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新しい最初の一歩になれたなら

授業が始まるようになって何日か経ち、学校生活も日常としてとけこむようになり日々を勉強に打ち込む、そんな毎日。

 ここで俺たちは今、ある事に頭を悩まされている。

「どうすっかな、部活」俺は眉間にシワを寄せ明理と景と貴志と冷と一緒にこれから入部する部活を相談し合い悩んでいる。

 俺は中学の頃部活はバスケをしていた。もちろん真剣に打ち込んでいたが部活の方針が県大会とかを目指すというより、楽しんで行おうというような感じだったので正直そこまで強いチームではなかった。

 そしてこの高校は偏差値が高く、最初の段階ですでに難しい内容を教えるほどレベルが高いのだが、部活動は部活動で良い成績を残すためにかなり本格的な活動をしている。

 主に勉強に力を入れている学校なのに部活動は部活動でそちらにも力を入れてなんでも高みを目指すように行われる。

 教育方針としては素晴らしい事だとは思うが、正直休まらない。

「俺は美術部に入部しようと思っているよっ」景が明るい感じにそう言う。

「俺は読書部」貴志も続けて言う。

「ん?もしかしてどの部活に入るか悩んでいるの俺だけだったりする?」皆が俺と同じように悩んでいて相談し合っているつもりでいたんだが、景も貴志も既に入部する部活を決めているらしい。

「私もまだどの部活に入るか決まってないよ」明理がフォローするように言う。

「よかったー。決まってないの俺だけだと思ったわ。明理は中学の頃は手芸部だったよな。ここでは続けないのか?」明理に訊く。

「ある程度基礎もしっかりと出来て作りたいものも一通り作っちゃったから高校では新しい事にチャレンジしたいと思っているよ」

「新しい事にチャレンジか。スポーツ系だと最初からある程度のレベルを求められるけど、さすがに全部の部活が最初から一定のレベルを求められるわけでも無いし、新しい事に挑戦するのも良いかもな」なるほど、と俺は明理の考えに首肯する。

「冷はどの部活にするか決まっているのか?」今の相談もとい意見の出し合いに一言も発していない冷に向けてそう訊く。

「ぼくはどの部活にも入りません。そんな時間があったら勉強をしています」無表情のまま自分の意見をはっきりと言う。

 俺は「勉強も大切だけど高校生活は一度きりだし何か勉強以外に打ち込むのも大切だぞ?」と意見を言う。

「学生の本分は勉強です。その本質をメインに捉えるのは間違っていないと思いますし、その勉強の妨げになるのでしたら部活に入るのは本末転倒です」当然、というように言う。

「まあ、間違っていないと思うし、実際そうかもだけどそれじゃあつまらなくないか?」冷に訊き返す。

「俺も優の言うとおりだと思う。勉強が学生の本分でも、それだけが学生の全てでもないと俺は思う」貴志が冷静に自分の意見を言う。

「それはぼくもそう思っています。ですが先ほど述べたように学生の本分は勉強です。それを第一に優先するのが正しい選択だと思います」表情を変えずに相手の意見を肯定しつつも自分の考えを述べ意見をはっきりと提示する。

「清水さんの考えは正しいけど、同時に凄くつまらない考え方だと思う」二人の意見を聞いていた景がそう発言する。俺もそう思う。

「じゃあ、勉強をする為の部活を新しく立ち上げてそこで皆で一緒に勉強しようよ!」明理が気付いたようにそう提案をする。

「ええー。勉強する部活って、部活動でも勉強するのかよ」とややオーバーな表情で嫌そうに景が言う。

「確かに。勉強する部活なら部活に入っても勉強の妨げにならず勉強に時間を使える」顎に手を当てて貴志が言う。

 俺は「それなら冷が拒む理由もないよな!新しく立ち上げてみないか?」と明理の提案に賛成する。

 冷はそれを聞き「まあ、部活なのでしたら担当の先生も就くでしょうし、その先生に教われば1人で勉強をするより効率も良いと思いますが」と肯定する。

「うーん。俺も授業について行けるか正直不安だったし、担当の先生に教われるなら入りたいな」

「俺は正直勉強は嫌だけど、貴志の言うように授業について行けるか不安ではあるし部活の活動でその時間を堂々と勉強に使えて、尚且つ先生に教われるのはメリットしかないとは思うけど」貴志が冷静に言いその発言に景も気は進まないといった感じだが肯定し発言する。

