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数日後の放課後。
闇寧喫茶店内にて。
隠花とひがんはいつも通り、アルバイトをしていた。
クラシカルなメイド服に着替えると、店の掃除を淡々と行っていく。
「ねえマスター」
「どうした? 隠花」
そんな中、隠花は机の拭き掃除をする手を止めると、蝕美の方を向いた。
「このお店って儲かってます……?」
「そう見えるか?」
「ぜ、全然……」
隠花の思っている内容はこうだ。
彼女がアルバイトをしてから闇寧喫茶店は、ほとんど客が来ない。
故に隠花はこのお店の経営状況を心配して話したのだった。
「普段は赤字だよ。けどたまにお茶会が開かれる。それでトントンってところだな」
「なるほど……」
「お前達が普段している格好のような女の子がいっぱい集まるぞ」
ここで蝕美が言うお茶会とは、ロリータ服を着た少女達が集まるイベントの事である。
ロリータ少女が集まり会話や料理を楽しんだりする。
まるで中世ヨーロッパの貴族達がやっていたパーティを思わせるような内容となっている。
勿論隠花も興味はあったし、調べて知識としてはあった。
だが、人付き合いに苦手意識を感じる隠花が参加する事はなかった。
「確かに、ここのお店の雰囲気いいですからね」
隠花がそう言うと、蝕美は何も言わずニヤリとした。
この時、隠花はひがんの視線を感じてそちらを振り向いたが、ひがんと目が合うと思わず目線を逸らした。
そんな中、喫茶店の入り口の扉が開く。
「こんちゃ」
「いらっしゃい」
現れたのは探偵の八坂だ。
以前出会った時と同じく、蝕美が居る近くのカウンター席へ座る。
「蝕さん、いつもの」
「あいよ」
そして被っていた中折れ帽子を取ると、慣れた口調でそう告げた。
「こ、こんにちはっ!」
八坂はホーリネスに関する情報提供をしてくれているだけではなく、闇寧喫茶店の常連客でもある事を知っていた隠花は、少し硬い笑顔で挨拶をした。
「こんにちは」
八坂はそんな隠花を見ると、少しだけ口角をあげて挨拶を返した。
「そういえば、ロリータ服着ているんだって?」
「えっ? あ、はい。ひがんちゃんと遊ぶ時だけですけども……」
突然ロリータ服の事を聞かれた隠花は、少しもじもじしながらそう答えた。
「近々、隣駅のカフェでロリータ女子のお茶会があるみたいだ。ひがんもゲストに呼ばれている」
「そ、そうなんですか?」
「その様子だと、初耳って感じだね?」
隠花はひがんの方を向いた。
「私はお仕事で行くから、隠花ちゃんを誘わなかったの」
ひがんの表情は相変わらず無表情だ。
「なるほど……」
普段遊びに行く時はいつも隠花とひがんの二人だけだった。
今回のお茶会はもっと人が集まるのは間違いなく、隠花が人見知りである事を配慮して、敢えて伝えなかったのを察して何度か頷いた。
「来る?」
「えっ」
ひがんの誘いに、隠花はメイド服のエプロンの裾をぎゅっと握っていた。
「う、うーん。ひがんちゃんがいいなら……」
この時、蝕美と八坂は少し驚いたような表情をしていた。
だがもじもじとした隠花はその二人の様子に気づくわけもなく、ひがんは大人二人の方に視線を一瞬向けたが、すぐさま隠花の方へ戻した。
「じゃあ主催者に連絡するよ」
「あ、ありがとう。本当にいいの?」
「うん、来てくれると嬉しい」
「迷惑じゃない……かな?」
「うぅん、隠花ちゃんが一緒に居て迷惑なんて思った事一度も無いよ」
ひがんがそう淡々と自らの思いを打ち上げていく。
「や、やだなあもう! 照れちゃうって~~」
そんなひがんに対し、隠花の顔は真っ赤になっていた。
「ほう、ひがんが喜ぶなんて珍しいね」
「ああ、隠花と出会ってからひがんが随分明るくなったし口数も増えた」
「えっ、ひがんちゃん喜んでいるんですか?」
「ああ」
隠花を喜ばす言葉を言ったひがんの表情は、いつも通り無味乾燥だ。
隠花も、”私には普段と変わらないように見えます”と言いたげな表情をする。
「うぅん、そんな事ないよ」
蝕美と八坂の発言に、ひがんは首を何度か振った後に止めていた掃除を再開した。
それを見た隠花も、ひがんと同じ様に止めていた手を動かし始めた。




