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深呼吸すれば

作者: ピノ

深呼吸をする。

重い空気が身体から出ていて、冷たい空気が入っていく。

それを二度、三度繰り返し、意識がクリアになっていく。

朝の雰囲気は好きだ。

澄んだ空気、温かいけど眩しくない日差し。

月並みの言葉かもしれないけど、生きているという気になる。

だけど、それ以上に布団の中という最高の環境から出て、外にでなければならないことを天秤にかければわずかに面倒だなって思う気持ちの方に傾くのだ。

今私は、上はセーラ服、下は紺色のスカートという一般的な学生服を着ている。

どこをどう見ても普通の学生だし、実際自宅から徒歩15分の場所にある学園に通う学生である。

仲の良い友人からは、「コスプレ感すごい」って言われるが、それは私の顔立ちが年上に見えるという先祖代々の血筋がいけない。

大人びたというか冷めたような冷たい表情と伸ばすと面倒だけど、ある程度は女を残しておきたいという判断で決めたショートで黒い髪。

私服で友達と歩いていたときに街で「若いお母さんですね」と声をかけてきた無礼な男には、無言で目潰ししていといた。

後で警官に怒られたが、失礼な言動をしたやつが悪い。

せめて、お姉さんだろうが。

話はずれたが、今日は平日。

一応進学を希望する身としては皆勤賞とまではいかないが、なるべく問題なく普通を演じなければならない。

警察沙汰になったから今更遅いだろうとかは考えてはならない。

とりあえず、こんなところにいったて誰かが学校まで運んでくれることもなく昼になってやがて日が沈んで、夜になるだけだろう。

もう一度深呼吸をして、足動かす。


学校までの道のりは変わりないいつもの雰囲気だ。

コンクリートの固められた道、等間隔に立つ電柱と外灯、個性なんか捨ててるようで細かいところには出ているんですなんてい言い出しそうな家々時々畑や田んぼ。

田舎といえば田舎だが、真の田舎に住んでいる人たちから見ればまだ栄えている方という中途半端な街だ。

それにはまだ弱程度の日差しと青空と雲。

平和で一般的な街の風景だ。

私はその中をまだ覚醒しない意識で歩いている。

このまま歩けば学校には間に合うだろう。

なにか楽しいことはないだろうか。

そんなことを考えていると神社の前を通りかかる。

大きな少し薄汚れた赤い鳥居とその横に2mほどの石に刻まれた「青葉稲荷神社」と書かれている。

鳥居の奥にはこれまた石でできた階段が上まで伸びていて、その周りには木々がアーチのように生えている。

階段の上は広場になっており奥には神社とそれを管理する神主さんの家が建っている。

夏祭りと年末は賑わうがそれ以外はたまに信仰深いおじいちゃん、おばあちゃんが来るくらいで寂れた神社だ。

ちなみに神主さんは私の友人のお父さんで年末ここで巫女のバイトをやったこともある。

酔った近所のおじちゃんが尻を触ろうとして、手首を曲げたくらいしか印象はないが。

ちなみに警官に怒られたが、正当防衛だ私は悪くない。

そんな神社を通り過ぎしようとするが、階段の上に何かがいる。

茶色と白のトラ猫がそれは気持ちよさそうに石でできた階段の上で寝ている。

私は猫が大好きだ。

どの蔵好きといえば、友人と一緒に帰ってるときに猫を見かければ友人をほっといって猫に向かうくらい好きだ。

残念ながら弟がアレルギー持ちのため猫を飼うことはできないが、外で猫を触るくらいは許してもらっても構わないだろう。

鳥居をくぐり石段を登り猫に近づいていく。

猫は相変わらず寝ている。

これはチャンスと思う。

外にいる猫は警戒心が強い。

近づくだけで逃げられたことは両手で数えられないほどある。

