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 隠花が限定品を買えず、ひがんとお茶をしている時。

 SNS上では。


 ”ネコファットのラバスト買えなかった”

 ”なんか外人が来て全部買っていきやがった”

 ”ありえない”


 ネコファットとは、ネコミミフェイバリットの略称である。

 彼女らは、今日販売のグッズが買えなかった事について、SNSで愚痴を投稿していた。


 そんな中、一際フォロワー数の多いアカウントが、机の上に並べた未開封のラバーストラップとピースサインをした手を写した写真と文章を投稿していた。

 文章の内容はこうだ。


 ”今日はネコファットの限定ラバスト販売日ですね! 全て購入させていただきました! これからBaybuyにて販売させていただきますのでよろしくお願いします!”

 Baybuyとは国内大手のフリマサイトだ。

 ネット初心者でも分かりやすい見た目と操作で、売り上げはそのままデポジットとして提携している飲食店や量販店でも使え、運送会社とも提携しており、テレビCMでも毎日見る事から、多くの人が周知し利用している。


 正規の店舗での買い占め、そしてフリマサイトでの販売。

 これら経緯から、昨今物議を醸しだしている転売行為である事は誰の目から見ても疑いなく、買えなかったファンらは当然、この行為に怒った。


 ”はぁふざけんな”

 ”転売ヤー死ね”

 ”本当害悪すぎる”


 転売ヤーの投稿はたちまち閲覧数を伸ばしていく。

 瞬く間に、SNSの今流行っているワード一覧には転売ヤーとネコファットの文字が並ぶようになった。


 だが、転売ヤーの投稿はこれだけでは終わらなかった。


 ”お前ら馬鹿なの? 俺が代行して買ってやってるんだよw 店に来れない人や並ぶのが嫌な人の為にやってる慈善事業なの分かる?w”

 ”欲しいものを欲しい人に提供する。やってる事は小売や商社と同じなんだよ。もっと経済の勉強してから来ましょうねw”


 なんと転売ヤーは、買えなかったファンらをさらに煽るような発言を投稿したのだ。


 ”お前が買わなきゃ全て解決だろ”

 ”人の邪魔するのが慈善事業?”

 ”頭悪いのお前だろ”


 当然、転売ヤーの記事には多くの非難の声が投稿されていく……。


 ”絶対にこんなのから買わない”

 ”買う奴も同罪”


 それと同時に、転売ヤーに対しての不買を謳った書き込みも散見されるようになっていく。


 ここで本当に不買を貫けたのならば、ここまで憎悪と悪意を向けられなかった……のかもしれなかった。


 ”限定ラバスト完売しました! 今日は儲かったので焼肉にしまーすw みなさんゴチですw”


 だが現実は、書き込みのような理想を描くことは出来ず。

 ものの数時間も経たずに転売ヤーのSNSアカウントは、フリマサイトの打ち上げ金額を撮影した写真と高級焼肉店で食事をしている様子の写真が投稿された……。


 ”マジうざ”

 ”なんなのこいつ”

 ”転売ヤー滅んでしまえ”


 火に油を注ぎこまれ、恨みの熱は猛火となっていく。

 転売ヤーを口に汚く罵る書き込みは、無尽蔵に増えていき怨嗟の鎖は切れる事無く連なっていった……。



 一方その頃。

 国内某所の高級焼肉店内では。


 座席には、二人の男が座っていた。

 一人は上下とも白のジャージを着た、ぼさぼさで根元は黒くなっている金髪が印象的な青年で、もう一人は紫色のシャツと白黒のストライプ柄のスーツを着た、細身だが強面の男だ。


 金髪の青年は、スマホの操作を終えるとスマホを机の上に置き、サシの入った肉を次々と網の上に乗せていく。

 程なくして、焼きあがった肉を頬張ると、大して咀嚼もせずに口を開けて高笑いした。


「ギャハハ、ほんと雑魚共の反応笑えるわ」

 金髪の青年はそう大声で下品に発した。


「だってさ、こいつらがギャーギャーSNSで言ってる中で、俺は転売でウン十万って稼いでるわけじゃん? ほんと、やめられねえわ転売w」

 食べながら喋っているせいで、口の中の肉が見えてしまう。

 だがそんな下品な様子を見せても、金髪の男は勝ち誇った様子で自慢げに話し続けていた。


「そう思いますよね?」

 そして金髪の男は、箸の先で強面の男を指しながらそう言った。


「金ちゃん」

 だが強面の男は表情を一切変えず、ポケットに手を突っ込んだまま金髪の男の愛称を告げる。


「あっ、すんません。これ今日の分です」

 強面の男の様子を察したのか、金髪の男は箸を雑に置いた後にポケットの中から茶封筒を出すと、強面の男に差し出した。

 強面の男は、茶封筒を受け取ると中に入った一万円札の枚数を指で数えていき……。


「うん。じゃ、次もよろしく」

 その枚数を確認し終えると、金髪の男へそう告げながら茶封筒をジャケットの内ポケットへ入れて、席を立った。


「はいっす、一緒に飯どうっすか?」

 金髪の男は半笑いのまま、食事の誘いをした。

「いらない」

 だが強面の男は金髪の男が喋った事で、咀嚼物が机の上に散らばっている惨状を目の当たりにすると、一切迷わず誘いを断った。


「金ちゃん」

「はい?」

「君も泰我亞(タイガー)の一員である事、忘れるなよ」

 そして強面の男はそう告げると、店の外へと出て行ってしまった……。


 泰我亞とは、海外の有名なマフィアである。

 暴力行為、窃盗、賭博、違法な薬物の売買、高利貸しといった、反社会組織でやる事は一通りやっている。

 最近では活動拠点を広げ、日本でも構成員が多く活動している。


 そんな彼らのシノギの一つとして、転売行為があった。

 そしてそのシノギで大きく利益を上げているのが、”金ちゃん”と呼ばれている金髪の男であり、苗字は金下(かねした)と言う。


 金下はマフィアに所属する構成員の一人であり、そして末端だった。

 鉄砲玉くらいの役割にしかならないと組織内で思われていた中、彼が転売行為で利益をあげると、マフィアは彼を利用する事を決めた。


「クソ、マフィアの奴ら、俺が利益をあげだしたら急にたかりやがって……」

 マフィアが金下にした事。

 それは、資金の貸し付けと人員の斡旋を理由に売り上げの一部を得る事だ。

 内容としては、マフィア側で裏事を躊躇なくやるはぐれ者を金で雇う。

 雇われたはぐれ者は標的となった品物の買い占めを実行する。

 そしてそれを金下が取りまとめ、フリマサイトで転売する流れだ。


「へ、何が泰我亞だ……。俺には”あの方”がついている……」

 だが、マフィアは売り上げの半分以上を金下から取り上げていた……。

 当然、金下のマフィアへの不満は日々募っていた。

 

「もっとビッグになったら、マフィアから離れてやるからな……」

 転売ヤーの金下は俯き、拳を強く握りしてめてそう一言告げた。

 この時、握った拳は小刻みに震えていた。

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