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3-1

 隠花が正式な姫魔女となってから数日後の休日、駅近くの噴水がある広場にて。


「…………」

 隠花はこの時、人に会う約束をしていた。


「…………」

 だが、隠花は常にもじもじしており、どこか落ち着きがない。


「隠花ちゃん。ごきげんよう」

「あっ! ひがんちゃん!」

 隠花は多くの人が通る広場の中から、誰かを探すかのようにきょろきょろしていた時だった。

 今日待ち合わせを約束した相手であるひがんと出会う。


 ひがんの今日の衣装は、大きく膨らんだパフスリーブと胸元に金糸で十字架の刺繍をあしらった黒色のワンピースだ。

 胸から上の部分が白地のため、まるでシスターが着る修道服を彷彿とさせる。

 姫袖とスカートの裾部分はフリルをあしらっていて、可愛さと清楚さを周囲に印象付ける。

 また、袖の端は金色の布で縁取りされている所から、優雅な雰囲気も兼ねている。


 対して隠花は、何の飾り気も無いベージュのシャツに茶色のスカートをはいている。

 背中に背負っているリボンのついた黒色のカバンと、おさげを結うピンクのゴムでいつもより色のあるコーディネートではあるが、どうにか頑張っておしゃれをした感が否めない。

 総じて、隠花の地味な印象はぬぐえずにいる……。


「あ、あの……」

「なぁに?」

「本当に……行くの?」

 ひがんと出会っても、隠花はずっともじもじしていた。

 顔も若干赤面しており、どこか恥ずかしそうにしている印象が強い。


「うん。ついてきて」

「えっ、う、うん……」

 そんな隠花に対し、ひがんはいつも通りの無表情のまま歩き出す。

 隠花はもじもじしたまま、ひがんの後をついていった。



 ひがんについていく事、数十分。

 商業施設が入ったビル内にて。


「ここ」

 たどり着いた場所は、入り口にロリータ衣装を着せたトルソーが飾ってあり、入り口から見える店内は白磁のクラシカルな家具や金色のシャンデリアで彩られており、まるで中世ヨーロッパの絢爛豪華な宮殿内を思わせるような作りになっている。


「あ、あのねひがんちゃん」

「なぁに?」

「入るん……だよね?」

「うん」

 隠花がひがんと待ち合わせた理由。

 それは数日前に姫魔女として活動を決めた直後の話。


 隠花はひがんにロリータ服が好きである事を打ち明けた。

 その後、ひがんはそれに対しては特に感想を言わず、ただ日時と待ち合わせの場所を指定してきたのだ。


 隠花はその時、何をするかひがんに聞いた。

 そして、ロリータ服のお店へ行く事を告げた時、顔を真っ赤にさせたのだ。


 隠花は断ろうかとも考えた。

 ただ、久しぶりに出来た友人の誘いともあって断れず応じる事となった。


 そんなわけで……。

 こうして、ロリータ服を販売するお店の前まで案内されたわけだが……。


 隠花の心には、まだ決意が足らなかった。

 このまま反転し、喫茶店でお茶して帰ろうとも考えていた。


「ああっ! 先入っちゃった! 待ってよー!」

 だがひがんはそんな隠花の気持ちを察してなのか察せずなのか、何も言わず店内へ入っていってしまった。

 隠花はひがんを置いていく事も出来ず、大きく息を飲みこむと意を決して店内へ踏み込んだ。


「うわぁ……、すごい……」

 隠花は圧倒されていた。

 店内にある服全てが、フリフリのロリータ服だからだ。

 隠花の心中は憧れと、喜びと、恥じらいが渦巻いていた。


「いらっしゃいませひがんお嬢様」

「ごきげんよう」

 店内に入ると、フリルをふんだんにあしらったセミロング丈のワンピースを纏った女性店員がこちらへ来て、ひがんへ頭を軽く下げた。

 服装は甘く可愛らしいが、応対はきりっとしていて清々しい印象が強い。


「今日はご友人の方とご一緒ですか?」

「うん」

「ようこそいらっしゃいました。私がここの店主の飾城(かざしろ)と申します」

「へ? あ、あの、咲良倉隠花です……」

「隠花お嬢様。今日は数あるショップの中から、私のショップに足を運んでいただきありがとうございます。ゆっくりしていってくださいませ」

「えっ、あ、は、はいっ! お構いなく……」 

 ロリータショップ店主の飾城は、初めてくる地味な格好の隠花に対しても、丁寧に接した。

 隠花は意味もなくきょろきょろとした後、頭を大きく下げた。


 ついに隠花は、ロリータ服のショップへ入ったのだ。


「ほぇ~……」

 隠花は周囲の風景に圧倒されていた。

 今まで着たくても着れなかったけど好きな服で囲まれていて、憧れの世界が手を伸ばせば直接触れる領域まで近づいているからだ。


「…………」

 隠花は周囲をうかがい、ひがんが真剣に服を選んでいて自分を見ていない事を確認すると、ドキドキさせながら、飾られたロリータ服を触れようとゆっくりと手を伸ばしていく。


「隠花ちゃん」

「え、は、はいっ!」

 突然声をかけられた隠花は、思わずその場で飛び退いた。

 まるでロリータ服に魅了されていたのではないのかと思うくらいに真剣で、声をかけられるまで一切気配を感じず不意を突かれたからだった。


「これ」

「えっ?」

 まだ胸の高鳴りが残っている最中。

 ひがんは隠花へ一着のロリータ服を手渡そうとする。


「きっと似合う」

「えっ、う、うん」

 ひがんが選んでくれたデザインは、隠花は一目見て良いと感じた。

 でもまだ隠花の中の遠慮と羞恥心が、ひがんの差し出した服を受け取るのを拒んでいた。


「じー」

「う、うーん……」

「じー……」

「……すみません、これ下さい」

「隠花お嬢様。お買い上げありがとうございます」

 だが隠花はひがんの口より物言う視線に負けてしまい、差し出した服を受けるとショップ店主の飾城へ渡した。

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