あと数メートルところで猫が、首を上げる。

くりくりした緑の目をした子だ。

私は、できるだけ優しい表情を作り怖くないよって話しかける。

すると猫は立ち上がり、伸びをすると石段の上に座る。

五分五分かなと心のなかでつぶやく。

この状態で逃げられることが大半だが、逃げないっていうことは、人馴れはしている可能性はある。

また猫の毛並みが良く、身体も程よく飢えている様子はない。ということは、誰かから餌をもらっているのいるのだろう。

少しずつ近づいて人差し指を猫の顔の近くに持っていく。

猫は目は良くないが、その分鼻は良くまた猫同士の挨拶のとき相手の匂いを嗅ぐと聞いたことがある。

まずは挨拶をして猫に敵意がないこと伝える。

すると猫は私の人差し指に顔を近づけると匂いを嗅いでいく。

やがて十分嗅ぎ終えたのか人差し指から顔を遠ざけるとゆっくりと体を動かし伏せの状態になる。

これは、触ってよしっていうことなのか。

恐る恐る背中を撫でていく。

もふもふだ。

クッションやぬいぐるみとは違うもふとした感触に猫の体温がとても気持ちいい。

今度は、顔のあたりを撫でる。

嫌いな子は嫌いだが、特に頬の部分や耳の裏側そして、喉の下は気持ちいいと感じる子には仲良しポイントが大幅に上がる。

耳の裏、喉の下、頬と撫でていくと猫は目を細め気持ちよさそうにしている。

特に頬を撫でているときは、押し付けるようにしてきたのでこの子は大好きなのだろう。

ゴロゴロという音もしてるので相当リラックスしている。

ここまで気持ちよさそうにしていると撫でている私もいい気持ちになる。

そうやって猫のいろんなところを撫でていたのだがふと思い出す。

‥‥‥学校!!

そうだ私は学校に向かっていたのだ。

スカートのポケットからスマホを取り出す。

うん!やばい!

遅刻ギリギリの時間である。

名残惜しいがそろそろいかないとそう思って立ち上がると猫は私を見上げる。

その目は「もう行っちゃうの?」と訴えかけているように見える。

私だってこのままこの子を撫でていたい。

しかし、もう時間がないのだ。

すると猫は、立ち上がり‥‥‥

ごろんと転がりお腹を見せたのだ!!

卑怯だ!心の中で叫んだ。

猫にとってお腹は弱点であり、心を許した相手にしか見せない

つまりそれほど私を信頼してくれているのだ。

そして何より‥‥‥猫のお腹は一番やわらかく気持ちいい!!

心の中で学校と猫を天秤にかける。

そして‥‥‥

私は再びしゃがみ猫のお腹に手を伸ばす。

猫様と学校なんて天秤に乗っけたたら学校がはるか空の遠くに傾くくらい重さが違う。

かくして私は、お腹のもふもふを堪能するのだった。

背中を撫でるのとは違う骨もなくお肉と白い毛が私の手を包み込む。

まさに天へもの登る感触である。

そうして猫をたっぷり堪能して

時刻は、すでに1限目が始まりそうな時間である。

しかし、私はそんなことはもうどうでもいい。

猫をこれだけ堪能できたのだ。

猫も満足したのか立ち上がり身体を伸ばし階段を上がっていく

猫ももう十分なのだろう。

さてもう遅いが学校へ向かおう。

そう心に決めてじゃあねと声をかけて階段を降り降りようとする。

すると上に向かったはずの猫が鳴く。

振り向くと私のことをじっと見つめている。

まだ撫でてほしいのだろうか?

まあ、どうせ今から向かってもどうせ遅刻だ。

もう少しこの子と戯れても大丈夫だろう。

そう思って猫に近づくとするりと私をかわして石段を登っていく。

どういうことだ?

さっきは私を拒絶しなかったのに

上に登った猫は、さっきと同じようににゃあと鳴きこちらをじっと見つめている。

もしかしてついてこいってことなのか?