「よしっ、じゃあ、俺たちで新しく部活を立ち上げよう!あ、でも部活って最低何人部員が集まらないといけないんだ?」勢いのまま部活を立ち上げようと発言をしてしまったがすぐにその為に何が必要なのか、つまり必要とされる部員の人数が疑問として浮かぶ。

 明理が生徒手帳のページを捲って「部活動を立ち上げるには最低5人必要だよ」と書かれているページを指さし俺に見せる。

「俺と、明理と景と貴志と冷でちょうど5人だな!よっしゃ、早速今日の放課後先生に新しい部活の立ち上げを認めてもらうために意見を提示して、申請するための手続きとかして行こうぜ!」と流れに乗ってやや気分が上がった状態でテンション高く言葉を発してしまう。


 

 何事もなく無事に授業が終わり、放課後、俺たちは職員室に向かい先生に部活を立ち上げるために必要な手続きとその用紙にいろいろ書いて進めていく。

 その新しい部活の立ち上げを先生方に申請しに行った時に勉強をする為の部活、と述べた時は先生は少し驚いたような顔をしていたがすぐにそれは感心だ、と肯定してくれた。

 そして、凄く意外だったのがその時冷がかなり自分から進んで行動をしてくれた。俺はてっきりあの場の流れで断りずらくなってしまっただけで内心はまだ部活に入る事を拒んでいるのかも、と思っていた。

「なんか意外だな。冷、自分から進んで部活の手続きをこなしていっているな」と半分誰に言ったわけでも無い独り言のように発する。

 すると、それをしっかりと耳に入れ聴いていた冷が「当たり前です。入りたくなかったらあの場ではっきりと拒絶していました。そうしなかったという事はあの提案を肯定していたからです」といつも通り表情を変えずに本心を提示する。

 まあたしかに冷が場の流れで自分の意見を言えなかったという事は無いか。どんな場でも自分の意見ははっきりと言うタイプだし。

 用紙を書き終え何人かの先生にその用紙の提出と話をして申請が通り無事、正式な部活として認められ設立される事となった。


 

 俺は家に帰り自室で今日習った授業内容の予習復習を終え、今日の出来事を思い返して部活を立ち上げるのが1日で終わった事に改めて驚く。普通は何日か掛かるものだし、担当の先生を誰にするか等先生側もいろいろ考えて先生たちで意見を言い合い決めるものなのに、1日で部活が立ち上がるのは結果的に良かった事だし、ありがたい事だが言い方を悪くすると異常な事でもあった。

 その日を終え布団の中で寝る。ちなみに俺はベッドより布団派だ。


 

 ぼくは学校の敷地を出て家に帰る。学校へは徒歩で通っているので距離もそれほど遠くはない位置に家がある。

 日が暮れた夜道を1人で歩き家に着く。

 誰もいない家に。

 誰もいない家の鍵を開け中に入り鍵を掛ける。

 そのまま誰もいない部屋を自分で電気のスイッチを入れ明かりを点ける。

 元々それなりに広い家だが1人でいるとその家が敷地の広さ以上に広く感じられる。

 手を洗い、制服を脱いでそのまま熱いシャワーを浴びる。

 シャワーを浴びながら、まさかぼくが誰かと一緒に部活に入って行動を共にするなんて、と思う。

 自分でも意外だった。

 まあ、勉強をするために入部したので、入部した動機はそれほど意外でもないのだが。

 浴室から出て体を拭き室内着に着替えて、冷蔵庫を開けて1人で料理を始める。

 包丁さばきは自分で言うのもなんだがプロ級のレベルに達している。

 そしてすぐに完成する。

 時短料理だけど品数は多く色々な食材を取り入れている。

 衣食住は生活の基本だ。だらけずにしっかりと行動をする。

 その後にテレビを少し観て気を休める。

 その後、今日教わった授業の内容を予習復習する。

 ぼくはプライベートな時間でも絶対に最低3時間以上は家で勉強をする。

 人によっては1日3時間の勉強は少ないと思う人もいると思うが、1人暮らしで家の事を最低限とはいえやっているとどうしても1日3時間くらいの時間になってしまう。

 勉強を終えて布団に入り電気を消して寝る。

 

 

 次の日の朝俺はいつも通り支度を済ませ学校に登校する。

 下駄箱で靴を履き替え教室に入り自分の席に荷物を置く。

 そこで周りの生徒達が遠巻きに冷を見て、

 清水さんってあの火村に勝ったんだよな

 誰とも関わろうとしないよな

 小森が友達になろうとしていたけど断っていたし

 でも海野とは一緒にいるよな

 それは、優は人付き合いがしっかりしているから気を遣っているんじゃない?

