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国内某所。
とある商業用ビルの最上階にて。
そこは会員制の高級サロンになっている。
中はモノクロカラーの椅子や机が並んでおり、オレンジ色の間接照明がぼんやりと部屋内を照らしていた。
壁の東側は全面ガラス張りになっており、眼下には夜中にも関わらず様々な光が忙しく動いている。
落ち着いた雰囲気のサロン内と、時間の流れが違うかのような錯覚すら感じるくらいだ。
サロンに居る人物は、大きく二種類。
一つはサロン内で働いているウェイトレスやコック。
服装は扱う料理に応じてまちまちではあるが、どの人物もメディアに出た事がある有名人ばかりで、サロン外では高級店を構えている人達である。
もう一つは並の会社員の月収以上はするスーツやドレスを身に纏い、並の家庭では味わえない酒や料理を堪能している。
どちらも超一流である事に疑いは無い。
そんな場所で、ある男と女が話していた。
「春おぢ~」
「お、ぶたりくちゃんじゃん。お疲れ」
女の方は、コスプレイヤーとして活躍しているぶたりくだ。
シックなこの場所で、どういう訳かぶたりくだけが股部分の食い込みの激しいラバー製のバニースーツを着ている。
男の方はソファーに座っており、両腕を広げて足を組んでいた。
首から上は間接照明の影響か、陰になっておりよく分からない。
ただぶたりくからは”春おぢ”と呼ばれており、カジュアルなシャツとジーンズのズボンを穿いており、体つきは全体的に丸い。
一見、二人は周囲からは浮いているようにも見える。
だが周囲の人らは、そんな二人を一切気に留めようともしない。
「前紹介してくれた子、思ってた以上に良かったよ。名前は……なんだっけか? ほら、ロリータの子」
「ああ、読モのアンズだね。気に入ってくれて何よりさー」
ぶたりくはそう言いながら、春おぢと呼ばれている男の横へ座ると、男の体に胸部を擦り付けた。
「たまにはああいうのも悪くないね」
「でしょー」
「”マスター”にして正解だったよ」
「大した事ないって、今どきの子は馬鹿だからさ、ちょっと旨い話言ったらすぐついてくるさー」
ぶたりくは鼻で笑うと、片手を春おぢの腰へ回し、もう片方の手をパタパタと振った。
「まっ、そのお陰であたしは春おぢに認められたんだけどね」
「この調子で頼むよ」
「おっけー」
「今度さ、僕の名義で新規アイドルを立ち上げるんだけど、ぶたりくちゃんがもっと頑張ってくれたらプロデューサーに推薦するね」
「本当! 春おぢありがとう~♪」
「あと、”アドミニスト”の方も進めておくから」
「やば、一等星になれるとか興奮してきた」
ぶたりくは晴天の夜空に輝く星々のように、目を輝かせていた。
「そういえば、最近G2君見ないけど?」
「あれ、逮捕されちゃったよ? 春おぢ知らなかった?」
「へー、知らなかった」
春おぢと呼ばれている男は、伸ばしていた腕を机の上に置いてあったウイスキーの入ったグラスに手をかけると、退屈そうな反応を見せた後にグラスの中身を一気の飲み干した。
「春おぢお気にいりのショウカも活動休止しちゃったし、最近散々だよね」
「…………」
男はグラスを机に置くと、ぶたりくの言葉を無視して窓の方を向いた。
「そんな落ち込まないで、元気だしなよー。またいいモデルの子連れてくるからさー」
「モデルと言えば……、ひがん……だっけ? ランク一位の子。あの子食べてみたいな」
男は窓の方を向きながら、さも当然のようにそう告げた。
「やー、あの子身持ち固すぎて無理さー。今どき珍しいけどね」
「ぶたりくちゃんでも駄目なの? あーあ、ひがん食べたいな食ーべたいな」
春おぢは少し棒読みな感じでそう言った。
「はいはい、まぁ頑張ってみるさー。じゃ、今日は別のおぢの相手あるからバイバイ~」
ぶたりくは、春おぢと呼ばれる男の頬に口づけを一つすると、ソファーから立ち上がり片手を振ってサロンの奥の部屋へと入っていった。
「…………」
この時、男はぶたりくの方を一切見ていなかった。
男は手を組み、姿勢を前方へ傾けながら何やら考え事をしていた。