猫はそんな私の心を読んだようにもう一度なくと石段を登っていく。

これは面白いかもしれない。

そう思って私は、猫を追いかけることした。


石段を登っていく。

猫を軽やかに登っていくが、普通の学生である私には結構の運動量だ。

いや、もう一番上の神社に着くくらいは登ったはずだ。

バイトをしたときに何度も登っているので、たぶん私が今感じていることは合ってるはずだ。

ここは今までいた場所と違う。

不自然な点は他にもある。

鳥の声が聞こえない。

いくら人があまりいないといえど人と1人もすれ違っていない。

太陽の位置が変わっていない。

気温もまだ肌寒い朝の陽気である。

化かされた?

いろいろなことが頭の中を周り足が止まる。

もうここから帰れなくなるのではと考えると震えが止まらなくなる。

どうしようと頭が真っ白になり、自分が地面に立っていることさえ本当なのかわからなくなりかけた。

そんなとき、ふと足に温かい感触が触れる。

そこには先に行っていたはずの猫がいて、私の足にまとわりついている。

その原因を作ったのはこの子なのに

なぜか私がさっきまで感じていた不安が一気に溶けていく。

猫が私を見上げる。

その目は私を気遣うような感情を感じる。

そうだこの子が、私に悪さなんてしないはずだ。

むしろこの子から離れれば、本当に帰れなくなるかもしれない。

なにしろ私はここにこの子を追いかけて来たのだ。

深呼吸をする。

悪い空気は外へ

新鮮なわずかに冷たい空気が私の中に入っていく。

大丈夫

自分にそう言い聞かせた。

猫はそんな私の様子を見て、短く鳴くと階段を登り始める。

それを追って私は階段を登り始めた。


それからどのくらいの時間が立っただろう。

ようやく上までたどり着く

もう足が棒のように動かない。

息を整えて顔を上げる。

そこ大きな広場だった。

しかし、私が知っている神社や神主さんの家は無く、代わりにその場所には桜の木が立っていた。

ちなみに私は木々に詳しい訳では無い。

そんな私が桜の木だとわかったのは、ピンク色の花弁を咲かせているからだ。

ちなみに今は毎年短くなりつつある秋のはずだ。

秋に桜は咲かない。

いや咲く種類もあるかもしれないが、その木がつけている花は見覚えがあり確かソメイヨシノという一般的な桜のはずだ。

いやそんなことはどうでもいいそこは絶景というしかなかった。

ビルくらいの大きな木に満開で咲く花は、風に揺られてピンク色の花びらは風に揺られて、ダンスを踊るように落ちていく。

こんな風景は生まれて初めてだ。

もう秋だとかここが異世界だとかそんなことは頭から消え去り眼の前の光景をずっと見てみたいという気持ちになっていた。


暫く桜の光景に目を奪われていた私だが、猫の鳴き声が私を現実に引き戻す。

声のした足元を見るとさっきのトラ猫とその隣に三毛猫座っていた。

トラ猫はなんだか申し訳無さそうに私を見ており、三毛猫はそのトラ猫を責めるような表情をしている。

もしかしたらこのトラ猫と三毛猫は夫婦なのかもしれない、雰囲気が私の両親に良くにている。

大丈夫、ここに案内したかったのねありがとう、いいところね

しゃがんで猫の頭を撫でながら話しかけるとトラ猫はゴロゴロ言いながら目を細める。

すると三毛猫がその間に頭を突っ込んでナデナデをやめさせる。

その光景はまるで甘やかさないで下さいって言ってるようで微笑ましいなと思いながら今度は三毛猫の頭を撫でた。

すると三毛猫も気持ちよさそうに目を細め私の手に身を預け始める。

トラ猫も撫で心地が良かったがこの三毛猫もなかなかのものだ。

トラ猫より若干肉付きがいいのかもふもふ具合がいい。

暫くそのもふもふ具合を堪能していると今度は、トラ猫が私と三毛猫の間に入ってくる。

自分もかまってほしいという催促だろうか。

私は反対の手でトラ猫を撫でる。

