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「次の相手は、コスプレイヤーのぶたりくだ。こいつからホーリネスの反応があった」
「あの、すみません。ずっと気になってたんだけども、いいです……?」
「どうした?」
「どうやってホーリネスやパラライトを感知しているんです?」
隠花は申し訳なさそうに片手を少しだけあげ、小声でそう問いかけた。
「ああ、言ってなかったなすまん。光と闇の勢力監視は俺達だけじゃない、もっと大きな規模でやっていて、情報はそこから来る」
「そ、そうなんですね」
「ただ俺達に情報を送ってくるのは代理人で、大元はどんな奴なのかは俺も分からない。前に代理人に聞いてみたんだが、国家機密で言えないと返された。勿論ひがんも知らない」
「なるほど……」
「今はその機関をどうこう考えるより出来る事をやればいい」
「は、はぁ……」
隠花よりも魔女歴の長いひがんも知らない上位機関とは何か?
その正体について隠花はいろいろ考察しようとしたが、あまりにも突拍子が無かった事と蝕美が深く語らなかったせいで、煮え切らない返事をして考察するのをやめた。
「話を戻すぞ。ぶたりくはレイヤー活動での迷惑行為もあるし、”ピュアプリンセス”関係者だ」
「ぴゅあ……?」
「一言で言えば、金持ち専用の非合法な風俗だ。何も知らない子にうまい話を持ち掛けて、権力者の相手をさせる。貪られ精魂とも絞り尽くされてた後は、それを脅しのネタに使って裏モノのセクシービデオに出演させたり、別の闇風俗へ売り飛ばす。そういう場所だ」
「酷い……」
その話を聞いた隠花は胸に手を当て、身を引いた。
売春サロンが行っているえげつない行為に対しての反応であり、またネット上で都市伝説レベルとして語られている事が、まさか本当にあるとは思っていなかったからだった。
「中々尻尾を出さなかったんだが、ようやく証拠を掴めた」
八坂は低い声でそう話し始める。
隠花はかなり苦労をして得た情報なのだろうと察し、何度か頷いて見せた。
「おお、それならG2の時みたいにネットで公開しちゃえば!」
「いや、それでは駄目なんだよ。あーえっと、いんか……ちゃん?」
「あ、呼び捨てで大丈夫です。気をつかわせてすみません」
八坂は隠花と初対面であり、彼女をどう呼ぶか分からなかったので少し戸惑いながら”ちゃん付け”で呼ぶが、気をつかってくれた事を察した隠花は少し申し訳なさそうな顔をしながら答えた。
その隠花の反応に、八坂は口角を少しだけあげて軽く頷いた。
「調べると、どうもこのぶたりくという女。周りからの評判を一切気にしないみたいだ」
「えぇ、そんな人居るんですか?」
「事実、コスプレ会場から出禁になっても無視だし、ネットで炎上してもそれをネタにして活動を続けるくらいだ」
「ある意味、すごいですね……」
「ピュアプリンセスから攻めるにも、そこも過去警察の捜査からも逃れられている。両方とも普通の国家機関はアテにならんだろうな。決定的な証拠でもあれば別だが」
「う、うーん……」
隠花は怪訝そうな顔をしながら、一つだけ低く唸った。
「そこで、ひがんと隠花に手伝って欲しい」
八坂が状況の説明をした後、蝕美がひがんと隠花の方を向き、指を組んでそう話した。
「うーん、もしかして私達におとり捜査をしろと言ったり……?」
「ほお、察しが早いな」
「ええっ! そ、そんなの無理ですよ! 精神世界の事ならまだしも現実でそんな事!」
隠花は身を引き、両手を前にやり手を振って蝕美の作戦を拒絶した。
「お前、学校でいじめにあってた時に、ひがんの事を見てただろ」
「確かに、男の子達をやっつけていた……。あれって……?」
だが蝕美のその一言を聞いた隠花は、手を振るのをやめて首を傾げた。
「精神世界の出来事は、基本的には現実に持ち帰れない。お前達魔女の服装がいい例だ」
「そうですね……」
この時、隠花は少し残念そうに頷いた。
また周囲の誰も気づかなかったが、今まで蝕美の方を見て話を聞いていたひがんが、僅かに彼から目を逸らした。
「だが、精神世界でホーリネスを倒すと、パラライトに寄生されていた人物は昏倒するだろ? ホーリネスの自爆に巻き込まれたひがんもしばらくは目を覚まさなかった」
「あー、そう言われれば……」
「精神世界でのダメージは、現実世界の精神的な疲労に繋がる。現実に影響を及ぼす特例の一つだな」
「じゃあひょっとして、精神世界を利用したら相手を自由に洗脳出来たり……とか?」
「流石にそこまでは無理だな。仮に出来たらこの世界はもっと滅茶苦茶になってるはずだ」
「そうですね……」
隠花はとあるフィクション作品を思い出し、内容が現状と酷似していたのでぞっとしたが、そこまで都合が良いものではないと察して胸を撫でおろした。
「頼むぞ、隠花、ひがん」
「は、はい。自信は無いけど頑張ってみます……」
「わかった」
こうして、次の魔女活動が決まった。
隠花は弱腰で不安げな表情を見せつつ頷き、ひがんは相変わらず無表情のまま一つ軽く頷いた。




