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6-4

 隅坊は、唐突に仕事を失った。


「まいったな……」

 自らが所属する芸能事務所を出た隅坊は、スマホである場所へ連絡を取ろうとする。


「もしもーし!」

 数コールの後、高い男性声がスマホから聞こえてきた。


「隅坊です。社長、仕事が急に無いってどういうことですか!」

「あーすみちゃん、その件ね……」

 電話の相手である、芸能事務所の社長は何やら達観したような感じをしていた。


「ほんと申し訳ない。テレビ局の方から隅坊使うならお宅の事務所と二度と取引しないって言われちゃってさ……」

「そんな!」

「先方、かなり怒ってたよ? すみちゃん、なんかやらかした?」

「そんなわけないでしょう……」

 出演打ち切りになる程に客先を怒らせるような不祥事に、隅坊にはまるで心当たりも自覚も一切なかった。

 だからこそ、隅坊は驚きながらも少し呆れ気味にそう答えた。


「あー、やっぱ気づいてないんだ」

「どういう事ですか」

 だが、芸能事務所の社長は何か知っているらしく、気づかない隅坊に対して少し声のトーンを落として会話を続けていく。


「降神教の人、怒らせちゃったでしょ」

「そ、それは……」

「駄目だよ彼ら怒らせちゃあ……、すみちゃんも知らないわけないよね?」

「ですが! あれは無理やり勧誘してたのを止めただけで!」

 そういわれた瞬間、猿顔の後輩がアイドルに無理矢理宗教勧誘をしていた風景を思い出す。


 隅坊のやった事は間違いではなかった。

 だが芸能界では特定の宗教や団体が異様までに強大で絶対的な支配力を持っており、そこに触れる事はタブーとされている。


 降神教もまた、そのタブーの一つだった。

 かつて報道番組にて、ある政党が降神教との癒着をカメラの前で言ったがために、アナウンサーが更迭されてしまった事例があるくらいだ。

 当然その事に関して他のジャーナリズムは何も言わず、癒着のある政党や降神教も無反応である。

 それ程に根は深く、誰にも解決が出来ない問題となっている……。


 もちろん業界人である隅坊もその事は分かっていた。

 だが、目の前に困っている人を放ってはおけなかったし、猿顔の芸人が末端信者でそこまで影響力が無いとタカをくくっていた感もあった。


「まあ、そういうわけだから。力及ばずごめんね。大丈夫だよ! 数年間大人しくしてればまた復帰するチャンスもあるから!」

「いや、そんな事言われても……」

「じゃあ切るね、また何かあったら連絡するから!」

「あ、ちょっと!」

 社長は申し訳なさそうにしつつも、ばつの悪さを感じたのか一方的に電話を切ってしまった。

 隅坊はその後も社長に電話をかけるが、”お客様都合により通話が出来ない状態”の機械音声が流れるだけだった……。


「こんなの納得いかないぞ……」

 隅坊は倹約家であり、それなりの蓄えはあった。

 だから仕事を失った事で、いきなり生活に困窮するはない。

 だが仕事に対する責任感や、今まで信じていた者達からの仕打ちに憤りを感じており、本人も気づかないうちにスマホを握る手が震えていた。



 それから数か月後。


 隅坊は自分と同じ考えを持つ人らを集め、大規模なサボタージュを行い抗議しようと考えていた。

 幸い、芸能界から干されてしまった隅坊には協力者を集める十分な時間があった。


 隅坊は仲間を集めるため、タレントからの伝手を利用して様々な人に話を聞いた。

 そして多くの人はタブーに触れる事を嫌って口を閉じたが、ごく少数の人は隅坊と同じ考えを持っている事が分かった。


「まさか藤壺さんもそう思ってたなんて、正直意外でした」

 そんな中でも、大手テレビ局の副社長である藤壺との接触は、隅坊を大きく鼓舞させた。

 基本的には業界内で影響力が強い人物程、降神教と密接な関係になっている事を知ったからだ。


「隅坊さんの仕打ちは知っております。私も思うところはありましたし、ちょうどよい機会かと思います。あなた方の抗議活動に合わせて、私も他の役員に訴えかけましょう」

「ありがとうございます!」

 二人は固く握手しあい、強い意志を示しあった。



 さらに数か月後。

 とあるテレビ局内、会議室にて。


「この通り、我々は文書に記載された内容を要求します!」

 今日は計画していたサボタージュの決行日である。

 隅坊は特定団体との癒着を世間に発表する事、癒着を今後止める事を記載した嘆願書を、テレビ局の取締役達へ直接提出した。

 本来ならこういう場を設ける事自体、至難の業であったが、副社長である藤壺の協力の甲斐あって実現出来たのだ。


 ここで隅坊の要求が受け入れられれば良し、もしも駄目な場合は集めた協力者達が一斉に仕事を放棄する手立てになっている。

 協力者の中にはゴールデンタイムで冠番組を持っているタレントやテレビ番組に出演している大物評論家や有名な二世国会議員もおり、その効果は見込めていた。


「ふむ……」

 嘆願書を読んだテレビ局の取締役達は、腕を組んで渋そうな顔をしたまま唸るだけだった。


「隅坊君、これは君の妄想じゃなのかい? 我々が特定の宗教団体に肩入れしているとは思えないんだが?」

 そんな中、一人だけシャツにジーンズのパンツを穿いたカジュアルな格好の中年男性がそう告げた。


「春先さん、妄想ではありません。事実強引や勧誘を受けた証言もありますし、事務所ぐるみで強引に入信させられた事例だってあります」

 春先は音楽プロデューサーとして活動している。

 だがプロデューサー業で成功した彼は、その手腕を買われて取締役に抜擢されていたのだ。


 春先は隅坊の言葉を聞くと腕を組み、少し目を閉じて何やら考えると……。


「我々としては、そのような特定の宗教団体に肩入れをした覚えはない。だが、本人の意思を無視した行為をしたのならば直さないといけないね。局内と取引している芸能プロに、注意喚起する方針でいいかな?」

 春先は目を開き、周囲を見ながらそう告げた。


「ええ」

「そうですね」

 そして、同席していた他のスーツを着た取締役も頷きながら答えた。


「隅坊君も先ずはこれで納得してほしい」

「分かりました……、ですが改善されないようでしたらサボタージュは決行します」

 春先や他取締役の反応に、隅坊の表情は険しいままそう告げた。


「わかったわかった」

 それに対して春先は、腕を組んだまま少し嫌々な感じで答えた。

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