2話 疑惑の四人
『―さて、皆様お待たせ致しました。 早速始めていきましょう―』
『―織田信を愛する人を探し当てる運命のゲームを─』
ゲームは、唯一の三年生である織田 信が最初の対象となって幕が開いた。
「くそっ!俺からかよっ…!」
織田は、まさか自分が最初に選ばれるとは思っていなかったため、選ばれてしまったことに対して酷く苛立ち、その苛立ちを隠さずいた。
また、それと同時に他の5人は自分が最初の指名になることを恐れていたため、自分が選ばれなかったことに内心安堵し、その安堵は絶対に表に出さないよう努めた。
ただ、その安堵の気持ちも束の間で、残りの5人はこれから始まるであろうゲームへ頭を切り替える。
そして、『声』は淡々とゲーム説明に入る。
『それでは織田 信と関わりのある女性たちの説明に入ります。私からの説明は一度のみです。何卒、聞き漏らしのないようお聞きください』
『一人目は、足川 義子、織田 信 のクラスメイトになります』
『二人目は、織田 香、織田 信の妹になります』
『三人目は金澤 柑菜、現野球部マネージャーになります』
『四人目は浅井 深雪、織田 信の元交際相手になります』
『以上、四名の中から織田 信を愛する者を見事お当て頂くことになります』
『さて、次にこれからゲームの準備をいたしますので、しばらくお待ちくださいませ』
その後、『声』からは続く言葉がなかった。
『声』が止んだと思った矢先、織田がたまり溜まった不満を爆発させる。
「ちょっと待てよ!それだけで終わりかよ!もっと何か情報ないのかよ!」
織田はその怒鳴った勢いで近くの机を思いきり蹴り上げる。
「くそっ!まじでふざんけんじゃねえ!」
その後も織田は周囲の物に当たり散らす。
その様子を止める者は誰もいなかったが、大和が重かった口を開く。
「…放送も止まっているようですし、これ以上の説明はなさそうですね」
その大和の言葉を皮切りに各々が閉じていた口を開き始めた。
「どうやら、説明あった四人から織田先輩の愛している人を見つけるようだけど、あれだけじゃよくわからないね」
「てか、織田氏の妹やら元彼女が入ってるってどうゆうことですか?身内である妹に、別れた元彼女…意味不明ですぞ」
黒田と熊取が説明された女性の情報について口にする。
また、熊取が触れた妹と元彼女に対して仏間が意見した。
「そ、その妹さんと元彼女さんの二人は、とりあえず選択候補から外しても大丈夫ということでいいのかな?」
「…それはどうだろう。わざわざ選択肢に上げられた訳だから、簡単に選択外にするのはよくないと思う」
「そ、そうですよね…すみません…」
仏間の意見に対して申し訳なさそうに楠がやんわりと否定する。
そして、その否定に対してさらに腰低く仏間が頭を下げて謝っていた。
ただ、楠のその否定の言葉に対して織田が食って掛かってくる。
「ふざけんな!何が嬉しくて実の妹にそんな好意を向けられんといけないんだ!深雪の件だって、何でわざわざ別れを言い出したってことになるぞ!交際を終わらせたのは俺ではなくて、向こうからなんだぞ!俺は全く別れるつもりはなかったというのに!」
織田は頭に血が上っていたせいか、あまり話したくない別れの経緯を暴露しつつ、強く楠に当たる。
楠も織田に対して強く言い返そうとしたが、ぐっと言いたい言葉を飲み込み、
冷静を保ちながら織田に意見を伝える。
「…それでも名前が出てきた以上、考慮しないといけなくなるんでは?本来、あり得ないであろう人物を選択肢として入れてきたのだから、やはり除外はできないと思います」
楠の真剣な表情を見て、適当なことを言っている訳ではないと感じた織田も、流石に落ち着きを取り戻し始めた。
「はあ、はあ…、まあ元カノだった深雪は百歩譲って納得するとして、香は俺の妹だぞ?絶対違うだろうに何で候補の中にいるんだよ…」
