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数日後。
隠花の住む場所の隣町にあるファミレスにて。
隠花とひがん、探偵の八坂、そして今回の標的である金下。
四人はテーブル席に座っていた。
隠花は、純白のフリルをふんだんに使ったロリータ服を着ており、眼鏡を外し青色のカラコンをつけている。
髪型は、ロリータ服を着る時にしている黒髪ツインテールとは異なり、今日は金髪のハーフアップのウィッグを付けている。
服もウィッグもひがんから借りたものだ。
ひがんも隠花と同じく純白のロリータ服を着用している。
金髪のゆるいカールがかかったセミロングヘア―のウィッグをかぶっており、ひがんも青色のカラコンをつけている。
二人とも髪型や髪色や瞳の色、爪にはピンクのマニュキアを施している事、ナチュラルなメイクしている事から、まるで天使のような清楚さを感じる。
八坂は縁を金糸で飾った白いケープを羽織り、同色のスーツを着ている。
まるで結婚式に出てくる牧師のようだ。
そして三人とも、十字架を基調としてデザインされた銀製のペンダントを首から下げていた。
三人に対して金下はよれよれのジャージ姿だ。
頭にはフケがついており、爪は黒くなっていて、歯も黄色く全体的に不衛生な印象が強い……。
「本日は我々にお会い下さり、ありがとうございます」
「…………」
金下は足を組み、注文したコーラを音を立ててストローで啜りながら、八坂の話を聞いている。
時折隠花やひがんと目が合わせてくるが、二人ともじっと金下を見ていた。
「あのお方も金下様を認めておられます。今回はその証として直々に我々”降神の民”と直接会話するやり取りとなったのです」
八坂の作戦。
それは、金下へ転売情報を流している者の使いに成り代わって接触するという内容だ。
「……で、お前らが本当にあの方の使いなのか?」
金下への転売情報は、普段はスマホで送られている。
何度かやり取りはあったものの、直接会うことは今までなかった。
当然、金下はその事に猜疑心を抱いており、目を細めて隠花達三人を睨んでいた。
「突然の来訪で、お信じになられない気持ちも十分察しております」
「お前らが本物だって証明をしねぇとな」
「そうおっしゃると思い、こちらを……」
そんな金下の気持ちを察した八坂は、持ってきたカバンの開ける。
そしてカバンの中から一枚の印刷物を金下へ見せた。
「なんだこれ?」
「近々販売される女児向け玩具の資料でございます。まだ小売にしか送られてない情報ですよ」
玩具を取り扱う店では、事前に商品情報が記載されたチラシやカタログがメーカーから配布される。
それは、一般に公開されている情報よりも細かなスペックまで書かれており、当然関係者外秘だ。
八坂はそれを自らの情報網を使って入手し、金下へ差し出したのだ。
「んなもん見れば分かる。馬鹿にしてるんか? あぁ?」
「とんでもございません! ですが、聡明な金下様ならば、これがどういう意味かお判りいただけると思いまして……」
「……次の商材のネタってわけ?」
「左様でございます」
「ふーん。まぁ確かにこれが儲かれば、お前らが本物ってわけだしな」
今まで転売経験のあった金下も、八坂の情報がどういう意味かを察した。
金下はチラシをまじまじと見つめ、しばらく無言になった後……。
「……分かったよ乗ってやる」
「ありがとうございます」
一言そう言うと、チラシを強引に服のポケットの中へ入れてその場から去っていった。
それから数日後。
同じく隣町のファミレスにて。
今日も隠花、ひがん、八坂は金下と出会う。
四人とも以前に出会った時と同じ格好をしていた。
「結果は、いかがでしょうか?」
「いやーマジであんたらすげえわ。今までで一番儲かったわ」
ただし、態度は逆転していた。
以前は猜疑の感情が露わだった金下が、今日は笑顔でかつ声高に、そしてフレンドリーにそう話した。
「俺をはめようとしてくる奴かと思って、投資額少なめにしたのがほんと惜しかったわ~」
「ですが、これでお信じになられたでしょう?」
「そうだな、信じてやるよ。ま、俺が儲かればあの方の使いでなくてもどっちもでいいけど」
八坂から渡した情報は的を射ていた。
チラシに掲載されていた玩具は人気アニメのグッズでありながら販売数もさほど多くなく、かつ一部地域限定だったからだ。
「ありがとうございます」
「で、今日もあるんでしょ? ネタ」
金下は姿勢を少し前に倒しつつ、肘をついて八坂を見る。
「当然でございます。本日はこれを……」
そんな金下の態度を見た八坂は、笑顔を見せながらカバンから次の商材の情報を取り出した……。
さらに数日後。
「ほんとすげえわ! あんた信じて正解だったわ!」
金下は有頂天だった。
よれよれのジャージ姿は変わらないが、財布や腕時計が高級ブランド品に切り替わってる。
その様子を見た八坂は、何も言わずに何度か頷いた。
「あと二回……、いやこのペースだと一回だな」
「どうかされましたか? 金下様」
金下は少しわざとらしく、指を折って数を数えだす。
その事が気になった八坂は、静かにさりげない雰囲気で聞いてみた。
「あぁ言ってなかったっけ。俺さ、今んとこ抜けるからよ」
「ほお……」
「ずっと人件費とか言って売り上げほとんど持っていきやがった。だけど、今までの俺の分け前を貯めてた分と今回の売り上げ合わせれば、ようやく足が洗えるんだ」
金下の、今まで誰にも伝えなかった心からの願いを八坂へ伝える。
この時の金下の表情は、今まで違っていてへらへらおらず口を閉じて真剣であり、声のトーンもいつもより低く、視線を少し机に落としていた。
「なるほど、英断でございます。それではこちらが相応しいかと……」
八坂はこの瞬間を逃していなかった。
金下の態度を見ると直後にカバンから一冊のパンフレットを取り出して、机の上へ乗せた。
「……アクセサリか?」
「左様でございます」
パンフレットの内容。
それは、高級ブランドが今度新作発表するアクセサリーのカタログだ。
当然、まだ販売先にしか展開されていない。
「確かに大手ブランドの物だけどよ、ちょっと難しくないか?」
今まで金下が扱ってきた商品は、どれも単価が数百円から数千円、高くても一万円程度のものだった。
それに比べて今回のアクセサリーは数十万円と高額だ。
金下は半笑いをしながら八坂の方を見つつ、机の上に置かれたパンフレットを軽く手で叩いた。
「今の金下様には勢いがあります。確かにリスクはありますが、今ならそれも問題ないかと……」
「…………」
「それに、これが売れれば目標を超えるかと」
「まあ、そうだな……」
金下は手を口にあて、何も言わずにパンフレットの表紙を見つめ……。
「よしのった! あんたを信じてやる」
「ありがとうございます」
少し時間が経った後、そのパンフレットを受け取った。
八坂はその様子に対して笑顔で答え、八坂の両隣にいる隠花とひがんもほのかな笑みを見せた。




