2-5
絶頂だったG2は転落した。
そしてその事は、本人も嫌というほど分からされた。
「お前か! このクソ痛女! お前のせいで俺の人生滅茶苦茶だ!」
「本当よ! どうしてくれるわけ!」
「ふぅん。あなた達がいえる事なの?」
二人のならず者が落ちていく様を見ても、ひがんはいつも通り無表情だった。
「はあうるせえ! 俺が輝く為の犠牲だ! 弱肉強食なのわかる?」
G2は唾を飛ばしながら強い口調でひがんへ語った。
「折角キラキラしてたのに、何なのこの馬鹿ビッチは!」
共謀していた女子高生は、瞳を潤ませ下唇を震わせながら怒りの感情をひがんへぶつけた。
「あなた達の身勝手な理論なんて知らない。でもこれだけははっきりと言える」
だがひがんは表情を変えず、毅然とした態度のまま二人の方を見つめると……。
「あなた達のキラキラした生活も、終わり」
かつて紫陽花に言い放った言葉と同じものを、二人に投げかけた。
「……うるせえ、俺は輝き続ける」
すると、G2と共謀していた女子高生は突然俯いた。
「……誰も俺を邪魔させねえ」
二人は俯いたままつぶやき続ける。
この時、二人の体からは光のオーラが陽炎のようにゆらゆらと湧きたつと……。
「……邪魔する奴は、何であろうとも排除するッ!」
まるで波紋が広がるように白い光が周囲を満たしていき、風景はまるでモノクロ写真のような白黒のみの世界へと変わってしまった。
「わわっ、またこれ!」
世界が変わった事と、自身とひがんの見た目が変わった事を目視した隠花は、蝕美が言っていた精神世界へ入った事を確信した。
「へへ……、やっぱフリフリだ……」
まだ二回目のせいか、隠花は周りをきょろきょろして落ち着きがない。
だが憧れのお姫様衣装を着ていられるという感覚もあるため、表情は引きつった微笑みをしていた。
「やはり二体……」
ひがんは相変わらずこの変化に動じる事無く、大鎌を持ち構えながら冷静にそう一言つぶやいた。
隠花もその言葉でG2と女子高生の方を見た。
二人とも、突如前かがみになって全身を震わせると、背中から眩い光の翼が生えてきたのだ。
そして翼を大きく広げると、ゆっくりと顔をあげていく
瞳の中には星型の光が一つ煌めいていて、今までピンク色だった唇は白くなっており、露出している肌には白い筋で模様のようなものが描かれている。
紫陽花と戦った時と同じ現象が起きたのだ。
「隠花ちゃん、戦える?」
「えっ、戦うってどうやって……」
隠花は身を引いて答えるのを躊躇った。
紫陽花の時も結局は杖を振り回しただけで、具体的にまだどうやって戦うかを知らなかったからだった。
「コロしてやる、オレのジャマするヤツ……、ミナゴロシッ!」
「キイィィィィィィ!」
G2と女子高生は、その隙を見過ごさなかった。
二体は左右に散開すると、両横からひがんへと襲い掛かったのだ。
「む……」
このままだと両脇から同時に攻撃を受けてしまうと察したひがんは、まず女子高生の方へ駆け寄ると大鎌を振るい女子高生を吹き飛ばす。
そして襲い来るG2の突き立てた爪を大鎌の柄で受け止めて攻撃を防いだ。
「はやい……!」
だが大鎌で受け止めている最中、ひがんの後方から先ほど吹き飛ばした女子高生が爪をたてて襲い掛かってきたのだ。
ひがんはどうにかG2を振り払い、女子高生の方を迎え撃とうとしたが……。
「ひがんちゃん!」
ひがんは女子高生の爪によって引き裂かれ、後ろへ吹っ飛ばされると建物の壁に体を叩きつけられた。
紫陽花との戦いでは見せなかったひがんの窮地に、隠花は表情を青ざめさせていた。
「ギャハハハ! やった! やったァ!」
「げほっ、げほっ……」
ひがんは大きく咳き込みながら、ゆっくりと立ち上がる。
爪で引き裂かれたにも関わらず外傷は見られないが、少し体をふらつかせながら立ち上がった。
「隠花ちゃん、戦うの」
そしてひがんは、隠花の方を向いて再びそう告げた。
「戦うってどうすればいいかわかんないよ!」
だが隠花は首を大きく横に振り、いつもよりトーンの高い声で言い放った。
この時隠花の瞳はうっすらと潤んでおり、体を怯わせている事から恐怖しているのは誰の目から見ても明らかだった。
「やっぱ私じゃ駄目なんだ、お姫様って浮かれる私じゃあ!」
「そんな事は無い。あなたなら出来る。信じて」
怯える隠花に、ひがんは真っすぐな眼差しを向けながらそう告げた。
「ぺらぺらシャベってるんじゃねえぞ!」
「バラバラにしてやるわ! キイイイイ!」
そして大鎌を構えて二人の攻撃に備えるため腰を深く落とす。
「オラオラどうしたァ!」
「シネシネシネシネシネ!」
ひがんは強く、本来なら手こずる相手ではなかった。
だが一方がひがんの攻撃を防ぎ、もう一方が隙の出来たひがんを攻撃するという連携は見事に噛み合っており、結果的にひがんがG2や女子高生の爪で引き裂かれたり、牙で噛みつかれたりしていた。
それでもひがんは懸命に立ち向かった。
襲い来る二人を何度も追い払い続けた。
「くっ……」
だが、どうしても片方から攻撃を受けてしまう。
外傷が全くつかないが、ひがんの動きが少しづつ鈍くなっていた。
「お願い……やめてよ……」
隠花は泣きながら懇願した。
「このままじゃひがんちゃんがしんじゃうよ……」
だが二人の攻勢は緩むどころかどんどん早く激しくなっていく。
攻撃を受け続けたひがんは、やがて片膝をついて床を舐める寸前となる……。
「トドメだしねェッ!」
そしてG2が大きく跳躍し、爪を突き立てながらひがんへと落下する。
ひがんには避ける力も防ぐ力も残させていない。
これが決まればひがんが終わってしまう。
誰もがそう思っていたその時。
「もうやめてよ! やめてって言ってるじゃない!」
隠花の悲痛な叫びと共にG2の突き立てた爪がひがんの心臓へと突き刺さる!
……はずだった。
「なにいいぃ!」
G2の爪はひがんに突き刺さる直前、ひがんの体が青白く光りだす。
そして爪は金属と金属がぶつかり合う高音を発しながら、粉々に砕けたのだ。
G2は粉々になった手の爪と無償なひがんを確認すると、すかさず後方へ跳躍し距離を開けた。
「どういうコトだ? アイツにはフセぐチカラはないはずッ」
「ワカラナイ……」
G2と女子高生は困惑していた。
お互いにG2の砕けた爪を見つめながら話し合うが、答えを見いだせずにいた。
「それでいいの」
「えっ……」
「正直になって、あなたを縛るものなんて元々ないのだから」
そんな最中、今まで膝をついていたひがんはゆっくりと立ち上がり、隠花の方を向いてそう告げた。
「ひがんちゃん……」
「自分の思いを信じて」
「私……、ひがんちゃんを守りたい!」
この時、隠花の瞳にはうっすらと涙が残っていた。
だが、表情は凛としており、しっかりと目の前で起きた現実を直視している。
覚悟と決意に満ちた姿がそこにはあった。