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八坂から情報を受け取ったまっすぐと前を見据えるとファミレスから出ていった。
三人も用事が住むと、会計を済ませて出ていく。
ファミレスから闇寧喫茶店へ帰る道中にて。
「あのっ、八坂さん」
「どうした? 隠花ちゃん」
「見事な作戦でした。信用させておいて、最後に大損させるなんて!」
隠花は八坂のプロの仕事に対し、目を輝かせていた。
八坂の作戦。
それは最初は確かな情報を提供して信用させ、最後には大損させる事だと隠花は思っていた。
「いや、あの情報は真実だ」
「えっ?」
「あのアクセサリーは売れる。将来的には十倍以上の価値がつくだろうな」
「そんな!」
だが隠花は、自分が思ってた考えと違っていたため身を後ろに引いてしまう。
「まっ、見ていなって」
「は、はい……」
このままでは、ただ金下を儲けさせただけ……。
その事に何の意味があるのかと疑問に思う隠花だったが、八坂の落ち着いた表情を見て口を閉じた。
数日後。
闇寧喫茶店にて。
隠花とひがんはいつも通り、アルバイトに勤しんでいた。
そんな時。
「こんちゃ」
「よう」
「あ、八坂さん。こんにちは」
「ごきげんよう」
探偵の八坂が闇寧喫茶店の中へ入ってくると、挨拶をしつついつも通り蝕美が居る近くのカウンター席へ座った。
今日は金下と会ってた時とは違い、この店に初めて来た時と同じく灰色のスーツを着ている。
「三人とも、金下から連絡が来たぞ。今すぐ来いと言ってるな、かなりご立腹でしかも焦っているようだ」
そして席に着いた直後、三人にそう告げた。
この時隠花は、首をかしげていた。
八坂の儲けに関する情報は間違いではなく、金下が怒るような事なんて起きないと考えていたからだ。
「あの、ど、どういう意味でしょう……?」
故にどうして今の状況になってしまったかを理解するべく、隠花はエプロンの裾をぎゅっと握りしめつつ、遠慮しがちに八坂へ問いかけた。
「隠花ちゃん、仕込んでおいた罠に引っかかったんだよ」
「アクセサリーの事ですよね? でもあれってプレミアつくって……」
「俺が紹介したのは商品の情報、あとバイヤーの情報だ」
「え、ええ……それは知ってます。かなり有名な宝石商だって……」
「その宝石商が詐欺師なのさ」
「えっ?」
「で、でも、金下ってマフィアに居るんですよね……? よくばれなかったような?」
「確かにそうだが、俺の紹介した詐欺師はかなりの腕前だし、金下もマフィアに居るとはいえ末端の構成員だからな。ばれることはないんだよ」
「な、なるほど……」
八坂の作戦の全容を聞いた隠花は思わず感嘆していた。
しかし、探偵の八坂も一流の詐欺師である事を察すると、少しだけ体を震わせた。
「で、どうするかい? やるんだろう?」
「ああ。隠花、ひがん、頼む」
「うん」
「は、はいっ」
こうして二人はアルバイトを切り上げてセーラー服に着替えなおすと、すぐさま待ち合わせ場所へ向かった。
闇寧喫茶店から出て数十分後。
隣町にある人気のない広場にて。
そこは鉄鋼や重機が置かれた工事現場だった。
ただ、休工して日が経っているせいか人気はなく、周囲は鉄板の壁に囲われているせいで人の目にも付きにくい。
いつもはファミレスで待ち合わせをしていたが、今日に限ってこういう場所を選んだのは何故か?
その意味をこの場にいる全員は察していた。
指定した待ち合わせ場所に到着した隠花、ひがん、八坂の三人。
隠花とひがんは放課後のアルバイトを途中で切り上げてきた事もあり、今まで着ていた白色のロリータ衣装ではなく普通のセーラー服だ。
八坂も特に着替えなおした様子はない。
そして待ち合わせの場に金下は既に待っていた。
彼はいつも通りのくたびれたジャージ姿だったが、この場所で拾ったと思われる金属パイプを片手で握りしめていた。
「これはこれは金下様、本日はどのようなご用件で?」
「てめえら……、よくもはめてくれたな……」
「申し訳ございません、おっしゃられている事がよく理解出来ません」
「ふざけんなッ!」
金下は怒声交じりにそう言い放つと、持っていた鉄パイプを床にたたきつけた。
「仕入れたアクセサリー、全部偽物じゃねえか! バイヤーはお前が紹介した奴だぞ、こんなのグルに決まってるだろ! クソ……、マフィアの人件費払えねえから、俺はもう飛ぶしかねえ……。全部お前のせいだ!」
金下は悔しそうだった。
そして何度も床に鉄パイプを叩きつけている事から、彼が窮地に瀕した事が容易に分かった。
「……何を言ってるの? 散々無実の人を踏み台にしてきたくせに。あなたは間違ってたのに」
だがひがんは、そんな金下に容赦しなかった。
いつも通りの無表情のまま、金下の行いを糾弾したのだ。
「はぁ? なんだてめぇ」
「今までいろんな人を困らせてきた。そうでしょ?」
「何、転売の話? お前馬鹿じゃないの? 俺は需要のある商品を確保して少しの手数料を上乗せして売ってるだけ。やってる事は商社や問屋と同じなの、わかる?」
ひがんの非難に対し、金下はいつもSNSで投稿するのと同じ持論を展開する。
この時、金下の表情はひがんを見下げたような嘲笑交じりだった。
「商社は顧客の要求があれば例え国外であろうとも、入手が困難であろうとも品物を確保する」
そんな金下の暴論に、ひがんはまるで動じない。
「問屋は大量発注しか受け付けない品物を小分けにして、エンドユーザーが買いやすくするようにしている」
ひがんは正論を淡々と言い続け……。
「あなたがやってる事は本来なら簡単に手に入る品物をわざと買い占めて売ってる。普通の人から見ればただ邪魔しているだけ。全然違う」
「てめえ……、黙って聞いていれば調子のりやがって……」
そして全て言い切った。
この時金下は、奥歯がギリギリと音をなるくらいに噛みしめていた。
「でもそんな馬鹿げた生活も終わり」
「はぁ? んだとコラァッ!」
金下の怒りは頂点に達し、今まで床を叩いていた鉄パイプをひがんに振り向けようとしたその時。
「あなたのキラキラした生活も終わり」
ひがんはいつも通り、抑揚の少ない声色でそう告げる。
すると周囲の景色はモノクロとなり、隣居た八坂は居なくなっていて、今まで激怒していた金下は自らの大きく震える体を抱えながら悶え始める……。
その直後、全身が白く光り輝くと共に背中から一対に鳥類の翼がメキメキと音を立てながら生えていく。
「グゥゥゥ……」
そして大した間もなく、金下の変化も終わった。
大きく広がった翼や、肌には白地で円形の模様が浮かび上がっていて、今まで鉄パイプを持っていた右手は代わりに沿った剣を持っている事や、前傾の姿勢から彼は今まで成敗したG2や紫陽花と同じく三等星である事を隠花とひがんは察した。
「いくよカイカちゃん」
「うんっ、リコリスちゃん!」
二等星だったぶたりくよりも格下の相手に対峙する。
だが気を緩めるようなそぶりは一切無い。
隠花は杖を、ひがんは大鎌を握りしめて腰を落として構えた。




