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7-3

 二人がいよいよ春先へ戦いを挑もうとしたその時。


「カイカちゃん、その格好は!」

 今まで表情を変えず冷静だったひがんも、思わず叫んでしまう。


「えっ?」

「カイカちゃん、自分を見て」

 突然のひがんの言葉に足を止めた隠花は自分を見る。


「ちょ、ちょっとなにこれ!」

 隠花やひがんが叫んだその理由。

 それは、隠花の服装が姫魔女のロリータワンピースではなく、SheSTARSのアイドルと全く同じフリルのついた純白のボンテージ衣装になっていたからだった。

 しかも何の前触れもなく、唐突にだった。


「ひがんちゃんはっ……!」

 隠花は咄嗟にひがんの方を向いた。

 ひがんはいつも通りの騎士魔女のロリータワンピースだ。


「ど、どういう事……」

「いやあ、成功してくれて何よりだよ! ハハハ最高最高」

 その様子を見た春先は、手を叩いて笑っていた。


「なんなのこれは! 説明してよ!」

「簡単だよ。精神世界は思いの世界だ。魔女としての力もその姿も、いわば強い思いによって成しているわけだ」

 春先は笑いを堪えつつも、隠花へ説明を始めていく。


「なら思いを書き換えればいいだけ! 僕の作ったアイドルを強く意識するようにすればいいだけッ!」

 この時隠花は、目を大きく見開き今までの事を思い返した。


 魔女として活動をしている中、世間はSheSTASの話題に尽きる事が無かった。

 テレビ、新聞、街頭の広告、ネット、動画サイト……。

 どこを見てもSheSTARS一色だった。

 だから嫌でも意識せざるをえなかった。


 そして隠花は魔法少女への憧れがあった。

 可愛さへの憧れがあった。


 隠花の今までの自身の思いと、魔女を堕とす為にここまで世の中を動かした春先の権力を思い知ると、隠花の足は自然と後ろへ下がっていた。


「しかし、リコリスは変わらなかったとは……。うーむ。余程強い意志を秘めていたのか、世捨て人のような生活を送っていたか」

 ひがんは両親を失っている。

 憧れのみで活動してきた隠花とは違い、その決意の強さは並ではない。

 だからこそ思いの上書きをされる事は無かったのだ。


「ま、一人かかってくれただけでも十分かな。じゃあカイカちゃんは貰うね」

「な、なに言ってるの! 服装は変わったって私はまだっ!」

 見た目が変わったが、隠花の魔女としての意思と闘志が無くなったわけではない。

 変化しなかった杖を握りしめ隠花は腰を落として、相手の動きに備えるべく構えた。


「ハハハ! もう遅いんだよ。君はホーリネスになる」

 春先はそんな隠花を笑い飛ばし、意気揚々と指を鳴らした。


「リコリスちゃん!」

「くっ……、はなせ……!」

 すると今まで春先の隣に居た魔法少女のうち、紫陽花とひがんに似た二人が騎士魔女ひがんの両脇に現れると、彼女の腕を強くつかんで動けなくしてしまったのだ。


「私が……助けなきゃ……!」

 その様子を見た隠花は、すかさずひがんを助けようとした。


「体が、う、動かないっ!」

 だが、まるで金縛りにあったかのように隠花の体は一ミリたりとも動かなかった。


「うふ、うふふふ……」

「ひっ、な、なに……!」

 隠花そっくりの魔法少女は、怪しげな笑みを見せながらゆらりゆらりと隠花へ近づいていく。


「ホーリネスになるには、パラライトを直接取り込むかホーリネスと体液を交わす事。まぁ、君は僕の趣味じゃないからね、その子に任せるよ」

 春先は半笑いのままそう告げている最中も、隠花そっくりの魔法少女は隠花へ迫っていき……。


「はぅっ」

「んん」

 そして光の魔法少女と闇の姫魔女は、唐突に口づけを交わした。


「カイカちゃん!!!」

 普段は表情を変えないひがんは、目を見開いて強く叫んだ。

 掴まれた腕を振り払おうと、何度ももがいたが無駄だった。


「これで……もう……」

 満足に口づけをした後、光の魔法少女は笑顔を見せたままゆっくりと離れる。

 そして半歩ほど離れると、隠花そっくりの魔法少女はその場に崩れ落ちるように倒れ、白い灰のようなものになって消えてしまった。


「あ、ああ……」

 口づけを交わされた隠花の瞳孔は大きく開いたまま、体を小刻みに震わせ……。


「う、うあああああ!!!!」

 そして絶叫しながら頭を抱えだす。


「カイカちゃん!」

「い、いや……、いやああああああ!!」

 隠花の息遣いは荒く、瞳からは涙が零れだす。

 体の震えは次第に大きくなり、その場でうずくまってしまい……。


「カイカちゃん!!」

「…………」

 隠花はひがんの呼びかけにも答えない。

 体の震えはおさまったが、今度ぴくりとも動かない。


「えへ……えへへ……」

 そんな中、隠花のかすかな声が聞こえる。


「なんかぁ、すっごくいい気分なのぉ。頭のなかぁ、真っ白でぇ、とろとろでぇ、気持ちいいのぉ」

 隠花は今までにないくらい黄色く、そして甘い声でそう言いながら、俯きつつもゆっくりと立ち上がる。


「カイカ……ちゃん……?」

 ひがんは恐る恐る隠花の姫魔女の名前を呼んだ。


「はぁい。わたしはぁ、SheSTARSのカイカでーす☆」

 隠花は顔を上げてそう答えると、隠花の背中から真っ白な翼が生えた。

 潤んだ瞳には強く輝く星の光を宿しており、頬は紅潮していた。


 この瞬間、隠花はホーリネスとなってしまった……。

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