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6-1

 転売ヤーの金下を成敗してから数週間後。

 隠花が住む町の隣にあるカフェにて。


「ふう、今日も終わったね」

「うん」

「喫茶店へ帰ろう」

「はい!」

 今日もまた、魔女となってホーリネスを成敗した。

 相手は三等星であるために戦いは難なく終わり、隠花とひがんは結果報告のために闇寧喫茶店へ戻ろうとした。

 その道中。


「最近すごいよなSheSTARS」

「どこに居ても宣伝見るよなー」

「俺はショウカちゃんよりもリコリスちゃんだな~」

 通りすがりの大学生くらいの男集団が、新たにデビューした魔法少女アイドルについて話していた。


 そのなりげない会話を聞いた隠花は、足を止めてしまう。

 それは、彼女らが魔女の時の隠花やひがんと服装以外の見た目がそっくりで、しかも魔女で活動している時と同じ名前という、恣意的な何かを感じざるをえないからだ。


「気にしないで、隠花ちゃん」

 隠花のそんな様子に対し、ひがんはいつも通り感情を表立たせる事がない。


「で、でもー! ほらこれ!」

 だが隠花はいつもより高く大きな声でそう言うと、カバンに入っていたスマホを取り出し何度か操作した後、画面をひがんに見せる。


 ”アイドル博士「ここに三人のアイドルがおるじゃろう? ショウカ、リコリス、カイカの中から選ぶとよい」”

 ”【悲報】SheSTARSのゴリ押しがやばい”

 ”【顔三十点、体百点のアイドル】SheSTARSのカイカちゃんの豊満なヱロボディ”


 そこには、SNSや掲示板での書き込みをまとめたサイトが映し出されており、タイトルは軒並みSheSTARSに関する内容だった。

 本来ならサブカルチャーから政治、時事ネタまで幅広く扱っているが、明らかにSheSTARSの内容が多い。


「気にしないで」

 焦りと苛立ちを隠せずにいる隠花に対し、ひがんはいつも通りの無味乾燥な表情のままそう告げた。


「そ、そうだよね……」

 ひがんからその言葉の根拠を深く語られる事はなかった。

 隠花は、着ていたロリータ服のスカートをぎゅっと握りしめて少し上目遣いのままはにかんだ。



 それから少しの間歩いた後。

 隠花とひがんは闇寧喫茶店へ到着する。


「ただいま戻りましたっ」

「戻ったよ」

「よう、お疲れさん」

 魔女達の帰還に、蝕美は口角を少しだけあげてねぎらいの言葉をかけた。


「SheSTARS、デビュー曲が売り上げランキング一位! MVはあの有名動画配信者のデメキンとコラボ⁉」

「夜九時放送のドラマ出演決定! 今最も熱いアイドル!」

 そんな時。

 喫茶店内にある、普段はついていないテレビが珍しく電源が入っている。

 そしてそのテレビからは、春先プロデュースのアイドルについての内容が放送されていた。


「やれやれ……、テレビをつければいつもこれだ。嫌になるな」

 蝕美はため息交じりにそう言うと、手元にあったリモコンを操作してテレビの電源を切った。


「すごいですよね、宣伝……」

 その言葉に隠花も少し肩を落としながらそう答えた。


「ごり押しだよ。気にしない」

「ひがんの言うとおりだ。内容の良し悪し関係なく人々に周知させる。広告代理店がよくやるマーケティングの手法だ」

 マーケティングの手法の一つに、とにかく物量で押す方法がある。

 大量の広告をあらゆるメディアやコンテンツに配置して配信する事で、多くの人に繰り返し周知させるだけではなく、それがあたかも人気があるように仕向ける。

 ”みんながやっているから自分もやってみよう”

 ”これだけ周りの人が知ってるなら、きっといいものだ”

 そんな人々の思考を利用しており、一部のタレントからは最強の宣伝方法とも揶揄されたくらいだ。


 それを理解しているひがんも八坂も淡々とそう答えた。


「俺らは俺らの出来る事をすればいい」

「う、うーん……」

 そしてうんざり顔の蝕美もそう告げると、隠花は顔をしかめてうつむいたまま唸って納得してみせた。


 相手は多くのスポンサーを味方にしており、資金も潤沢だ。

 ホーリネスの実力という観点でも、一等星の春先が控えている。


 隠花が属する魔女陣営では、どうにも出来ない……。

 それを知っていたからこそ、隠花は何も反論をしなかった。



 それからさらに数日後。


「お疲れ様!」

「うん、お疲れ様」

 隠花とひがんは、今日もホーリネスの成敗をした。

 戦闘経験を積んだだけではなく、姫魔女と騎士魔女の連携にも磨きがかってきた。


「ひがんちゃん」

「なぁに?」

「私……、最近やっと魔女の戦い方になれてきたかも」

「うん。隠花ちゃんは強いよ」

「えへへ……」

 隠花ははにかみながらも、どこか得意げな雰囲気を出していた。


 だが手放しに喜べる状況では無かった……。


 ”今最高に熱い魔法少女SheSTARS! 海外大物アーティストとライブ共演確定!”

 ”海外映画にも主演決定! あの有名俳優との共演に期待!”


 街中の交差点にある大型ディスプレイから流れるSheSTARSの話題を見た隠花は、表情を曇らせた。


 何故なら、隠花とひがんがホーリネスを成敗すればするほど、彼女達が表舞台へ出る頻度があがっていったのだ。


「…………」

 その結果、世間は魔女にそっくりな魔法少女アイドルに夢中になってしまっていた……。


 ”SheSTARSをモチーフにした魔法少女アニメ、20XX年冬に放送決定!”


 隠花が言葉を失い、辟易していた最中。

 大型ディスプレイには立て続けに、アイドル達をモチーフにしたアニメの宣伝が始まった。


「みんなぁ~! 今日もいっぱいキラキラしちゃお☆」

「人々の邪な心を増幅させる、悪い魔女に負けないで」

「えへへ、みんなぁが困っても私がついているよぉ……」

 しかもその内容は、人々の心を惑わす悪の魔女を成敗する、光の魔法少女の話だったのだ。


「ねえひがんちゃん」

「なぁに?」

「これじゃあ、私達が悪者だね……」

 今まで黙っていた隠花も、これにはさすがに口を開いた。

 実際に人々の欲望を増長させているのは、光の魔法少女側だからだ。


「気にしないで」

 それでもひがんは首を横に軽く振ると、隠花にそう一言だけ告げる。


「う、うん……」

 隠花はひがんの心強さに感心と憧れを抱きつつ、大音量で宣伝させるディスプレイ画面を何度か振り返りつつ、その場を去った。

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