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3-5

 隠花とひがんは、次の標的が居るコーヒーショップへと向かった。

 その道中にて。


「隠花ちゃん」

「うん? どうしたの?」

 歩いている最中、ひがんが急に立ち止まった。

 隠花も慌てて止まり、ひがんの方を向いた。


「あの世界で私を呼ぶ時は、リコリスって呼んで」

「えっ? あ、うん」

 隠花はリコリスが彼岸花の別名である事を知ってたので、ひがんがそう自称するのをすんなり受け入れる事が出来た。


「やっぱり魔女の正体は内緒にした方がいいんだよね?」

「うん。精神世界での出来事は覚えてないから大丈夫だとは思うけど、もしも本名がばれると現実で狙われてしまうから……」

 創作物の世界において、変身ヒーローモノは正体がばれないよう暗躍する。

 なんていうのは、サブカルに通じている隠花なら難なく理解する事が出来た。

 だからこれ以上は何も聞かず、大きく頷いた。


「じゃあ私も何か考えないとかな!」

「うん」

「何がいいかなぁ、うーんうーん」

 姫という憧れていた存在、誰かを守る存在。

 そんな可憐で、優美で、頼もしい名前をどうにか決めようと隠花は首をかしげて考え始めた時。


「カイカって呼ぶね」

 ひがんはそう一言告げて、再び歩き出した。


「えっ? う、うん」

 隠花は自分の名前の由来を知っていた

 隠花とは本来、花を咲かせない植物の総称として使われていた言葉である。

 両親は、目立たなくても粘り強く慎ましく生きていけるようにと敢えて飾り気の無い名前を娘に与えた。

 だからこそ、真逆の意味の言葉にとても違和感を覚えており、友人ひがんが付けてくれた名前であっても素直に喜ぶことが出来ず複雑な表情をした。



 繁華街にあるコーヒーショップにて。


「ここだね」

「うん」

 コーヒーショップは全国チェーン展開されているだけあって、蝕美の店とは違いほぼ満席だ。

 客層は女性が多く、ノートパソコンを広げて作業をしている人や、期間限定のフラッペ片手に海外の言語で書かれた小説を読んでいる人がいる。


「あの人」

 その中で、ひがんは白とピンク色の甘ロリ服を着た女性の方を指さす。

 隠花は蝕美から送られたデータとその人物を見比べ、アンズである事を確認すると二人は店内に入り近づいていき……。


「アンズさんだね」

「あ、あんたは! ランキング一位のひがん!」

 アンズが身をすくめている最中。

 隠花は、メイクのせいか顔色が良くない事と、夜空を彩る星のような強い輝きを瞳の中に感じた。


「何? あたしが急にランキング上がったから気になってきたわけ?」

「うぅん」

「はっ、一位だからまだ十位台のあたしは眼中に無いって事! 嫌味な女!」

 この時、アンズのランキングが五十位以下から十位台に上がっており、関係者の間では最もホットで勢いのあるモデルと注目されていた。

 だが元々他人にあまり興味の無いひがんはその事を知るわけもなく、知ったところで湖に波が立たないくらいに何も思う事は無かった。


「あなたに伝える事があるの」

「何? お祝いの言葉? それとも調子に乗るなって警告?」

 アンズは腕を組んで、座ったまま半笑いをしてひがんにそう告げる。


「あなたのキラキラした生活は終わり」

 ひがんはそんなアンズの態度を意も介さず、いつも通り精神世界で光の寄生者と戦う言葉を発する。


 すると背景はたちまち白黒になっていき、今まで居た人たちは居なくなっていく。

 やがてアンズと、魔女衣装に身を包んだ隠花とひがんだけになった。


 隠花は先端が王冠のようになっている杖を両手で持ち、身構えた。

 いつもなら、精神世界内のホーリネスは獣のようになって襲い掛かってくるからだ。


「うぐっ……」

 しかし、アンズの様子は違った。

 アンズは過去に成敗した紫陽花やG2と違って、見た目上の変化は一切ない。

 その代わり、胸と口に手を当てながら椅子から転げ落ちていった。


「ん? これは……」

「げほっ! げほっ、おぷっ」

 転げ落ちた直後アンズはうずくまったまま、何度も嘔吐しだす。

 嘔吐物はホワイトの修正液のように、不自然な程白く輝いている……。


「ね、ねえひがん……あっ、リコリスちゃん。今までと様子がちょっと違う……」

 アンズは襲ってくる様子は無く、それどころか逆に苦しんでいる。

 今までにない状況変化に、隠花はひがんの方を見ておどおどとするが……。


「まずい! カイカちゃん下がって!」

「えっ……」

 ひがんは何かに気づき、隠花を抱きかかえた瞬間。

 今まで苦しんでいたアンズの全身が発光すると瞬く間に爆発する。


 激しい頭痛を伴う爆発音、白黒の精神世界を純白に染め上げる光、全てを吹き飛ばしなぎ倒す突風、太陽を目前としたような高熱。

 それらは精神世界内を駆け、隠花とひがんへ容赦なく襲い掛かった……。


 …………。

 …………。

 …………。

 …………。


「う、ううん……何が一体……」

 隠花が気かづいた時、床に倒れている事に気づく。

 頭を抱えたまま、隠花は上体だけを起き上がらせて閉じた瞼を開いた。


 そこは、アンズが居たコーヒーショップだった。

 風景の色は戻っており、先ほどの爆発が嘘のように店内は平穏な事から、隠花は現実世界に戻ってきた事を察した。


「はっ、ひがんちゃん! ひがんちゃん!」

 だが、無事ではないものもあった。

 ひがんは目を閉じたままぐったりとしていて、隠花の呼びかけにも一切答えない。


「そんな……、私を庇って……」

 ひがんが倒れた理由。

 それはアンズの自爆攻撃に対し、ひがんは咄嗟に身を挺して隠花を守ったのだ。


「お、おい大丈夫か?」

「急に人が倒れたぞ……」

「一体どうなってるの?」

 コーヒーショップ内に居た人たちは、隠花と目を覚まさないひがんへ集まっていく。


「ひがんちゃん! ひがんちゃんー!」

 隠花は泣き叫ぶが、それでもひがんは動かなかった……。

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