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7-5

「たかが見た目が変わったところで!」

 春先はそう言い放つと、残った二人の光の魔法少女らをひがんへとけしかける。

 光の魔法少女達は春先の言葉と共に背中から純白の翼を生やすと、不敵な笑みを見せながらひがんへと襲い掛かった。


「人形は邪魔……消えて」

 だが、ひがんが腕を右から左へ振るうと、腕から出た植物の蔓のようなものが鞭のようにしなり魔法少女達を薙ぎ払う。

 蔓に打ち付けられた魔法少女の二人は後方へ大きく吹き飛ばされて壁に叩きつけられると、ひがん似の魔法少女は白く粉々に砕けてしまい、紫陽花はその場で力なく倒れてしまった。


「馬鹿な! SheSTARSは全員一等星クラスだぞ! それをこうもあっさりと……」

 この状況を見た春先の顔から笑顔は消えていた。

 それは魔女を魔法少女へ転向させ、失敗しても自らの手を汚さずに勝利を得る事が出来る確信があったからだ。


「……仕方ない。こうなったら僕も全力を出すしかなさそうだねぇッ!」

 そう言うと春先は腰を落とし、歯を食いしばる。

 すると、急に春先の体が眩く輝きだす。

 それでもひがんは一切動じず、春先を見つめて続けていた。


「ううぅ……」

 眩い光の中から、うめき声のような音が聞こえてくる。

 それと同時に春先の体の輪郭がみるみると膨張していく……。


「ハハハッ、この姿になったらもう止められないッ! 食らい、貪って、堕としてやるひがんちゃんよおぉッッ!」

 そして光がおさまると、そこには人間は居なかった。


 背中には六対の翼を生やし、頭には光輪が浮いている。

 普段の春先の三倍以上はある体格は、まるで鏡餅のように下半身部分が膨張しており、今まで手や足があった場所からはクラゲのように無数の触手が蠢いていた。


 春先は無数の触手をひがんへと仕向けた。

 触手は四方へ散りながらくねらせ、不規則な軌道でひがんへと迫り絡めとろうとする。


 ひがんはその触手を自らの体に当たる直前で回避していく。

 回避しきれなかった触手は、右手に持った大鎌や左手から伸ばした蔓で振り払い、切り落としていって春先の攻撃を防いだ。


 それでも春先の攻撃の手は緩まない。

 無数の触手は切られたり粉々に破壊されても瞬時に再生し、間髪を入れずにひがんへと襲い掛かる。


 ひがんはその無限にも続く攻撃をかわし、防ぎ、撃退してきた。


「ぐっ……」

 だがついに触手はひがんを捕らえてしまう。

 一本の触手がひがんの片足に絡みついて動きが封じられると、他の触手も次々とひがんの胴体や腕や首に絡みついていき、ひがんは一切の身動きが取れなくなってしまった。


「ハハハッ! ボクに立ち向かおうなんて無駄だったんだよッ!」

 春先は高笑いをしながらそう叫ぶと……。


「さあ堕としてやる……。その身でボクを拝領するがいいッ!」

 一本の先端が花弁のようになっている触手をひがんへと襲わせる。

 花弁が開くと鋭い牙がついた口のようなものが開き、唾液を垂らしながらゆっくりとひがんの体へと迫り飲み込もうとする。


「もっと……、もっと力を……!」

 ひがんはそう静かに言った。

 そしてそれに応えるかのように、指輪が紫色に強く輝きだす。


「私はどうなったっていいから! もっと!」

 ひがんがそう強く叫んだ瞬間、ひがんの体は指輪と輝きと同じ色の光を放つ。

 力強く、そして鋭く放たれた光はひがんを絡めとった触手を一瞬のうちに蒸発させた。


「ば、馬鹿な! こんな事があってたまるか!」

 さすがの春先もこれには驚きを隠せずにいた。

 どんな攻撃を繰り出しても跳ね除けて立ち向かってくるひがんに圧倒されていた。


「…………」

 だがひがんもただでは済まなかった。

 指輪の力で強化し続けた結果、顔は血色を失い青白くなり、瞳には暗き闇を湛えているだけではなく、どす黒い液体が零れ落ちていた。

 紫色の蔓の本数も以前より増しており、春先へ向かう足取りはどこかおぼつかない。


 そんな中、今まで傍観していた隠花が二人の間に割って入った。


「ご主人様ぁ、お逃げくださあいっ」

「ああ、そうさせて貰うよ……。さすがにこいつはきつい」

 終始強気だった春先も危機感を感じたのか、隠花の指示に従い変身を終えて人間の姿へ戻る。


「あとは友人同士、仲良くやってくれ!」

 そして笑顔を見せながら、この戦いの場から離れようとした。


「逃がすわけ……ないじゃない」

 しかしひがんは手を上げて春先の方へ指を向ける。

 すると地面から紫色の蔓が伸びて、逃げようとしていた春先を雁字搦めにしてしまった。


「く、くそ……! 隠花ちゃん! なんとかしてくれ!」

「はぁい☆」

 隠花は嬉々として春先の願いをかなえるべく、絡まっている蔓を解こうと手を伸ばした。


「きゃあっ!」

 だが手と蔓が触れる瞬間、まるで電化製品が故障しスパークするような火花を出してしまう。

 隠花は思わず悲鳴をあげ、手を離してしまった。


「ねえひがんちゃん。もうこんな事、やめよ?」

「…………」

 そして次に隠花は、握った手を胸を当てながらいつもの口調でひがんへ問いかけた。


「私ね、本当はアイドルに憧れてたの。だから今こうやってホーリネスになった事、本物のアイドルになれた事、すっごく満足してるんだよ?」

「…………」

 ひがんは隠花の言葉に対し、声こそ発さなかったが隠花を見つめていた。


「だから私をアイドルにしてくれたご主人様ぁには感謝してるんだよ。それでね、ひがんちゃんにも勧めたいの。ひがんちゃんと私で一緒にアイドルとか光の魔法少女してもっとキラキラして――」

「黙れ」

 共通の敵だった相手に感謝している事を聞いたひがんは、そう一言だけ言い放ち……。


「えっ……」

「私の友達はもう居ない。お父さんも、お母さんも、誰も居ない」

 再び黒い涙を流しながら隠花へそう告げると……。


「あるのはお前らを倒す、ただそれだけだッ!!」

 指輪をしている手をさらに強く握りしめる。


 すると、指輪はさらに紫色に強く輝きだし、今まで腕のみに生えていた紫色の蔓はひがんの全身を飲み込んでしまう。

 まるで昆虫の蛹のように、ひがんの全身を覆った蔓で咀嚼しているように脈動を繰り返す。


「うわあっ」

「これは……」

 その様子に二人もただ茫然とするだけだった。


 それから大した時間も置かず、蔓に亀裂が生じだす。

 やがて亀裂は大きくなり、そこから紫色の光が発せられ色の無い世界を染め上げていく。


 そして光がおさまった時、蛹のあった場所にはひがんが立っていた。


「おいおい、本気かよ」

 だが今までのひがんと違っていた。

 身に着けているロリータ服のフリル部分は彼岸花のように赤色の細長い花びらになっており、局部以外は青白い素肌が透けて見える。

 背中には真っ黒でかつ蔓が巻き付いた翼を生やしており、ひがんの呼吸に合わせてわずかに上下に揺れている。

 顔色は一切の生気と血気を失って青白くなり、白目は黒色へと変色し、黒目の部分は紫色の闇を満たしていた。

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