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隠花とひがんは、各々左右の部屋へと入っていく。
「うわあ……、すごい」
右の部屋に通された隠花は、思わず息をのんで感嘆した。
部屋の雰囲気は入った時とそのままで、部屋の中央には白磁の長机と椅子が置かれている。
その椅子に座る女の人達。
それら全員が、フリフリのロリータ服を纏っていたからだ。
隠花はそんな雰囲気に圧倒され、胸を高鳴らせつつも隅っこの席が空いていたのでそこへ座った。
この時、隣にいた女性が軽く会釈してきたので、隠花も不慣れながらも笑顔を返した。
「…………」
隠花は目線だけを動かして周囲を見た。
人数は現時点では七人くらい。
席の空きから察するに十人から十五人くらいは参加しそうだ。
複数人で参加した人もいるらしく、隣の席の人同士で話している風景も見られる。
ただ大声で騒いだり、化粧を直したり、スマートフォンに夢中になっている人がおらず、全体的にお淑やかな佇まいに隠花は何度か頷き感心していた。
それから時間が経ち……。
次々とパステルカラーのロリータ衣装を着た女性が現れ、着席していく。
そして決められた時間になると、先ほど入口で隠花を右の部屋へ誘導した女の人が部屋の奥から出てきた。
「それではお時間になりましたので、お茶会始めますねっ! 皆様、ごきげんよう」
そしてそう言うと、立ったままスカートをたくし上げて軽い会釈をした。
「ごきげんよう~」
参加者の女性達も、座ったまま軽く頭を下げた。
隠花は皆に少し遅れる形で頭を下げた。
「本日は、まりあのお茶会にご参加いただきありがとうございます!」
まりあというのは、主催者のSNS上での名前だ。
主催者のまりあは定期的にこういった小規模なお茶会を開催していて、知る人ぞ知るイベントとなっている。
「なんと! 今日はスペシャルな方が来てくださいましたっ」
まりあは両手を合わせ、目を輝かせながらそう告げた。
参加者はさすが淑女の集いなのか、特にリアクションもせず静かに微笑んでいる。
「モデルのひがんさんです!」
まりあがそう言うと、部屋の奥からひがんが出てきた。
隠花と出会った時は背景が街の雑踏で気づかなかったが、ひがんのいつも通り無味乾燥な表情とこの場の雰囲気によって、まるで西洋の陶器人形を思わせるような感じになっていた。
「あら~」
「かわいい~」
「きれい~」
参加者も皆その事に気づいたのか、目を丸くする人や感嘆の声を出す人様々だ。
「今日は来てくださってありがとうございます!」
「こちらこそ、招待いただきありがとうございます」
「モデル業がお忙しい中、前回に引き続いて本当にありがとうございます!」
「いえ、私はこういう場所が好きなので問題ありません」
この時隠花は、普段は一言二言しか喋らないひがんがちゃんとした受け答えをしている様子に、少し新鮮味を感じていた。
「それでは、皆様自己紹介をお願いしますねっ」
小規模なお茶会は自己紹介を行う。
その事自体は、隠花も予習済みだったし心構えはできていた。
「順番は……、席のこちらから隣にお願いします~」
だが順番を聞いて唖然とした。
なぜなら、隠花が座った隅っこの席は、自己紹介で一番最後になるからだ。
「みなさんごきげんよう。シャロルと言います。ロリータ歴は――」
隠花が戸惑っている中、自己紹介は始まっていく。
自己紹介をする人は席を離れ、机の前に立って参加者が注目する場所へ向かう。
元々自己紹介で話す内容は決めていた。
だが元々人前に立つのは苦手である事と、順番が最後という事で余計に緊張してしまった隠花は、内容が頭から離れてしまい思い出そうとするがまるで思い出せずに焦っていた。
そして時間は流れ、ろくに内容を思い出せないまま隠花の順番が回ってくる……。
何もせず固まるのだけは良くない。
そう思った隠花は席を立ち机の前へと向かっていくが、どこか歩き方がぎこちない。
「ご、ごごごごきげんよぅ……、さ、さくらくら……、いんかです……」
実は隠花はロリータの時に名乗る名前を考えていた。
だが極度の緊張のせいで、それもすっかり忘れてしまい、結果として本名を名乗ってしまった。
「えっと、うんと……」
隠花は顔を真っ赤にしながら、スカートを両手でぎゅっと握りしめ、もじもじとしたまま俯いている。
名前だけではなく、話す内容も結局思い出せないままだからだ。
「隠花ちゃんはロリータ歴一年目で、お茶会参加も初めてなんです」
「あっ、ひがんちゃん……」
そんな様子を見かねたのか、今まで静観して一言も話さなかったひがんが話し出した。
「元々興味があったので、私が服を選んでここに誘いました。私の大切なお友達です」
本当なら自分で話さないといけないのに、ひがんに話させてしまった申し訳なさ。
いざという時に話せなかった自分への不甲斐なさ。
そして、ひがんの”大切なお友達”という一言。
これらによって、隠花の顔はますます赤くなってしまい、瞳も潤んでしまっていた。
「おお……」
「ひがんさんのご友人……」
「ほおほお……」
周りにいた人らも、その一言によって隠花を見る目を変えた。
それは、ひがんがロリータ雑誌のモデルで一番の人気を誇っており、ロリータ女子の間ではカリスマであったからだ。
「ご、ごめんなさい、なんかひがんちゃんに話させちゃって……」
「いえいえ! 最初は慣れないし緊張しますよねっ!」
「は、はいぃ……」
「隠花さん、今日は来てくださってありがとうございますっ。楽しんでいってくださいね」
「は、はい!」
ひがんに続き、主催者のまりあが笑顔もそう告げたことで、隠花の自己紹介は無事に終えることができた。
隠花は顔を赤くさせたまま、座っていた席へと戻っていった。
隠花の自己紹介が終わると、クラシカルなメイド服を着た店員の手で、ケーキスタンドに置かれたケーキやクッキーと花柄のティーカップ、紅茶やコーヒーを入れたティーポットが机の上に次々と置かれていく。
それからは、各自自由な時間を過ごす事となった。
ある女性はお菓子を出されながら他のロリータ女子との会話を楽しんでいた。
またある女性は、別のスペースに用意された撮影コーナーで自身の姿を撮影してもらっていた。
一方、隠花は……。




