7-6
「全く……、本当に参ったよ。降参だ」
春先はため息交じりにそう告げた。
それは、自らを討つために全てを捨てて力を得たひがんに対する畏敬と哀れみの念から来るようにも見えた。
「そんな化け物じゃ、食欲も消えちゃうね」
事実、春先はもうひがんを自分のものにする事を考えていなかった。
まるで化け物を見るような眼差しを向けつつ、春先はズボンのポケットに手をつっこみそこから十字架のチャームを取り出す。
「使いたくなかったけども、命には代えられないか」
そしてその十字架のチャームと変わり果てたひがんの姿を交互に見つめると……。
「じゃあね! そしてもう永遠にさようならだ!」
春先は十字架のチャームを高らかに天へ掲げる。
すると、十字架のチャームは白く眩く輝き、その光が春先を包むほど大きくなった瞬間に春先はその場から消えてしまった。
実はこの道具、ホーリネス一等星でも一部の者にしか配布されていない精神世界から強制脱出する代物なのだ。
こうしてひがんは春先を成敗する事も出来ず、取り逃がしてしまう……。
「う、うワァァァッッッ!」
その事実が分かった瞬間、ひがんは獣のように咆哮すると頭を抱えてその場で苦しみだす。
「ひがんちゃん……」
ホーリネスに堕ちた隠花はそんなひがんを心配し、近づこうとするが……。
「きゃあっ」
「近づくな! 汚らしいッ!」
ひがんは腕から伸びた蔓を振り払い、近寄る隠花を薙いだ。
隠花は後方へ大きく吹き飛び、地面へ打ち付けられてしまう。
「ね、ねえ、もうやめよう……?」
「う、うウウッ……」
それでも隠花は立ち上がり、そう言いながら再びひがんへと近づいて行った。
「ひがんちゃん……」
隠花は苦しむひがんを不安げな表情で見つめている。
この時の隠花はホーリネスであり、隠花の瞳には星の煌めきを宿している。
それでも魔女であるひがんを心配したのは、隠花の強い思いが成した結果であり、ひがんもその事を気づいたのか近づく隠花を攻撃しようとはしなかった。
隠花はゆっくりとひがんへと歩み寄り、二人の手が触れ合うくらいに距離が縮まろうとした時。
「うぐっ……!」
「!!」
突然隠花の胸部を貫くように白い腕が飛び出す。
貫いた手には先ほど植え付けられた精神寄生体が握られており、腕が胸部から抜かれると同時に隠花から無理矢理摘出されてしまう。
「な、なん……で……」
隠花は困惑した表情を見せながらその場に倒れてしまった。
精神寄生体を取り出された結果、彼女の瞳から星の輝きが消えると同時に、ここへ来た時の服装へと戻ってしまう。
「私は負けられない……。だからお前のキラキラも取り込んで……!」
隠花の胸を貫いた張本人。
それはひがんの一撃で倒れて今まで動かなかった紫陽花だった。
「ショウカッッーーー!!」
「キラキラするのは私だ! ワタシだけでいいッ!!」
ひがんが紫陽花の名を絶叫する中。
紫陽花は満面の笑みを見せながら、隠花の体内にあった精神寄生体を食して体内へと取り込み……。
「あはは、あはははははハハハハハッ!」
紫陽花は高笑いすると、首にかけていた十字架のネックレスを握りしめる。
握りしめた瞬間、先ほどの春先と同様に眩い白い光に包まれてその場から消えてしまった。
「い、隠花……ちゃん」
こうして春先一味が精神世界から居なくなった。
ひがんは苦悶の表情を見せながらも隠花に問いかけたが……。
「…………」
隠花はまるで反応がなかった。
見開いた瞳からは一切の光はなく、半開きの口からは呼吸をする素振りをせず、まるで人形のように生気を感じさせない。
「こんな……、こんな事……、う、うががッッ!!!」
ひがんは体を大きく震わせ、隠花に覆いかぶさるように倒れて苦しみだす。
それは最愛の友人が、最悪の結末を迎えてしまった事を認めたからでもあった。
ひがんは黒い液体を何度も嘔吐すると、隠花に覆いかぶさるようにうずくまって動かなくなってしまった……。




