5-11
隠花達が春先のプロデュースしたアイドルに慌てふためている時。
金下が居る広場では。
「う、うぅ……」
見事に魔女達に成敗され、その場で意識をなくして倒れていた金下は、頭を抱えながらゆっくりと上体を起こしていく。
「おはようさん」
「あ、あんた!」
「こんなとこで寝てたら風邪ひくよ?」
「え、あ、あぁ……」
金下の目の前に居た男。
それは以前にファミレスで金下のあがりを回収していたスーツ姿の男だった。
金下は青ざめながら周囲を見た。
スーツ姿の男以外にも、サングラスをかけた男や首元に入れ墨をしている男、頬に傷跡のある男が金下を取り囲む。
全員例外なく屈強であり、元々やせ細っている金下がより貧相に見えてしまう。
「それで金ちゃん、まだ貰ってないんだけど?」
「あぁ……」
金下は転売をする際、所属しているマフィアから資金や人員を調達している。
スーツ姿の男達が借りた金の返済を迫って来た事は、起きたばかりの金下でも十分理解出来た。
「こ、これで……」
金下はジャージのズボンについたポケットの中から、茶封筒を取り出して渡した。
本来この金は、マフィアの取り立てから逃げるための費用だったのだが、それも叶わないと察してすんなりと差し出したのだ。
スーツ姿の男は、その封筒を奪い取って中身に入った万札の枚数を数えると……。
「あのさ、これっぽっちで足りると思ってる?」
「いや、その」
「出してよ。お金」
茶封筒をスーツの裏ポケットへ入れた後、再びそう告げたのだ。
マフィアへの借金はかなりの高額であり、また金利も通常の金融機関の数十倍はある。
それでも八坂に騙されなければ、十分に返せる金額ではあった。
「あ、あの、その……」
だが、金下には金は無かった。
だからただ言葉を濁し、狼狽するだけしか出来なかった。
「はぁ……」
その様子を見かねたスーツ姿の男は、深くため息をつきながら金下から少しだけ離れると……。
「へぐしッ」
勢いをつけて金下の顔面をサッカーボールのように蹴り飛ばした。
金下は情けない悲鳴とともに、再び地面に突っ伏してしまう。
「いいからつべこべ言わず出せ」
「しゅ、しゅみばせん……」
「あ?」
「俺、嵌められて……、金全部無くて……」
「ふむ……」
顔を蹴られた痛みのせいか、金下の呂律は回っていなかった。
「すんません! 必ず返します! だからどうか待ってください!」
「ふーん……」
金下はその場で土下座をして誠意を見せた。
このままではタダでは済まないのは明白だったからだ。
「ま、金ちゃんが嵌められたのは知ってたし、金持ってないのも分かってた」
「へ……? なんで知ってるんすか……?」
「今はそんな事よりも、お金返す事考えないと!」
さらなる暴行を恐れていた金下だったが、彼の予想は外れた。
スーツ姿の男は地面に頭をこすりつける金下の肩を優しくぽんと叩きながらそう告げる。
「ひっ、な、なにを……」
「うちってさ、医療関係もやっててさ。知ってた?」
「は、はい……」
スーツ姿の男は終始笑顔だった。
運び人としての仕事も何度かしていた金下は、マフィアが違法薬物に手を出している事を知っていた。
多額の借金は、薬物の運び人をして返済する……。
そう思い、金下もぎこちない笑顔を見せるが。
「うちの太客に海外の富豪がいるんだけどさ、ちょっと珍しい病気でね」
「は、はぁ……」
「現代の医療技術だと、臓器交換でしか治せないんだけどさ。これが順番待ちだしドナーも中々現れなくってさ。うちに相談してくれたわけだ、助けたいじゃん? 太客だし?」
「そうっすね……」
「金ちゃん、健康そうだね!」
「ま、まさか……!」
「連れていけ」
そう言った瞬間、周りを取り囲んでいた男達は金下へ迫る。
「や、やめろ!! やめてくれえーー!!」
金下はこの場から逃げようと全力で抗った。
手を振り上げ、足をばたつかせ、まるで駄々をこねる子供のようにふるまった。
「うわあああ!!! いやだあああ!!!!!」
だがそんな抵抗も無駄だった。
金下を取り囲んでいた男の一人が、暴れる彼をいともたやすく羽交い絞めにすると同時に、懐に入っていた無色透明の液体が入った注射器を金下の首に注射する。
すると今まで暴れていた金下は急にぐったりと大人しくなってしまい……。
「死に……たく……ない……」
最後にそう言い残すと、再び意識を失ってしまった。
マフィアの男達は何も言わず、まるで荷物のように金下を担いでいき、近くに止めていたスモークガラスのバンへ乗せた。
以降、金下の姿を見たものはおらず、彼のSNSが更新される事は無かった……。