「ヤンデレは妹だろうが身内だろうが関係ありませぬぞ」
「てめえ、俺の妹が実の兄に欲情してるって言いたいのか!?」
場を和まそうとフラットに発した言葉により、再度織田の怒りの火に油を注いでしまった熊取は、謝りつつも早口でまくし立てる。
「ひえっ!ごめんなさいっ!い、いや、でも今回ばかりは名前が挙がっているんですから、その可能性もやっぱり捨てられませんぞ!」
「そうだ、熊鳥の言うとおり現段階では違うとは言い切れない」
すかさず、楠も熊取の発言を援護する。
「常識的に考えてあり得ないだろ!」
「今この状況下でそんなこと通じるとでも?」
「皆さん、一端落ち着いてください!」
熱くなる織田と楠たちに対して大和も声をあげて止める。
「皆さん一度落ち着きましょうよ。今ここで誰が正解か考えても仕方ありません」
「…まあ、大和君の言うとおりだな。今説明があった女子たちのことについて何もわからないからな」
「それよりもゲームの準備をすると言ってましたが、具体的にどう見つけるゲームなのか全く分かりませぬな」
「確かに熊取君の言う通りだね。今のところ、ゲームの勝利条件だけしか教えてもらってないね」
黒田と熊取がゲームの進行について話し始めると、その話に大和や仏間も乗っかてきた。
「進行が分からなければ、さっきの4人からどう当てるのか難しいですよね」
「け、けど、説明は一回しかしないと言ってましたよ?」
「想い人を当てろと言われても、流石に情報量が少なすぎるから、何かヒントを出し続けてくれるかもしれない。そのヒントをもとに当てる感じなのかも」
「それなら、まだ何とかなりそうですね」
そんな大和と仏間のやり取りに対して、黒田が否定的な意見を発する。
「…それはどうだろう。そもそもこのおかしなゲームの主催者は女性側の立場にいるから、元々僕たちが不利なゲームにしてるかもしれない」
「なんだよ、それは!?理不尽過ぎるだろ!」
織田が声を荒げて反応するが、黒田は落ち着いて言葉を続ける。
「ですが、最初から僕たちをここで監禁できている時点で、既に状況的にも不利なんですよ」
「そ、それは確かにそうだな…くそっ」
「とりあえず織田先輩は落ち着いてください。そして、織田先輩から名前が挙がった4人の説明を改めてしてもらえませんか?」
荒ぶる織田が落ち着いたのを見計らい、楠が織田本人から改めて四人の説明をしてもらおうとした。
「なるほど、織田先輩からも情報得て、それを拙者らで推理していく感じですな!楠殿!」
「ああ、今は少しでも情報が欲しいからね」
「はあ…、分かった。今度は俺から4人について教える」
「お願いします。あまり無理強いしたくないですが、知っている情報をできるだけ全部教えてください」
頭を下げる楠を見て、織田は説明のあった四人について自ら語り始めた。
「まず、一人目の足川はアナウンスあった通り、俺のクラスメイトだ。こいつは典型的な委員長キャラだな。そのため割りとうるさい性格で交友グループは違うが、俺に突っ掛かることが結構多い気はする。ただ、好意的に見られてるかというと微妙だと思うぞ。色々口うるさい奴だったから、俺のことを好意的に見てるか正直自信はないな」
「織田先輩の話を聞く限りだと、足川さんは違いそうな気がするけど、どうなんだろう」
「大和氏よ、世の中にはツンデレというのが存在してましてな」
「いや、リアルでツンデレの人見たことないですよ…」
「けど、ジャンル違いのヤンデレは今目の当たりにしていますぞ」
「そ、それは確かに…」
「でも、ツンデレとヤンデレとふたつの要素を持つのはずるいから、確かに違うかもしれませんな」
「…」
熊取との茶番で疲労していそうな大和を尻目に、織田は二人目について語りだす。
