3-6
隠花とひがんは、アンズの自爆攻撃に巻き込まれた。
隠花を守ったひがんは、まるで死んでしまったかのように微動だにしない。
やがて客と隠花の只ならぬ様子に気づいた店員によって、救急車が呼ばれた。
救急車はサイレンを鳴らしながら店へ来ると、ひがんは担架に乗せられて救急隊員と共に救急車の中へ入っていく。
隠花も付き添いのために救急隊員の後を追って乗車した。
そして二人は、町内の大病院へ向かう事となった。
病院へ向かう最中、蝕美への連絡をした。
病院内、待合室にて。
隠花が病院に到着した時には、既に蝕美は救急外来専用の待合室に居た。
蝕美は一見平静そうだが、白いシャツが少し汗ばんでいる。
だが隠花はその蝕美の様子にも気づかず、彼を見つけると真っすぐそちらへ向かい……。
「マスター! ひがんちゃんが……、ひがんちゃんが!」
声を震わせ、涙目になりながらそう訴えた。
「おちつけ」
「ひがんちゃんが……倒れちゃって! 私のせいで!」
「いいからおちつけって」
だが蝕美は冷静に、いつもよりも強い口調でそう告げた。
「……はい。すみません、取り乱してしまって」
その様子にはっとした隠花は、涙の溜まった瞳を手で拭った。
「何が起こったか、話せるか?」
「はい」
冷静さを取り戻した隠花は、蝕美へ先ほどの出来事を話した。
「――というわけです」
「なるほどな。それなら命に別状はない。大きく疲弊はしているだろうが……」
隠花は話し終えると、蝕美は腕を組みながら何度か頷いた。
「……すみません」
「お前のせいじゃないぞ、むしろお前が居なければ最悪の結果になっていた」
「で、でも! 魔女は精神世界でやられると、死ぬより恐ろしい事が起きるって前に言ってた……」
「そうだ。だがお前のお陰でそうなるのを防げた」
「えっ……」
「ひがんが一人じゃなくて本当に良かった。お前が居てくれて助かった……」
この時、蝕美の険しい表情が少し和らいだような気がした。
それはひがんの事を本当に大切にしている気持ちの現れなのだろうと、隠花は察した。
「だが自爆するホーリネスか……」
「マスター……?」
「あぁすまない。考え事をしていた。ともかくひがんは無事だ。そんな心配するな」
「…………」
「ところで、精神世界でアンズ以外の人物に会ったか?」
「えっ、いや……特には」
「そうか、ならまあいい。今後の作戦を考えたり、ひがんの治療でしばらく時間を貰うぞ」
「はい、でもひがんちゃんのそばに居させて下さい!」
「おいおい、今日はもう帰れ。ここは俺が居るからお前も休め」
「で、でも」
「ホーリネスと戦う時、ひがんが復帰してもお前が倒れたら意味ないだろう?」
こうして隠花は帰宅を余儀なくされ、病院には蝕美が残る事となった。
隠花は蝕美に一つだけ大きく頭を下げた後、家へと帰っていった。
帰宅途中、通りすがりの人達はロリータ服の隠花を見ていたが、隠花に恥ずかしがる様子は無かった。
それから数日後。
蝕美から、今まで目を覚まさなかったひがんが目を覚ましたという連絡を受けた。
隠花は授業を終えると急いで学校を抜けて電車に乗り、ひがんが居る病院へと向かった。
ひがんが居る病院にて。
「ひがんちゃん!」
「なぁに?」
隠花は病室の扉を開けた。
するとそこには、本を片手に持ってベッドの上に座っている、いつも通り無表情なひがんの姿があった。
「ひがんちゃん! ひがんちゃん!」
隠花は泣きながらひがんに抱きつき、彼女の目覚めを喜んだ。
「くるしいよ」
「えっ、あっ、ごめん……」
しかし、抑揚なくひがんにそう言われると、隠花は慌てて離れて涙を手で拭いた。
「明日には退院出来るぞ。体力が極端になくなっていただけだからな」
「よかった……」
一緒に居た蝕美は、口角を少しだけあげながらそう告げた。
この時隠花は、ひがんの顔色がいつもより青白いように見えたが、蝕美の言葉を信じる事にして何も追及はしなかった。
「あの、マスター。ずっと気になってたんですが……」
「なんだ?」
「精神世界で攻撃を受けても傷つかないのはどうしてでしょう? そもそも精神世界って一体なんでしょう?」
ひがんは目線を何度か逸らしつつ、質問した。
今まで隠花やひがんが魔女として活躍してきた精神世界。
隠花はその世界の事を何も知らなかった。
だがひがんが傷ついた事もあり、このまま知らないままではいけないと思ったのか?
隠花は意を決して蝕美に聞いたのだ。
「ふむ、そんなに知りたいのか?」
「はい」
「分かった。長くなるが正式な魔女だからちゃんと聞けよ」
そう言うと蝕美は、近くにあった椅子に座る。
ひがんはじっと隠花の方から視線を逸らそうとしない。
何かを察した隠花は大きく息を一つ飲みこみ、蝕美の方を向いた。