 海野は優しいもんな

 つーかやっぱり清水さん怖いよな

 でも誰とも関わろうとしないから基本的にこっちから何かしなければ何もしてこないよ?

 じゃあまり関わらない方が良いんじゃね?触らぬ神に祟りなしっていうか

 と各々話し合っているのが聞こえる。

 たしかに哲が緊張して大声で友達になってくださいと言ったから周りが当然それに注目して視線が集まるのも無理はないし、自然な事だ。

 俺は人間観察が趣味だし話の主題となっている本人でもないのですぐに気づいたが、普通こういった事は本人には気づかれないように囁き合うものだが、冷の事だ。とっくに気づいているだろう。

 俺は教室内の空気を変える為やや大きい声で「よっ。おはようさんっ」と冷に明るく朝の挨拶をする。

「おはようございます。海野さん。それと気を遣う必要はありませんよ」と俺の行動を見透かしてあいさつを返してくる。

「何か冷がそう呼んでくれって言ったからだけど、本人の前でだけでなく、他のクラスメイトとの会話の中でも冷の事みんな清水さんって言うようになったな。つーか裏番長的な位置についているぞ?」と思った事をそのまま冷に言う。

「別にぼくは必要な時以外ケンカはしませんし、基本的に誰かを殴ったり暴力を振るう事も無いのですが、周りはそうは見ていないみたいですね」と冷静に言う。

「友達を作る気が無くても、せめて俺はもっと冷に気を許せる人ができてほしいよ」本心をそのまま口にする。

「必要ありません。人は誰かと繋がる事で強くなりますが、同時に弱くもなります。クラス内でのチームワークが乱れない程度に関係が築けているならそれ以上は望みません」無表情のままそう発言する。

「いや、恐れられているから乱れていると思うぞ?」

「恐れられているという事は裏を返せばケンカを売られる事が無く、反抗してこないという事です。こちらから何かしなければプラマイゼロです。意見の言い合いは出来ませんが」

「いや、本当に冷静だな。そのメンタルの強さは見習いたい」軽い感じに言葉を返す。

 そんなやり取りをしていると景と貴志も教室に入ってくる。

「優、おはよう。清水さんとなに話してんの?」

「清水さんもおはよう」

「おう、おはよう」

「おはようございます。四季絵さん、夏目さん」と挨拶を交わす。

 その表情が一瞬、少しだけ柔らかいものになっていた事に俺は気付く。

 そこへ明理も女子同士の友達と教室に入ってくる。荷物を持っていない事からとっくに登校を済ませて自分の席に荷物を置いて教室の外で友達と話していたのだろう。

「あ、皆おはよう」もうそろそろ授業始まるよ。と挨拶をして自分の席に着く。

 俺も自分の席に向かい、その途中で冷の後ろの席の哲が羨ましそうな顔をして見ていた事に気付く。何回か話したことがあり良い奴なのを知っているので今度また話しかけてみるか、と思う。

 俺と哲はお互いを下の名前で呼び合う仲にまでなった。俺はもう友達だと思っている。

 まあ、哲は俺の事を下の名前で呼んではくれるのだが、優さん、と下の名前にさん付で呼ぶ。冷の様に距離感があるというより単に気が弱く呼び捨てで呼べないだけなのだが。

 哲は引っ込み思案だが素直で優しい性格をしている。だが、その引っ込み思案なせいでまだあまり友達ができていない。

 高校生にもなると周りは普通そこまで人に気を遣わない。自分から積極的に輪に入ろうとしないといつまで経っても友達ができないままだ。周りの方から輪に入って、とは誘わない。

 まあ冷にこんだけ気を遣っている俺が言えた事ではないのだが。

 

 