左手でトラ猫の頬を撫で、右手で三毛猫の頭を撫でる。

両手にもふもふ。

これは天国だろう。

暫く大人しく撫でられてた三毛猫が私の手から離れ木の方に短く何度か鳴いた。

その鳴き声に応じてか少し高い猫の鳴き声がすると小さい何かが近づいてくる。

白黒、白、そして錆色の子猫だ。

トラ猫と三毛猫の子どもたちだろうか。

まっすぐこちらへ向かってくるとトラ猫や三毛猫の周りでぐるぐるまわりじゃれている。

可愛い

天使か

やはりここは天国だった。

あまりの可愛さに言葉を失った私に子猫は気づくと好奇心が強いのか靴の匂いを嗅いだり、足の周りぐるぐる回ったりし始める。

こ、これはこの子達もお触りOKってことなのか?

三毛猫とトラ猫に目で訴えかけると

2匹とも目を細め少し離れる。

これはOKというサインだろうと勝手に思い手を伸ばす。

子猫は、トラ猫や三毛猫よりも体温が高いのか温かいしかし、毛が多いいのか2匹よりも深く沈む感触があり気持ちいい。

子猫は撫でられるよりも手の動きに興味があるのか手に甘噛をしたり前足でパンチしたりしている。

中には足を登ろうとする猫もいる。

そんな微笑ましい状況を眺めながら右手と左手をひたすら動かして子猫を堪能した。


やがて子猫は私に飽きたのか、桜の方に追いかけっこしながら戻っていく桜の花びらをジャンプして取ろうとしたり、その猫に向かってタックルしたりとやんちゃの盛りなのだろう。

微笑ましいと思いながらふとなにか大切なことを忘れている気がした。

そうだ学校!

名残惜しいがそろそろいかないと行けない。

しかし、この場所から帰ることはできるだろうか?

するとトラ猫がするりと足をからめてくる

私は、トラ猫にそろそろ元の場所に戻してくれる?

と話しかける。

トラ猫はもう帰っちゃうの?

と寂しそうな目線を投げかけてくるが、三毛猫がそんなトラ猫に非難の声のように短く鳴くとトラ猫は、足から離れ桜の木に向かっていく。

三毛猫もトラ猫を追うよう桜の木の下まで歩いていく。

ついてこいってことか?と思うと視界がだんだん真っ白に染まっていく。

いきなりのことでびっくりしたが、多分帰れるということだろうと安堵を浮かべ、同時に少しさみしい気持ちになる。

意識を失う前に見たのは、仲良く並んだ2匹の猫とその周りを元気に走り回る3匹のこの猫だった。

またね

私はこころの中でそうつぶやいて、意識を失った。


気づくとそこは神社の階段だった。

鳥の声も聞こえ、神社の前の道路を一台の車が走り去っていく。

ああ、戻れたのか。

そう思い、スマホを見ると走ればぎりぎり間に合う時間だった。

立ち上がり軽く背伸びをすると深呼吸をする。

古い空気を外に新しい空気を身体に

よしと小さくつぶやいて神社を降りて学校へ向かった。


「ということがあったのよ」

昼休み。

教室で机をくっつけ弁当を食べながら私は朝起きたことを友人に話した。

反応は

「‥‥‥いい病院紹介してあげようか」

「帰りに実家でお祓いする?」

という当たり前の反応である。

まあ、信じなくてもいいあの手に残ったもふもふの感触は、私の中に残っている。

世界中の誰もが信じなくてもその感触を私は信じたい。

胸をはってそう答えると友人たちはため息をつき猫狂いもここまでくると重症よねと横に首を振った。

しかし、その話しを聞いていたのか昼休みの終わりに1人のクラスメイトが声をかけてきた。

「その詳しく教えてくれる?」

私はもふもふの同士と思ったが、のちにそれが大きな間違えだと知ることになる。

お久しぶりです。

少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。

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