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5-4

 それから数日後。

 隣駅のホームから降りてすぐの広場にて。


 広場は駐輪場も兼ねていて無数の自転車やバイクが並んでいるが、改札口から出てすぐはある程度のスペースがあり、ロリータ姿の隠花はそこで待っていた。


「……ひがんちゃん、まだかなぁ」

 願望が思わず口に出てしまったが、当人は全然気づいていない。

 また、そわそわとしていてどこか落ち着かない。

 改札から出ていく人の目線が気になるというのもあった。

 だが、今日に限ってはそれ以上の理由があった。


 それは、隠花が人生初めてのロリータ女子達が集まるお茶会へ参加するからだった。


 ロリータ女子が集まるお茶会とは、名前の通りロリータ服を着た人がカフェやレストランに集り、お茶やお菓子、軽い食事を交えながら会話や簡単なゲームしたり、簡易的な撮影会をして各々の交流を深める集いである。

 ロリータ服ブランドが主催している新作発表会を兼ねたものや、ネット上で参加者を募って開く個人的なものがあるが、今回は後者の方である。

 ゆえにドレスコードはブランドやコーディネートの指定は無くてロリータ服さえ着ていれば良く、参加条件もロリータ服が好きな女性だけだ。


 ロリータ好きだった隠花は、ブログやお茶会の動画を見ていて予習済みだ。

 だがまさか自分が参加するとは夢にも見ていなかった。

 元々人前に出るのは得意ではないし、人が多い場所へも好んでは行かない。

 本業である学業ですら目立つ事を極力避けてきたし、そもそも目立たなかった隠花にとっては、そんな門口が比較的広い集いであっても、参加を決めるのは決死の覚悟だった。


「お待たせ」

「ひがんちゃん!」

 電車が二度程駅に停まった後、人混みの中からひがんが来る。


 今日のひがんは桃色のロリータ服だ。

 フリルをふんだんに使ったマキシ丈のスカートに、同じくフリフリで大きく袖口の広がった姫袖、同じ色のヘッドドレスもフリルが使われている。

 服以外には、ピンク色のカラコンをはめていたり、桃色の口紅やチークでメイクしていたり、同色のマニキュアで爪を飾っている事から、まるで春の桜を思わせるようだ。


「行こう」

「う、うん……」

 隠花は自分が着ているロリータ服のスカートを両手でぎゅっと握りしめ、少し俯きもじもじしながら頷く。

 誰がどう見ても、どこかひがんと一線を引いているような雰囲気だ。


 それは隠花の服装に理由があった。

 ひがんは隠花と会うたびに服装やメイクを変えていた。

 だが隠花の服や髪型は、以前に購入したものと同じで変わりはなかった。


 それが隠花の負い目になっていたのだ。

 ひがんがここまで服装を変えるのだから、自分も変えなければいけないと思っていた。


「えっ」

「落ち着いたかな?」

 だがひがんは、その一線を踏み越えた。

 スカートを握っていた片方の手を強引にとると、ぎゅっとにぎったのだ。


「隠花ちゃんの服、とてもかわいいよ。すごく似合ってる」

 隠花は一瞬呼吸が止まったような感覚に襲われた。

 物心ついてから血縁者以外と手を繋ぐという行為は、学校でダンスの授業をした時以来だからであり、自分からではなく好意的な感情を抱いているひがんからされたからだ。


「あ……、あぁ……」

 ひがんの手はほんのりと冷たい。

 対して隠花は手どころか全身が熱くなっていた。


「や、やだ……、恥ずかしいよ……」

 この時隠花は恥ずかしさのあまりに、少し涙目になっていた。

 手を握るひがんから目線をそらし、少し高い声でかつ小声でそう告げた。


「じゃあ離れる?」

 ひがんはいつも通り、無味乾燥な表情でそう答えた。


 今までの隠花ならすぐにでも離れただろう。

 恥ずかしさのあまり、このまま家へ帰ってしまっていたかもしれない。


「……やだ」

 だが隠花は、赤面させながらもひがんの手をぎゅっと握り返した。

 もう片方の手は、相変わらずスカートを握りしめていた。 


 隠花のした事がどういう意味なのか、ひがんには伝わっていた。

 しかし、この行為にもひがんの表情が変わることはなかった。


 ただ、隠花の手を握るひがんの手の形が、普通の握手から恋人がするような指を組むような形に変えた事から、ひがんもまた隠花と同じ感情を抱いていることが伺えた。



 二人が手を繋ぎ、歩いてから十数分後。


「ここだよ」

 今回のお茶会の会場となっているカフェに到着する。

 建物は全体的に蝕美の喫茶店よりも大きく、高く、白塗りの壁は日の光に反射して輝いており、木枠の窓はフリルのカーテンで飾られている。

 外から見ると、西洋のお城を思わせるような感じだ。


 隠花はひがんの言葉に対して何も言わず一つだけ頷いた。

 何を言えなかったのは、まるで恋人のように手を繋いでここまで歩いてきた事と、お茶会に参加することで頭の中が沸騰するような感覚になっていたからだ。


 隠花の反応を見たひがんは、手を繋いだまま金色のドアノブに手をかけ、扉を開けて中に入っていく。

 隠花も遅れないように、胸の高鳴りを感じたままきょろきょろしながらついていった。



「ほおほお……」

 中に入った隠花は、初めて入る場所を見まわした。


 建物の中は壁が白いせいか、全体的に明るい雰囲気が強い。

 壁に取り付けられた百合の花の形をしたランプや、出窓に置かれた白金製のオルゴールとカメオのブローチ、壁にかけられた天使の絵がクラシカルな雰囲気を出していた。

 入ってすぐにレジが置いてあるチョコレートカラーの木製のカウンターがあり、両サイドに扉がひとつずつある。

 左の扉には”STAFF ONLY"の札がついている。


 隠花がそうしている中、左の扉から黒色のロリータ服を身に着けた、ストレートの黒髪ロングヘアーをした隠花やひがんより一回り年上の女性が出てきた。


「ごきげんよう」

 そして女性はスカートを軽くたくし上げ、頭を下げて挨拶をした。


「ごきげんよう~」

「ご、ごきげんよう……」

 ひがんも同じように挨拶を返し、隠花は少し戸惑いながらひがんの仕草を真似た。


「お茶会の参加する方ですよね? お名前どうぞ」

「ひがんです」

「さ、咲良倉隠花です……」

「ひがんさん! 隠花さん! お待ちしておりました~! それでは、ひがんさんはここから左の部屋でお待ちくださいませ、隠花さんは右の部屋で待っててくださいねっ」

「はい」

「は、はい」

「じゃあまた後でね」

「うん」

 ひがんは隠花の手を離すと、表情を変えないまま左の部屋へ入っていった。

 隠花は少し名残惜しそうにひがんの手を握っていた自分の手を見た後に、右の部屋へ入っていった。

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