 授業が終わり放課後、部活動の時間になる。

 部活が1日でできた事にも驚いたが、その部活ができた次の日に活動をするのにも驚く。

「まさか、できた次の日に部活動をするとはな。正直驚くわ」

 先生に言われた部室に着き俺と明理と景と貴志と冷の5人はその部室の前で集まっている。

「どんな先生が担当してくれるのかも聞かされていないよな」貴志が冷静に言う。

 それは俺も心配していた事だ。別にその先生が不真面目だったらどうしよう、という事ではなく単純に緊張するからだ。この学校の先生に不真面目な先生はいない。

 するとこちらに向かって歩いてくる先生が視界に入る。

「悪いな。待たせてしまって」と聞き取りやすい声でそう言い、部室の部屋を鍵を使って開けて中に入る。

 皆が中に入り、まずはみんな好きな席についてくれ、と先生に言われ席に着く。

「早速だけど自己紹介を始める。先生の名前は天道新(てんどうあらた)だ。まだ年齢は24歳だけど、その分皆と近い距離感で接していけると思っている。よろしくな」と自己紹介をする。

 24歳か。だいぶ若いな、と思う。まあ、この学校の先生になれた時点で若くてもしっかりと実力があるのは間違いないので年齢に対する事で特に不安要素はない。むしろ若い年齢という事で先生の言うように近い距離感で接する事ができそうで良いと思う。

「しっかし、みんな授業が終わって放課後の部活動の時間になってまで勉強をしようと思うのは凄いな。先生だったら絶対勉強なんかしたいと思わないし、部活に逃げて打ち込むぞ」と笑ってそう言う。

 は?

 この偏差値の高い学校で勉強の大切さを知っている生徒が集まる中での教師の発言には相応しくない事を言う。

「正直な所先生はこの学校の教師になってまだそんなに経っていない。だから他の先生方も早く経験を積ませようとなにかの部活の顧問に就かせたがっていてな。先生自身も部活の顧問はしたかったから新しい部活を立ち上げると聞いてすぐに名乗り上げたし、周りの先生も真っ先に先生を顧問になるように進めた」

 なるほど。だからこんなにも早く新しい部活が立ち上がるのを認められ、その次の日には部活動が始まったのか、と心の中で納得する。

「先生。自己紹介は実質先生とそれに対する生徒だけです。生徒同士は既に知っている顔同士なので早く勉強を進めてください」冷は無表情で言う。

 冷!そんな言い方をしたら先生の気に障るぞ・・・!と冷や冷やする。

「たしかにそうだな。じゃあ早速勉強を始めよう!」と特に気分を悪くした様子もなく明るく勉強を始めてくれる。

 感じの良い先生で良かった。

 そして勉強を始めるのだが、驚いた事に天道先生の勉強の進め方は、考え方や捉え方、解釈の仕方が抜群に分かりやすく、それを綺麗にまとめて展開し教えてくれる。おまけに聴き取りやすい声だ。

 授業で分からなかったところがものの数分で解るようになる。

 いや、授業で教えてくれる先生だって授業を進めるのはかなり上手いのにこんなに差が出るものなのかと素直に驚く。

 周りを見てもみんな俺と同じように驚いた表情をしている。

 冷だけは無表情で、先生の言っている事をしっかりと聴き黒板に書かれている内容をノートに書き写す。

 たぶんこの天道先生は本当に勉強は好きではなく、必要な時以外は勉強をしてこなかったのだろう。本当に稀にいるんだよな、授業を聴いているだけでテストで良い点を取れたり、1時間くらいの勉強で周りの人の数時間分の内容を吸収できてしまうタイプの人間が。

 いわゆる、天才肌なのだろう。

 そうでなければそもそもあのような発言をするような性格の上24歳という年齢でこの学校の教師になる事はまず不可能だ。

 冷は遠慮なく天道先生に質問をし、先生もすぐにそれに対し答えて教える。

 あっという間に部活の活動時間が終わり、みんな帰り支度をする。

 正直今日1日だけでかなり吸収できた。

 名前の通りまさに天の道を行く先生だな、と感じた。

「それでは皆さん、失礼します。今日は充実した時間を過ごせました」と冷が少し柔らかい表情で言う。

 そういえば冷が部活に入ったのもそうだし、こうして授業以外で誰かと一緒に行動するのも、入学式の後の部活の勧誘の時に俺たちと一緒に見て回ったのを入れてこれで2回目で、少しずつでも気を許してもらえているように思える。

 表情も最初に再会した頃より柔らかくなったような気がするし、そういった表情が少しずつ増えてきたように感じる。前は全くの無表情だった。

 もちろん、もしかしたら哲に助け舟を出した時みたいに、俺たちとの行動も必要だったから一緒に行動したってだけかもしれないけど。

 それでもみんなで立ち上げた部活が冷の人付き合いや人間関係を構築する上での新しい最初の一歩になれたら嬉しい。

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