少し渋い顔をする。


「そんな! ううぅ……」

「泣くな、……と言いたいが無理もないか」

 それがどういう意味か察したひがんは、掛布団を強く握りしめ、体を震わせて涙を流した。


「隠花ちゃんも、お父さんやお母さんと同じになってしまった! 全部私のせいだ!」

「自分を責めるな。お前はよくやったよ」

「やってない! 私なんか……! 私なんか!!」

 蝕美の慰めの言葉も、今のひがんには届かない。

 ひがんは大きく首を振りながら病室に響く声で自分を何度も否定し続けた。


「あ、あの……」

「えっ……」

「よう、帰ってきたか」

 病室内がひがんの悲壮感で満杯になっていた頃。

 開いた扉から一人の少女が申し訳なさそうに顔を出している。


「い、隠花ちゃん……?」

「あはは、な、なんかタイミング悪かった……かな?」

 その少女は隠花だった。

 制服姿の隠花は、もじもじしながら病室の中へ入ると開けた扉を閉めてひがんの寝ているベッドの近くへ寄った。


「よかった……!」

「えへへ、ひがんちゃんが抱き着くなんて珍しいね」

 そして隠花が近づくと、ひがんは隠花へと抱きついた。

 この時ひがんの体が震えており、その意味を察したであろう隠花は少し顔を赤くしながらひがんの背中を優しくなでた。


「ひがんも目が覚めたし、とりあえず話させてもらうぞ」

 そんな中、蝕美は咳ばらいを一つした後にそう話し始める。

 隠花は赤面したまま慌てて離れ、ひがんは表情こそいつも通りの無味乾燥な感じに戻ったものの、どこか名残惜しそうな感じを出しながら離れた。


「まず二人を助けたのは俺だ。ホテル星天の監視カメラ経由でお前達の居る部屋を割り出した。ホーリネスが居なくなって精神世界を抜け出せたのが大きいな」

「なるほど……」

「ひがんの指輪の力による副作用はこの通りだ。外傷は無いが当面は動けない。当然魔女としての活動は出来ない。五体満足なだけありがたいと思え」

「うん」

 蝕美の口調や話している内容から、こうやって助かっている事が奇跡に等しい事だと悟った二人は、蝕美から目線を外した。


「次に隠花についてだが、これは俺にも分からん。隠花本人の話を聞く限りでは絶対に戻れないし、後遺症で廃人になるはずだった」

「運が良かった……のかな?」

「かもな」

 結論をぼかした蝕美であったが、実は彼は事の真相を知っていた。


 それは隠花とひがんを救出するべくホテル星天へ向かった時の出来事。

 現場に到着した蝕美は、気を失いながらも二人が口づけを交わしている場面を見た。


 ホーリネスになる条件はホーリネスと体液を交わすか、精神寄生体を直接植え付ける。

 すなわち、光の力の交換を行うという事でもある。


 隠花から自身がホーリネスになった事、ひがんが指輪の力を使って暴走した事。

 二人が口づけをした事で光と闇が相殺されて奇跡的に無事だった事を察したのだ。


 だが蝕美はそれら事実を、隠花とひがんには告げなかった。

 それは指輪の時と同様に、ひがんが無茶をする口実になってしまうと考えたからだった。


「そう……」

「指輪は俺が預かったぞ。次もあんな無茶されたらかなわんからな」

「ふむ……」

 蝕美がそう告げると、ひがんは指輪をはめていた自分の指を触った。

 そして冷たい触感が無い事を確認すると、一つだけ大きく息を吐いた。


「敵に正体を知られてしまったよ」

 魔女の正体を知られることはひがんにとって致命的だ。

 モデルとしての活動にも支障をきたすのは当然な上、精神世界では武装して敵を迎え撃つ事が出来る魔女も、現実世界では普通の少女と変わらないからだ。

 一応、精神世界を利用しての反撃も出来なくはないが、それでも春先クラスの権力者相手では無力に等しい。


「それも知ってる。だから次の手を考えた」

 その事を聞いた蝕美は首は横に何度か振るものの、悲観的にはならなかった。


「これも正直、幸運だったわけだが……。ひがんが寝ている時に強力な協力者を得た」

 蝕美が腕を組みながらそう言うと、タイミングよく病室の扉が開く。

 そしてそこから、二人の男性が部屋内へと入ってきた。

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