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7-4

「そんな……カイカちゃんまで……」

 ひがんはその場で目を見開き、うつむいてしまう。

 魔法少女二人の拘束する手が離れると、ひがんは崩れるように座り込んでしまった。


「ハハハッ! ここまで上手くいくなんて!」

 大切な友人がホーリネス化してしまった絶望に打ちひしがれるひがんに対し、春先は高笑いをしてご機嫌な様子だ。


「リコリスちゃんも、一緒になっちゃお? すっごくきらきらして気持ちいいよぉ?」

「うう……カイカちゃん……」

 そしてそんなひがんを見た隠花は、瞳を輝かせながら甘々しい声でそう告げる。

 その事が、よりひがんを絶望の底へ叩き落とした。

 結果、この時ひがんは俯いていたから誰からも分からなかったが、涙を流していた。


「でさ、カイカちゃん。教えて欲しいんだけどさ。あの魔女の正体をさ」

「はぁいご主人様ぁ、あの子はモデルのひがんちゃんですぅ」

 成敗すべき相手である春先をご主人様と呼ぶだけではない。

 今まで禁句だった魔女の正体についても、隠花は何のためらいもなく春先へ告げてしまう。

 それら事実にひがんは、今まで伏せていた顔を上げて唖然とした。


「へー、まさかあのひがんが魔女とはねえ!」

 春先も正体がひがんである事に驚きを隠せず、顎に手を当て頷きながら笑顔のままそう言った。


「いいねえ、すごくいい。実はさ、ずっと君を食べたいと思ってたからさ」

 ひがんは体を震わせて下唇を噛みしめていた。

 それは春先の発言よりも、ここへ無理やりにでも行こうと提案した自分の言動を悔やんでいるからだった。


 友を失い、自らもホーリネスとなってしまう。

 そう思い、ひがんは後悔と絶望に苛まれている最中……。


「君の母親はとっても良かったから、君もきっと素晴らしいんだろうねえ!」

「……どういう事」

 母親という発言をした瞬間、ひがんの震えがピタリと止まる。


「あれ? 知らないの? 君のお母さんを食べたのは僕で、君のお父さんにホーリネスを仕向けたのも僕だよ!」

 そして自らのこの境遇に落とした全ての元凶が、今目の前に居るこの春先である事を知ると、ひがんは大きく目を見開いた。


「家族揃ってホーリネス! 魔女友達もホーリネス! みーんなホーリネスさ! ハハハッ! ほんと最高だよ君らは!」

 春先は満足気で、かつ得意げに真相を語った。


「……ふざけるな」

 ひがんは手をぐっと強く握りながらゆっくりと立ち上がり……。


「まあそんな怒る事ないって、この子みたいにずっとキラキラしていけるんだからさ」

「……お前だけは、許さない」

 今まで無味乾燥な表情しか見せた事が無かったひがんは、怒りに満ちた形相で春先を睨みつけ……。


「別に許してもらおうなんて思ってないし? てかさ、家族もお友達もみんな一緒にキラキラ出来るんだからさ、むしろ感謝してもらわないと!」

「私の全てにかえて、お前だけは倒す!」

 春先めがけてその言葉をぶつけそして……。


「何を馬鹿な事を! たかが魔女風情が一等星にたてつこうなんて……」

「私はどうなったっていい! こいつを殺せる(・・・)だけの力を!」

 ひがんは、黒い金属で出来た指輪をした右手を強く握りそうはっきりと力強く言い放った。


 すると指輪は紫色に輝きだし、真っ黒な霧が噴出してたちまちひがんを包んでいく。


「な、なんだそれは……?」

 このひがんの言動と目の前の現象は春先にも予想がつかなかったらしく、春先は表情こそ笑顔のままだがどこか未知への恐れのようなものが滲み出ていた。


 春先が動揺している最中、ひがんを囲む真っ黒な霧はやがておさまり消えていき……。


「な、なんだと!」

 そしてひがんの変化に春先は驚嘆した。

 ロリータ服のデザインこそ変わらないものの、わずかに輝く紫色の光を身にまとい、腕からは棘のついた植物の蔓のようなものが複数本出ていて、背中には漆黒の翼が生えている。

 それはまるで、フィクション作品で登場する天使を狩る魔人のようでもあった。



 実はこの指輪は、元々ひがんが持っている物ではなかった。

 なら何故ひがんが持っているかと言うと……。


 時は少し遡り。

 ホテル星天へ向かう直前、闇寧喫茶店にて。

 隠花が喫茶店を出て、ひがんも喫茶店を出ようとした時。


「おいひがん」

「なぁに?」

 蝕美はひがんだけ呼び止めるとカウンターの内から彼女の目の前まで歩いて行き……。


「お前にこれを預けておく」

「これは?」

 蝕美は蝋で封をしてある封筒を開封し、そこから一つの指輪を取り出す。


「こいつは精神世界で自らの感情を高める力がある」

「ふむ」

 精神世界は思いが支配する世界。

 感情を高めるという事は、魔女の力も上げる事出来る。

 ひがんはその事を理解したのか、一つ頷く。


 だが、それと同時に蝕美をじっと見つめた。


「何で今になって渡したか?って顔してるな」

「うん」

「危険なんだよ。指輪を使った時の負荷は限界突破とは比べ物にならない。最悪命を落とすかもしれない」

「…………」

「だいたい、お前それ持ってたら絶対無茶するだろ? だから今まで渡さなかった」

「そう……」

 蝕美の言葉が全て的中しているせいか、ひがんは反論をしなかった。


「でも、今は形振り構ってられないからな。だからお前に渡しておく」

「隠花ちゃんの分は?」

「残念だが、それ一つだけしかない。あいつじゃなくてお前を選んだ理由は……、まぁ直感だな」

「ふむ……」

 ひがんは相変わらず無表情のまま、煮え切らない返答をした。


「いいか、もう一度言うぞ。それは危険な代物だ、どうしてもやばくなった時に一度だけ使え。いいな?」

「うん」

 ひがんは、蝕美の真剣な表情を確認すると、指輪は右手の薬指につけて一つだけ軽く頷いた。

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