「二人目の香だが、さっき説明であった通り俺の妹だ。年は二つ違うから大和と仏間と同じ一年だな。性格はまぁアクティブだと思うぞ。兄妹仲も良い悪いで言うならば良い方だと思うが、それでも普通の兄妹の距離感なはずだ。ちなみに彼氏有無とかは流石に好き好んで聞く話題でもないから知らん。ただ、放課後に男女友達複数人でよく出掛けてるみたいなことは、夕食時に話していたりしているな」
「えっと、織田先輩の妹さんですけど、多分僕と同じクラスの織田さんだと思います。彼女は今織田先輩が話した通り、クラスでも明るくいつも友達に囲まれている人気者です」
二人目の説明が終えたタイミングで、仏間が補足するように話した。
そして、同じ一年生である大和も続けて補足内容を話し始めた。
「おお、織田さんと仏間君は同じクラスだったんだね。織田さんは明るく可愛いってことで一年生の男子の中では結構人気者ですよ。彼氏がいるとかは分からないですけど」
「お、まさか当人以外からも情報あるとはな」
「仏間氏、大和氏の話も合わせるとなかなかの陽キャらしいですな」
仏間と大和の捕捉内容に、楠と熊取が前向きな姿勢で反応示した。
そんな様子を複雑そうな顔で見る織田は三人目の情報を語り出す。
「三人目の金澤は、2年の野球部マネージャーだ。だから楠、熊取、黒田と同級生ということになるな。性格は妹と同じくアクティブな方で、部内の男子からは評判良い奴だったな。俺も部活終わるまでよくマネージャーとして色々フォローしてもらっていた。ただ、別に俺だけ特別に優しかったとかはなく、別け隔てなく部員のフォローをしていたと思うぞ。彼氏がいるかは知らんが、容姿も良い方だから男には困らなそうな奴だと思うぞ」
織田が三人目の説明に一区切りを入れると、今度は二年生の三人が補足し始めた。
「金澤さんは、二年生の中でも有名ですね。明るく元気があるので、異性からも人気はあると思いますよ。先輩が言った通り、誰とでも分け隔てなく接する方ですからね」
「織田妹氏と似たような立場ですが、人気で言えばおそらく金澤氏の方が高いと思いますな。拙者の周りでもその可愛さは話題に出るくらいですからな。まさにギャルゲーのヒロイン!」
「ああ、俺も直接の関りはないけど、金澤さんの話題はよく聞くよ。俺のクラスからも告白しに行った奴がいるらしいし。後、誰かと付き合ってるとかの噂は聞かないな。誰かが告白しに行ったならたまに聞くけど」
三人がそれぞれ金澤について話し終えた後、織田が最後の四人目について語り始めた。
「さて、最後の四人目になる深雪…浅井深雪は、まぁ…元彼女であって一つ年下の幼馴染でもあった。ただ、学校は別の学校に通っている。性格は明るい方だとは思うが、4人の中では一番落ち着いた性格だと思う。付き合ったきっかけは去年向こうから告白してくれて、俺がそれに応じた形になる。ただ、一ヶ月前くらいに急に理由もなく別れを告げられてしまったって感じだ。俺は一緒にいても落ち着つける良い関係だったと思っていたよ。お互い相性が良かったと思っていたんだが…」
別れた元彼女の情報ということもあり、特に浅井についてコメントをするものはいなかった。
それから、全員気を取り直して、改めて語られた内容について話し合っていると、再び『声』が鳴り響いてきた。
『―さて、ゲームの準備ができました。それでは、皆様。織田 信を愛する女性を当てるよう頑張ってください』
唐突のアナウンスとともに、今まで固く閉ざされていた扉が勢いよく開いた。
開いた扉からはとても強い光が視聴覚室に向けて光照らされる。
あまりにも強い光であったため、各々が腕で顔を覆いながら目を閉じる。
大和も例外なく目を強く瞑っていたが、徐々に眩しさが和らげてきたため細目で目を開けはじめてみると―
目にした光景は視聴覚室…ではなかった。