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3-7

「精神世界で傷つかないのは、精神世界というのは文字通り”思いの世界”だからだ」

「思いの世界……?」

「思いの力が全てを決める世界だ。隠花がロリータ服の姿になれたのは、潜在的にそうなりたいと思っていたからだ」

「う、うん」

 この時隠花は、自分の姫魔女姿を頭の中で思い返した。

 そして、フリフリの可愛い服を着たいという願望があった事を改めて確認すると、気がつかないうちに何度か頷いていた。


「精神世界での服装を現実世界で持ち越せないように、肉体的な損傷や記憶は例外を除いて持ち越せない。だけど全部チャラってわけじゃない。精神世界内での損傷や疲労は全て現実世界の精神的な疲労に変換される。だからひがんは外傷は無くても倒れたし、休息をとる必要があった」

「なるほど……」

「ひがんだけじゃない、全ての魔女にいえる事だからお前も気をつけろよ」

「はい」

 ひがんが倒れた理由、謎の多い精神世界のルール。

 それらを知った隠花は、蝕美の目を見て再び一つだけ頷いた。


「今から三十年前……。ある学者が研究の末、精神世界がある事を発見した」

 それを見た蝕美は手と足を組み、話を再開する。


「現実の世界とは別の世界が存在する。しかもそこは何だってなれるし、何だって創る事が出来る。そんな夢のような話に学会は期待したし、たくさんの後援者も現れた」

 隠花は目を丸くし、頷きながら聞いていた。


「だが、その研究は資金不足を理由に凍結となってしまった。精神世界は入るのも難しいし、人の思いというのは多元的だから思った通りに制御も出来ない。だから発見以上の事が出来なかった。後援者も結果が出ないと見るとすぐ支援を打ち切った。そこが研究凍結の理由なんだけどな」

「私達が入れて、戦えるのはどうしてでしょう……?」

「研究凍結後、それでも諦めずに私財を投げうって研究を続けた()が居た。お前らに渡したタリスマンがそいつの成果だ。それがあれば精神世界へ入れるし、精神世界内で自由に行動出来る」

 隠花はポケットの中に入れていたタリスマンを出し、手のひらに乗せて眺める。

 タリスマンにはめ込まれた宝石が、鈍く輝いた。


「あれ? じゃあ、どうして今こんな事に……。紫陽花ちゃんも、G2さんも、アンズさんも精神世界内に入っていた。入るの難しいんですよね? まさか私達と同じ様にタリスマンを持っているとか?」

「それはない。タリスマンは正規の魔女として契約してないと使えないような仕組みになってるからな」

「他に入る方法があるとか?」

「あいつらは自分の意思で入っていない。精神世界は思いの強さで何にでもなれるなら、パラライトに感染したホーリネスは経緯こそ違えど共通の思いを抱いているからな。だから精神世界でも姿を見せる事が出来る」

「共通の思いって、もしかしてキラキラしたい……?」

 蝕美の言葉を聞いた隠花は、過去ひがんがホーリネスに向かって言った”あなたのキラキラした生活も終わり”という言葉を思い出した。

 現実で自分の欲求が叶わなくなった時に、あの言葉を投げかける事で気持ちを大きく揺さぶっている。

 隠花はそう推測したからだ。


「そうだ。誰よりも欲求が強いからな。食欲、物欲、性欲、承認欲求、様々だ」

「じゃあ、欲求が強ければホーリネスじゃなくても実体化するとか……?」

「実例は無いが、理論上はそうだな」

 蝕美は一通り話を終えると、病室の窓から外を眺めた。

 結局、話を聞いてもますます謎が深まるばかりだった隠花は、タリスマンをぎゅっと握りしめて少しだけ俯いた。


「気が済んだか?」

「あ、あの! あと一つだけ……いいですか」

「言ってみな」

「ひがんちゃんは、どうして魔女になったんですか?」

 隠花が騎士魔女リコリスのルーツを申し訳なさそうに聞いたが、瞳には好奇心の光が宿っていた。


「ひがん……」

「マスター、話して」

「ああ、分かったよ」

 だが、蝕美の表情が少し暗くなると、隠花はキョロキョロしだした。


「単刀直入に言えば、復讐だ」

「えっ」

「ひがんの両親は、何者かの手でホーリネスにされてしまったんだよ。父親も、母親もだ」

 そんな重い事実に、隠花は思わず口を手で塞いでしまう。


「ホーリネスを野放しには出来ない。だからひがんは自分の手で自分の父親と母親を討った」

「そんな……。あっでも、精神世界内で成敗しても現実では生きているんじゃ!」

 隠花は塞いでいた手をどかし、制服のスカートを握りしめて必死な眼差しで訴えた。


「あれを生きているというべきかと言われると、疑問だがな……」

「えっ……」

「ひがんの両親は、パラライトの寄生度合いが強かったせいで、成敗したら精神が壊れてしまった。今では娘であるひがんの事も思い出せない、何も無い白い部屋の中で一日中点滴に繋がれている」

「ひどい……」

 この時隠花は、顔から血の気が引いていた。

 戦いに敗れると死ぬより恐ろしいと言われていた事の真意を理解したからだ。


「私はやるよ。必ず仇をうってみせる」

「ひがんちゃん……」

 今まで何も言わなかったひがんは、そう告げた。

 相変わらず表情の変化は乏しいが、逆にそれが頼もしさを感じさせた。


「私も頑張る。こんな酷い事をさせないし、繰り返したらいけない」

「うん」

 そして今まで涙目だった隠花も、はっと我に返り拳を強く握りしめてそう告げた。

 隠花はこの時、決意と覚悟に満ちた表情をしていた。

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