4-5
「待って」
「なんなのさ? さっさとおぢの相手しないと――」
「誰の相手をするの?」
ぶたりくは少し苛立ちながらも瞳に輝きを宿らせたままそう言い残し、再び扉の方へと向かっていく。
「はぁ? まだ分かんないわけ? だから――」
だが、何か重いものが地面に落ちた音がすると、ぶたりくは足を止めてひがんの方を振り向き……。
「な、なんだ……」
「急に倒れたぞ……?」
三人居る男のうち、筋肉質の男が白目を向いてその場に前のめりになって倒れていたのだ。
残った二人の男は、何が起こったのか理解出来ず周囲をキョロキョロして落ち着きがない。
「えっ……」
当然、ぶたりくも動揺していた。
このままここの居る少女全員が、欲望むき出しの男達の餌食になる事を疑っていなかったからだ。
「あと二人、どっちから倒されたい?」
男が突然倒れた理由。
それは、かつて紫陽花の取り巻きに対して使った、精神世界で過度な負荷をかける攻撃。
ひがんはそれを男のうちの一人に使ったのだ。
「な、何をしたお前!」
「何が起こったんだ……」
当然、精神世界という概念を知らない男達が、ひがんのした事を気づくわけもない。
男が倒されたというたった一つの結果に対し、声を震わせて後ずさりをしてひがんから離れてしまう。
「聞いているのは私だよ。次に倒されるのはどっちなの? あなた?」
「ひっ、ぼ、ぼくは嫌だ……っ」
ビール腹の男は異様に甲高い声で否定した。
「ならあなた?」
「ふざけるな! 何で俺が!」
中肉中背の男は、手を振りながら拒絶した。
「ふぅん、別に同時でもいいよ。さあ……」
二人の言動を無視し、ひがんは絨毯を踏みしめてゆっくりと男達へと迫っていく。
この時ひがんは瞳に闇を宿らせ、まるで二人を汚物を見るような目で見下していた。
「や、やめろ! 俺は無実だ……!」
「ひ、ひぃお助け!」
そして恐怖が頂点に達した時、男達はひがんを避けるように部屋の入口へと走っていき……。
「ぶたりく! お前とんでもないのを連れてきたな……!」
「う、うう訴えてやる! お前の飼い主の春先にな!」
部屋から出る直前にそう言い放ったのだ。
この時、ぶたりくの顔が引きつったのだが、それに気づいたのは隠花とひがんだけだった。
「ちょ、ちょっと! 待って!」
ぶたりくはいつも以上に高い声で必死に呼びかけた。
だが、部屋の扉は無情にも閉まってしまった……。
この瞬間、ぶたりくは何も知らない少女を踏み台にして積み上げてきたモノが、壊れて崩れた事を確信した。
表情からは今までの余裕の笑みはなくなり、血の気は引いて青白くなっていく。
「これで終わりね」
「ふ、ふざけんなよ……、このクソアマが! お前らはあたしの為におぢと腰振ってりゃいいんだよ!」
「ふぅん、それってあなたの事かしら?」
「あたしはお前らとは違う! 金持ちを利用してのし上がって目立ってやる!」
「でももうそれも出来ない」
ぶたりくはヒステリックな声をあげながらひがんへ言い放った。
だがひがんは冷静に、そして無表情のまま反論した。
そんなひがんの態度が、青白かったぶたりくの顔を赤くさせた。
「あなたのキラキラした生活ももう終わり」
ぶたりくの様子を見たひがんは、ひと呼吸置いた後に”いつもの言葉”を言い放つ。
すると世界は色と時間を失った。
絢爛豪華な部屋も、全てモノクロとなったのだ。
隠花の服装は変化し、ひがんは服装もそうだがつけていたウィッグやカラコンも外れていつもの銀髪が露わになっていた。
「……ふーん、噂では聞いていたけど、あんたらが魔女ってわけ……」
だが、ぶたりくの姿は変わらない。
それどころか、一緒に居た虚ろな少女三人もどういうわけか精神世界に居る。
「あたし達、光の使徒を成敗しているってわけ……」
しかも隠花やひがんの事を魔女と分かっていた。
それら予想だにしない出来事に隠花はひがんの方を向き、ひがんはいつもより大鎌の柄を強く握りしめた。
「馬鹿かお前! 相手が悪いんだよッ!」
隠花が戸惑ってい最中、ぶたりくはそう言い放つと強い光に包まれた。
そして光がおさまると、そこにはホーリネスとなったぶたりくの姿があった。
「リコリスちゃん……、これって!」
だが、その姿は今まで戦った紫陽花やG2とは違っていた。
他のホーリネスは服装が変化しなかった事に対し、ぶたりくは太ももの付け根部分に半透明のフリルをあしらった白いレオタードを着用していたのだ。
服装の変化という、魔女と同じことをやってのけたのだ。
「二等星。マスタークラスと呼ばれているホーリネス。……手ごわいよ。カイカちゃん」
ひがんは腰をより深く落とし、そう一言隠花へ告げた。
そんな様子から、ぶたりくが今までより手ごわい相手だという事察すると、隠花は両手で杖を握りしめた。
「逆にお前らを成敗してやる! お前ら壊したらしっかり調教して闇風俗に流してやるよッ! ギキャキャキャキャッッ!」
ぶたりくは何もない所から光を帯びた鞭を取り出し下品に笑った。
そして、瞳に二つの星のような輝きを宿しながら、鞭をひがんと隠花が居る場所へ振るった。




